特に日本では、大人になってから昼寝をするという習慣や文化もあまりないが、そもそも慢性的に睡眠不足気味である我々にとって、昼寝文化を取り入れる動機を与える、新たな研究が報告された。それによると、定期的に短い昼寝をする事は脳の健康につながり、更に加齢による脳の縮小を抑制する効果があるという。
これまでの研究で、昼寝は認知能力を高めることが示唆されており、5分から15分の短い昼寝で、1時間から3時間効果が持続すると言われている。加齢は反応時間と記憶力を低下させ、しばしば認知障害の有病率が増加する。世界人口の高齢化に伴い、睡眠習慣など認知能力に関連する修正可能な危険因子を特定することが重要である。
そのため、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとウルグアイ共和国の大学の研究者らは、日中の昼寝と脳の健康との間に因果関係があるかどうかを調査した。
研究チームは、35,080人のバイオバンク参加者のデータを用いて、以前から自己申告による昼寝の習慣と関連している遺伝子変異の組み合わせが、脳の容積や認知力、その他の脳の健康面とも関連しているかどうかを調べた。
このような遺伝子変異は出生時に設定され、無作為に割り付けられたと仮定されることから、研究者らは、喫煙や身体活動など、人々の昼寝習慣や脳の健康に影響を与えうる生活習慣要因の影響を減らすことによって、昼寝が脳に及ぼす影響を調べることができる。
視覚的記憶と反応時間に関する認知テストがすべての参加者に行われ、研究者は一部の参加者のMRI(磁気共鳴画像装置)脳スキャンを見て、脳の構造的変化を調べた。また、昼寝の習慣を自己申告してもらった。
研究者らは、昼寝の習慣のある人と、そうでない人との脳の健康と認知機能を比較したところ、全体的に、昼寝をする習慣のある人々は、特に高齢者において、脳の健康の指標である脳の総容積が大きかった。脳の体積の減少は萎縮とも呼ばれ、軽度認知障害や認知症などの認知関連疾患と関連している。
研究者らは、昼寝の習慣がある人とない人の脳の総容積の平均的な差は、2.6歳から6.5歳の老化に相当すると推定した。しかし、海馬体積、反応時間、視覚処理といった他の指標では、両群間に成績の差は見られなかった。海馬は脳の奥深くにある複雑な構造で、記憶と学習に大きな役割を果たしている。特に海馬の容積は認知機能の低下に関係している。
研究者らは、今回の結果を踏まえ、日中の習慣的な昼寝と脳の総体積の増大との間には「緩やかな因果関係」があるとしている。
「本研究は、習慣的な昼寝と認知機能および脳の構造的転帰との因果関係を解明しようとした初めての研究です」と、本研究の筆頭著者であるValentina Paz氏は言う。「メンデルランダム化は、出生時に設定された遺伝子を調べることで、昼寝と健康結果との関連に影響を及ぼす可能性のある、生涯を通じて起こる交絡因子を回避することができます。私たちの研究は、習慣的な昼寝と脳の総体積が大きいこととの因果関係を指摘しています」。
今回の研究では、参加者がとった昼寝の時間は特定されていないが、これまでの研究によると、30分以内の昼寝が短期的な認知機能に最も良い効果をもたらし、昼間の早い時間の昼寝は夜間の睡眠を妨げにくいことが示唆されている。
研究者らは、今回の研究で特に制限される点として、参加者全員がヨーロッパ系白人の祖先を持っていることを挙げている。それにもかかわらず、この研究結果は、短時間の昼寝から得られる効果を実証しているという。
「短時間の昼寝が健康に良いことを示す今回のような研究が、昼間の昼寝に対する汚名を減らす一助になればと思います」と、この研究の共著者の一人であるVictoria Garfield氏は語った。
論文
参考文献
- University College London: Regular napping linked to larger brain volume
- via The Guardian: Short daytime naps may keep brain healthy as it ages, study says
研究の要旨
目的
観察研究において、日中の昼寝は認知機能や脳の健康と関連している。しかし、これらの関連が因果関係にあるのかどうかについては、いまだ不明である。我々はメンデルランダム化を用いて、習慣的な日中の昼寝と認知および脳構造との関連を検討した。
方法
データはUK Biobank(最大n=378,932、平均年齢=57歳)から得た。暴露(日中の昼寝)は、ゲノムワイドで既に同定されている92の独立した遺伝子変異(一塩基多型、SNPs)を用いて計測した。アウトカムは、総脳容積、海馬容積、反応時間、視覚記憶であった。逆分散重み付けを実施し、水平多面性については感度分析(Mendelian randomization-EggerおよびWeighted Median Estimator)を行った。また、結果の頑健性を確認するため、異なる日中の仮眠手段をテストした。
結果
メンデルランダム化を用いて、習慣的な日中の昼寝と脳の総容積の増大(非標準化ß = 15.80 cm3, 95% CI = 0.25; 31.34)との関連を見出したが、海馬容積(ß = -0.03 cm3, 95% CI = -0.13;0.06)、反応時間(expß = 1.01, 95% CI = 1.00;1.03)、視覚記憶(expß = 0.99, 95% CI = 0.94;1.05)との関連は見られなかった。47SNPs(日中の過度の眠気で調整)、86SNPs(睡眠時無呼吸症候群を除く)、17SNPs(UK Biobankとサンプル重複なし)を用いた追加解析も、主要な知見とほぼ一致した。水平プレイオトロピーの証拠は認められなかった。
結論
我々の知見は、習慣的な昼寝と脳の総容積の増大との間に緩やかな因果関係があることを示唆している。今後の研究では、昼寝と他の認知や脳の結果との関連や、他のデータセットや方法を用いたこれらの知見の再現に焦点を当てることができるだろう。
コメントを残す