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水の殺菌に、塩素に代わり“バクテリア”を使う日が来るかも知れない

最近では水道水をそのまま飲むという人も少なくなったが、筆者などは子どもの頃公園や学校の水道で暑い夏の日に蛇口からそのまま出る水をがぶ飲みしていた思い出がある。その水はなんとも言えない塩素の臭いのするもので、今では水道水から除去するべきものの筆頭としてあげられるものであるが、飲料水から細菌を含む微生物を効果的に除去する方法として、長年用いられてきた。だが、塩素を含む飲料水とこれらの副生成物との間に、大腸がんのリスク増加の関連性があることが判明している。また、髪や皮膚へダメージを与えるものとしても近年取り上げられることが多い。

2020年、スウェーデン西海岸のヴァーベリ市が、湖や地下水から飲料水に微生物が入るのを防ぐために、非常に目の細かいふるいを使用する限外ろ過システムを導入し、これにより飲料水に入る細菌はほとんどなくなると言う事で、消毒薬としての塩素の使用を中止した。だが、細菌叢にどのような影響があるかは不明だった。この度、ルンド大学と地元の水道会社の研究者らは、塩素を除去することが市の水道システムで増殖する細菌にどのような影響を与えるかを検証した。

「塩素はバクテリアの繁殖を最小限に抑える効果的な方法ですが、塩素と一緒に形成される副産物によって健康に影響を及ぼす可能性があるリスクがあります。塩素は、癌や胎児へのダメージに関連しており、塩素を他の方法で置き換えることができるかどうかを研究することは、それゆえ関連性があります」と、この研究の筆頭著者であるCatherine Paul氏はプレスリリースで述べている。

飲料水を運ぶパイプの内部は無菌ではない。人間の腸内に豊富な細菌叢が存在するのと同様に、パイプの内壁にも多くの種類の細菌が繁殖している。それは善玉菌だったり、悪玉菌だったりするが、これらを保護・サポートするバイオフィルムで覆われており、いわば水道管自体がマイクロバイオームの様相を呈している。これまでの研究で、飲料水に含まれる細菌は、パイプのマイクロバイオームに見られる細菌を反映しており、その多くは人間にとって無害であることが示されている。

研究チームは、6カ月間にわたり、塩素の使用を中止する前と後の数回に、ヴァールベリの配水管ネットワーク内の異なる地点から分析用の水サンプルを採取した。研究室では、水に含まれるすべての細菌のDNA配列をろ過によって特定し、データベースと比較して、水道システムのマイクロバイオームから採取した細菌を特定した。そして1年後、研究者たちは再びサンプルを採取し、最終的なマイクロバイオームがどのように変化したかを確認した。

「まるで新しいレストランが入居したかのような状態です。塩素は特定のバクテリアを殺しますが、それが他のバクテリアの餌になっていることがわかりました。期間中、細菌のビュッフェがどのように変化したかを確認することができました」と、Paul氏は述べている。

水道から塩素が取り除かれてから3ヶ月目、研究者らは、ある種の細菌が著しく数を減らしていることを確認したが、これまで確認出来なかった、ある種の細菌が劇的に増加していることを発見した:それは、捕食性のバクテリアである「ブデロビブリオ」である。この細菌は、抗生物質耐性の病原体を含む他の細菌を捕食する捕食者として有名だが、人間の細胞には無毒だ。

「この種の細菌は、これまでこの飲料水ネットワークを調査した際には見られなかったものです。おそらく、バイオフィルムの中に隠れていたのでしょう。しかし、今回、その機会が与えられたのです。私たち人間には全く無害です」とPaul氏は述べている。

結果として、限外ろ過システムの導入により塩素が不要になったという事は正しかったということが判明した。

とはいえ、限外ろ過システムは高価である。研究者らはむしろ、飲料水パイプに潜む微生物叢をより深く理解し、最終的に、塩素の代わりにバクテリアの混合物を添加することで、水道水の殺菌に活かせないかと考えた。

「我々の結論は、塩素を使わずに安全で清潔な飲料水を作ることは可能であるということです。もちろん、水道会社やその顧客にとって非常に重要なことです」と、Paul氏は述べている。

「それぞれの方法には、メリットとデメリットがあります。UVライトは効果的な方法ですが、ランプが多くのエネルギーを使用することがデメリットです。バイオフィルターは、エネルギーを全く必要としないことが多いのですが、かなりのスペースをとります。ウルトラフィルターは高価です。スウェーデンの多くの飲料水処理施設では、複数の方法を組み合わせて水を浄化しています。しかし、私たちの研究は、バクテリアに対処し、監視するための他の戦略があれば、塩素が不可欠ではないことを示しています」とPaul氏は結論付けている。


論文

参考文献

研究の要旨

モノクロラミンは、飲料水配給システム(DWDS)内の微生物の再成長を制御するために使用されるが、発がん性のある消毒副産物を生成し、硝化細菌のエネルギー源となる。本研究では、モノクロラミンを除去する前と後の3年間、超濾過水を配水する本格的なDWDSのバイオフィルムに分散した微生物群集を追跡した。群集はフローサイトメトリーおよび全長16S rRNA遺伝子配列を含むアンプリコンシークエンシングを用いて説明された。モノクロラミンの除去により、総細胞数は最大440%増加した。従属栄養細菌が増加した後、捕食性細菌Bdellovibrioが出現し、硝化コア群集に代わって低分子有機化合物を代謝する可能性のある群集が出現した。マイコバクテリウムやレジオネラの増加は観察されなかった。共起分析により、Nitrosomonas、Nitrospira、Sphingomonas、Hyphomicrobiumのネットワークが確認され、モノクロラミンはこのバイオフィルム群集を支えていたことが示唆された。一部の種は変化したニッチに進出したが、DWDS内では消費者に対する直接的な生物学的リスクは指摘されなかった。

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