約3万人の高齢者を10年以上追跡した大規模な調査から、6つの健康的な生活習慣を送る事が、高齢期の記憶力低下を大幅に減少させることが明らかになった。
これには、アルツハイマー病にかかりやすい遺伝子を持っている者も対象となっており、健康的な生活習慣のうち4つから6つの行動をとっている成人は、認知症の発症リスクを大幅に低減できることも合わせて明らかになった。
今回の研究では、高齢者コホートにおいて、いくつかの健康的なライフスタイル要因が加齢に伴う記憶力の低下に及ぼす影響を定量化することを目的としている。その目的は、特定の生活習慣要因が高齢期の記憶力低下を遅らせるためにどのような影響を及ぼすかを理解することだった。
今回明らかになった6つの健康的な生活習慣とは、
- 健康的な食事(12種類の対象食品のうち少なくとも7種類の推奨摂取量を守っている)
- 定期的な身体運動(中強度の150分以上または強度の75分以上、週あたり)
- 活発な社会接触(週2回以上)
- 活発な認知活動(週2回以上)
- 喫煙の有無
- アルコール摂取の有無
である。参加者は、健康的な生活習慣の要因が4~6個あれば好ましいグループに、2~3個あれば平均グループに、0~1個あれば好ましくないグループに分類された。
その結果、好ましい生活習慣群の被験者は、平均群や好ましくない群の被験者と比較して、10年間の記憶力低下の速度が有意に遅かったことが判明した。また、10年間の認知症発症率を見ると、生活習慣が良好なグループは、そうでないグループに比べ、90%も認知症になる確率が低いことが分かったのだ。2〜3種類の健康的な生活習慣を持つ平均的なグループの参加者は、認知症になる確率が30%しか低くなかったことから、生活習慣に健康的な行動を追加することによって、認知機能の低下を抑制・または機能を向上させることが明らかになった。
研究者らは、この研究が、6つのライフスタイル要因のうちどれが認知症予防の最適なターゲットであるか、あるいはどの要因の組み合わせが最適であるかを効果的に明らかにするために設定されたものではないことに留意している。しかし、データの内訳を見ると、健康的な食事が記憶力低下の予防に最も効果があり、活発な認知活動や定期的な運動がそれに次いでいることがわかった。
研究対象者の約20%は、アルツハイマー病のリスクを高めることが知られている特定の遺伝子変異を有していた。このグループでは、いくつかの健康的な生活習慣を組み合わせることで、記憶力の低下の速度を遅くすることができた。これは、アルツハイマー病の遺伝的リスクを持つ人でも、生活習慣を変えることでその発症リスクを抑えることが出来る可能性を示唆している。
「生活習慣の各要因は記憶力低下の抑制にそれぞれ寄与しているが、より多くの健康的な生活習慣要因を維持している参加者は、健康的な生活習慣要因が少ない参加者に比べて記憶力低下が有意に遅いことが示された。この情報は、記憶力低下を防ぐのに役立つ個人的な選択をする際に有用であり、我々の結果は、記憶力低下が修正可能である可能性を示すさらなる証拠となる。」と、本研究では結論づけている。
論文
参考文献
研究の要旨
目的
高齢者における記憶喪失を予防するための最適なライフスタイルプロファイルを明らかにすること。
デザイン
母集団に基づく前向きコホート研究。
設定
中国の北、南、西を代表する地域の参加者。
参加者
60歳以上で認知機能が正常であり、2009年のベースライン時にアポリポ蛋白E(APOE)遺伝子型判定を受けた個人。
主なアウトカム評価
参加者は、死亡、中止、または2019年12月26日まで追跡調査された。健康的なライフスタイルの6つの因子を評価した:健康的な食事(対象食品12品目のうち少なくとも7品目の推奨摂取量を遵守)、定期的な身体運動(中強度の150分以上または強度の75分以上、1週間)、活発な社会接触(≧2週間)、活発な認知活動(≧2週間)、喫煙をしないかしたこと、アルコールを飲まなかったこと。参加者は、健康的なライフスタイルの要因が4〜6個あれば好ましいグループに、2〜3個あれば平均的なグループに、0〜1個あれば好ましくないグループに分類された。記憶機能はWHO/University of California-Los Angeles Auditory Verbal Learning Testで、グローバル認知はMini-Mental State Examinationで評価された。線形混合モデルを用いて、研究対象者の記憶に対するライフスタイル要因の影響を調査した。
結果
29,072人が対象となった(平均年齢72.23歳、48.54%(n=14 113)が女性、20.43%(n=5939)がAPOE ε4キャリアであった)。10年間の追跡期間(2009-19年)において、好ましいグループの参加者は好ましくないグループの参加者に比べて記憶の低下が遅かった(0.028ポイント/年、95%信頼区間0.023-0.032、P<0.001)。好ましいライフスタイル(0.027、95%信頼区間0.023から0.031)および平均的ライフスタイル(0.014、0.010から0.019)のAPOE ε4キャリアは、好ましくないライフスタイルの人々よりも遅い記憶の低下を示している。APOE ε4のキャリアでない人々では、好ましい群(0.029ポイント/年、95%信頼区間0.019〜0.039)および平均群(0.019、0.011〜0.027)で、好ましくない群の参加者と同様の結果が観察された。APOE ε4の状態とライフスタイルのプロファイルは、記憶力の低下に対して有意な相互作用を示さなかった(P=0.52)
結論
健康的なライフスタイルは、APOE ε4対立遺伝子が存在する場合でも、より遅い記憶力の低下と関連している。この研究は、高齢者を記憶力低下から守るための重要な情報を提供するかもしれない。
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