日本のファブが最先端のチップ製造を行えなくなったのはいつの頃からだろうか。今日に至っても、日本のチップメーカーはどこもFinFETを採用するまでには至っていない。台湾のTSMCや韓国Samsungは、このFinFETすら越えて、今ではGAA FETを採用し始めているというのに。だが、日本政府と大手国内企業が支援する半導体コンソーシアム、Rapidusは、数世代ノードを飛び越え、2027年に2nmの生産を開始する予定だ。興味深いことに、同社はTSMC、IFS、Samsung Faundryに挑戦し、世界をリードするハイテク大手のチップ製造を引き受けることを目指している。
とはいえこの試みは非常に困難であり、また途方もなく高価である。現代の製造技術は一般的に開発コストが高い。研究開発費を削減するため、RapidusはIBMと提携した。IBMは、トランジスタ構造やチップ材料などの分野で広範な研究を行ってきた。しかし、Rapidusは実現可能な2nm製造プロセスを開発するだけでなく、最新の半導体製造施設を建設しなければならない。Rapidus自身は、2025年に試験的な2nmチップ生産を開始し、2027年に量産体制に移行するには約5兆円もの巨額の費用が必要だと予測している。
逆に言えば、こうした膨大な研究開発費と工場建設費を回収するために、Rapidusは最先端で高価でも需要がある2nmチップを大量生産する必要があるのだ。日本企業からの需要だけでは不十分なため、RapidusはGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)などの巨大IT企業からの受注を模索している。
「米国のパートナーを探しており、GAFAMとも話し合いを始めている。具体的には、データセンターからの(チップの)需要があり、現在、彼らが思い描く半導体を作れるのはTSMCだけだ。そこにRapidusが参入する」と、Rapidusの小池社長は日本経済新聞のインタビューで述べている。
チップ設計コストの高騰にもかかわらず、人工知能(AI)やハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)アプリケーション向けに独自のカスタム・システム・オン・チップを開発する企業が最近増えている。AWS、Google、Metaのようなハイパースケーラは、AMD、Intel、NVIDIAのような企業が提供する既製品を、より自社に適したものに置き換えるために、すでに数多くのチップを自社開発している。
これらの企業は通常、TSMCに依存している。TSMCは競争力のあるノードを提供し、歩留まりを予測し、さまざまな製品でIPを再利用できる傾向があるからだ。そのため、ハイテク大手からの注文を確保することは、新興企業にとって挑戦的である。しかし、カスタムシリコンを必要とするハイパースケーラの数は増加しており、日本企業が競争力のある技術、高い歩留まり、適正な価格を提供できるのであれば、1つや2つはRapidusを選ぶ企業も出てくるかもしれない。Rapidusの戦略は完全に根拠のないものではない。
とはいえ、RapidusはTSMCのように幅広い顧客にサービスを提供するような、TSMCのビジネスモデル全体を模倣するつもりはないことも明らかにしている。その代わり、Rapidusは5社程度の顧客から始め、徐々に10社まで拡大し、さらに多くの顧客にサービスを提供したいか、また提供できるかを見極めるつもりだ。
「私たちのビジネスモデルは、すべての顧客のために製造するTSMCのようなものではありません。最初は多くても5社程度から始め、最終的には10社まで拡大し、それ以上増やすかどうかも検討します」。
このような限られた顧客ベースが、2027年までに2nm生産を開始するために必要なRapidusの巨額投資を回収できるだけの需要と収益を生み出せるかどうかは不透明だ。また、最先端技術で製造されるチップに投資する準備ができている企業の数が限られていることや、TSMC、Samsung Faundry、IFSのような既存プレーヤーとの競争を考えると、2027年までに5つの重要な2nmの受注を確保することさえ難しいだろう。
しかし、日本政府の立場からすれば、Rapidusはそれ自体が金儲けの機械というよりは、日本の先端半導体サプライチェーンを活性化させるための触媒と見なされている。そのため、2nmプロジェクトがすぐに成功しなかったとしても、地元のチップ設計者により多くの機会を創出するための足がかりとして正当化することができる。
Rapidusは2023年4月時点で100人の半導体エンジニアを採用しており、年末までにこの数字を倍増させる計画だ。エンジニアの初期グループは現在、IBMのアルバニー・ナノテク・コンプレックスでトレーニングを受けている。同社は、2025年にはすでにパイロット生産に300人から500人のエンジニアが必要になると考えている。
収益に関しては、小池氏は2nmチップの見積もりは現在日本企業が製造しているチップの10倍になると予測している。というのも、現在日本で利用可能な最先端プロセス技術は45nmであり、完全に償却されたファブで使用されるため非常に安価なノードであり、新しい設備を必要としないからである。
日本政府をはじめ、Rapidusの支援には、デンソー、KIOXIA、MUFG銀行、NEC、NTT、Softbank、Sony、トヨタ自動車といった、そうそうたるメンバーが加わっている。2nmプロセスの実現に向けて、研究開発から量産に至るまでに5兆円(350億ドル)の予算が必要になると見積もられている。日本政府は、2年間で約2,000億円の補助金を出すことで合意しているが、他の日本企業はRapidusへの投資をためらっているようだ。例えば、日立製作所はRapidusへの投資に消極的だが、その代わりにRapidusの製造技術向上を支援するため、製造・計測機器と関連専門知識を提供することを選んだ。同社が多額の資金を必要としていることは明らかであるため、CEOは新規株式公開(IPO)による追加資本の調達を検討している。
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