コロナ禍が終わり、徐々に日常を取り戻す中で変わったことにリモートワークを廃止、また縮小した企業が少なくないことが挙げられる。それによって“通勤”の習慣も徐々に戻りつつあるが、この通勤とメンタルヘルスの関係性について興味深い結果が報告されている。韓国の仁荷大学病院の最新の研究によれば、通勤時間とうつ病の発症率に一つの関連性が認められたとのことだ。
韓国はOECD加盟国の中で平均通勤時間が最も長く、うつ病の発症率も最も高いとされている。だが、長時間の通勤が健康に及ぼす影響に関する研究は、アジア諸国ではほとんど行われておらず、身体的な影響がうつ病などの精神的な健康不良にどのように関連していくのかも理解されていない。
仁荷大学病院産業環境医学科のLee Dong-wook教授が率いる研究チームは、20~59歳の賃金労働者23,415人を対象とした韓国で全国的な調査を行い、通勤時間が60分以上の人は30分未満の人に比べ、うつ病になる可能性が1.16倍高いことを明らかにした。
Lee氏らは、2017年に実施された全国代表調査である「第5回韓国労働条件調査」の現役世代に関するデータを掘り下げた。
調査参加者は、世界保健機関(WHO)の5段階の幸福度指数に基づく質問に答え、研究者らはそこから精神的健康度を点数化した。
1日の平均通勤時間は47分だった。これは、5日間働いた場合、週に4時間近く通勤していることになる。
回答者23,415人のうち4分の1が抑うつ症状を経験したと回答している。
この研究は因果関係を示すものではないが、男性の1時間以上の通勤時間とメンタルヘルスの低下との関連は、未婚で週52時間以上働き、子供のいない人に最も強かった。
女性では、低所得労働者、交代勤務者、子供のいる労働者において、長時間通勤が抑うつ症状と最も強く関連していた。
研究者らは、『Korean Biomedical Review』誌に、「時間に余裕がない人は、睡眠、趣味、その他の活動を通じてストレスを解消し、肉体的疲労と闘う時間が不足している可能性がある」と、説明する。
この分析では、年齢、週の労働時間、収入、職業、シフト勤務など、メンタルヘルスに影響を与える可能性のあるすべての要因を調整したが、家族歴など、抑うつ症状の個人的な危険因子の多くは説明できなかった。
韓国の全国調査データでは、通勤者が利用した交通手段も特定されていない。しかし、自動車から自転車や徒歩などのアクティブな交通手段に切り替えることで、通勤者のメンタルヘルスが向上する可能性があることは、その他の研究から明らかになっており、一概に“時間”と言う観点だけから論じることは出来ない。
通勤時間が長くなることで、見落としてはならないプラス面もある。通勤者の中には、帰宅時間が長いことを「スイッチを切る」、あるいは仕事から切り離す良い時間だと表現する人もいる。
また、今回の韓国の調査はパンデミックが流行する前に実施されたもので、働き方が劇的に変化したことは注目に値する。
「通勤時間の長さと抑うつ症状の悪化との関連は、低所得者層でより強いことがわかりました」と研究者たちは指摘している。
「しかし、在宅勤務へのシフトは、低所得者層よりもホワイトカラーや高所得者層で急速に進んでいる」。
「交通手段の改善によって移動時間と距離を短縮することは、人々にとってより良い通勤環境を提供し、健康を改善する可能性があります」と研究者らは結論付けている。
論文
- Journal of Transport & Health: Association between commuting time and depressive symptoms in 5th Korean Working Conditions Survey
参考文献
- Korea Biomedical Review: Commuting over 60 minutes increases depression risk by 1.2 times: study
研究の要旨
はじめに
通勤は労働者にとって必要不可欠な活動であるが、うつ病に及ぼす潜在的な有害影響についてはまだ明らかにされていない。本研究では、OECD諸国の中で平均通勤時間が最も長く、抑うつ症状が最も高いとされる韓国において、通勤時間の長さと抑うつ症状との関連性を検討した。
調査方法
20~59歳の賃金労働者23,415人を対象とした全国代表的な横断調査である韓国労働条件調査を用いた。世界保健機関(WHO)の5つの幸福度指数(Five Well-Being Index)の合計点が13点未満の患者を抑うつ症状を有すると定義した。通勤時間、抑うつ症状、および性、年齢、学歴、収入、地域、配偶者の有無、子供、職業、週労働時間、交代勤務などの共変量間の関連を検討した。
結果
通勤時間が短い場合(30分未満)と比較すると、通勤時間が長い場合(60分以上)は抑うつ症状と関連していた[オッズ比=1.16;95%信頼区間=1.04-1.29]。長い通勤時間と抑うつ症状との有意な関連は、男性40~49歳、女性20~29歳で観察された。低所得(男性、女性)、ホワイトカラー(男性)、週40時間労働(男性)、交代勤務なし(男性)またはあり(女性)、未婚(男性)、子供がいない(男性)または2人以上(女性)などの因子で層別化した場合にも、長時間通勤は抑うつ症状と有意に関連していた。
結論
本研究は、性別、年齢、収入などの社会人口統計学的特徴に基づき、通勤時間と抑うつ症状との間に差のある関連を示した。様々な社会経済的条件は、通勤者のメンタルヘルスに影響を与える。通勤時間が抑うつ症状に及ぼす影響を軽減するためには、これらの特徴に適したアプローチが必要である。
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