新しいPCやスマートフォンを購入する際、重要な要素としてあげられる物の1つにRAMの容量がある。
RAM(ラム)はコンピュータが開いたプログラム、ドキュメント、ブラウザ・タブ、その他OS(オペレーティング・システム)が機能するために必要なありとあらゆるものの処理を行ったり、画面上に何かしらのデータを表示したりするときに使う作業用のメインメモリ(主記憶装置)だ。RAMのデータは頻繁に書き換えられ、電源が切れると作業に使っていた一時データも消える。
これに対し、ハードディスクやフラッシュメモリーは、データの転送速度は低速となり、長期的なデータ保存を目的として設計されている。
RAMとは何か、どのように機能するのか?
RAM(Random Access Memory:ランダムアクセスメモリ)について知っておくべき最も重要なことは、それが揮発性メモリであるということだ。つまり、RAMに保存されたものは、コンピュータがシャットダウンまたは再起動すると、永久に消去されてしまう。そのため、RAMを増設したからと言って、写真やビデオ、アプリをたくさん保存できるようになるわけではなく、その代わりに、同時に多くのデータやアプリを開くことができるようになるだけだということだ。
なぜ一時保存と長期保存で異なる種類のメモリを使用するのか。それは、RAMとHDDやSSD等で読み込み速度に圧倒的に差があるからに他ならない。(逆に言えば、動作速度が同じならば分ける必要がない)
例えば、2022年現在、今後主流になっていくと思われるDDR5メモリでは、転送速度が規格上38,400MB/sの物があるが、最速のNVMe-SSDは理論上5,000MB/sとなっており、桁が1つ違うのがお分かり頂けるだろう。このように圧倒的に転送速度に差があるのだ。
RAMは非常に高速で動作するように設計されており、コンピュータのCPU(中央演算処理装置)はRAMに直接アクセスし、ナノ秒単位で瞬時に通信することができる。これは、高速で応答性の高いアプリケーションの利用やマルチタスク体験に直接つながる。つまりデバイスをストレスなく利用するためにも、高速で豊富なRAMが必要になるということだ。
RAMはその名の通り、ランダムアクセスにも最適化されている。つまり、データを最初から最後まで、あるいは順番に読み込む必要がない。CPUは必要なデータを直接取得することができ、貴重な時間を節約することができるというわけだ。例えば、複数のプログラムを切り替えて使用する場合、CPUがディスクからデータを取得する必要があるが、ディスクはランダムアクセスではなくシーケンシャルアクセスに最適化されているため、はるかに長い時間がかかるのだ。
RAMを使い果たすとどうなる?
同時に多くのファイルやプログラムを開くと、RAMが不足する可能性がある。これは、RAMが限られた高価な資源であるためだ。例えば、16GBのRAMモジュールは、1TBのハードディスクや512GBのSSDとほぼ同じ値段となる。そのため、最近のほとんどのデバイスには、4GBから16GBのRAMが搭載されている。しかし、数十年前までは、16MBから32MBのRAMしか搭載していないコンピュータも珍しくなかった。
ありがたいことに、最近のオペレーティングシステムはRAM不足に対して、優れた振る舞いをするように作られている。RAMが残り少なくなると、コンピュータは既存のデータを圧縮するか、最近使っていないプログラムを排出するか、RAMの一部をディスクにスワップする。しかし、こういった場合には、CPUが将来的に発生するであろうのタスクを予想してリソースを解放しようとするため、多少の速度低下が発生する可能性がある。
RAMが足りなくなったときの解決策については、スロットに容量があれば、モジュールを追加する事が1番だ。デスクトップ・コンピュータはモジュール化されたパーツで構成されているため、ほとんどの場合、簡単にスペックをアップグレードする事ができる。だが、スマートフォンなどのよりコンパクトなデバイスでは、困難になる。
RAMにはどのような物があるか
RAMには、さまざまなフォームファクターとサイズがある。最も一般的なのは、DIMM (デュアル インライン メモリ モジュール) と SO-DIMM (スモール アウトライン DIMM の略) だ。これらはそれぞれ、コンピューターとノートパソコンのマザーボードにスロットインできるスタンドアロン・モジュールである。どちらのフォームファクターでも、RAMスティックにはマザーボードと通信するためのピンが底面にある。
スマートフォンやコンパクトなノートパソコンなどの小型デバイスでは、RAMはデバイスのメイン回路基板に直接はんだ付けされている。これは製造効率を高め、企業がより薄いデザインを作るのに役立つことが多いためだが、はんだ付けされたRAMはアップグレードや交換が不可能でもあり、拡張性は皆無となる。より多くのRAMが必要になった場合、唯一の選択肢は、RAMの搭載量が多いモデルに買い換える事だけだ。
物理的な形状やサイズ以外にも、特にコンピュータやラップトップでは、DDR4やDDR5 SDRAMという言葉を聞いたことがあるかも知れない。DDRはDouble Data Rateの略で、旧来のSDR(Single Data Rate RAM)と比較してより高速なデータ転送速度を意味する。技術的な用語としては、DDR RAM は、1 つのクロック・サイクルで 2 倍のデータを転送することができ、サイクルの立ち上がり側と立ち下がり側の両方でデータを転送する。一方、末尾の数字は、RAMの世代を表す。
新しい世代の RAM は通常、帯域幅が広く、消費電力が低くても安定性が高く、可能な総容量が大きくなっている。たとえば、DDR4 から DDR5 への世代交代では、メモリ帯域幅が理論上 50% 向上し、電力管理特性がより正確になり、エラー訂正機能が追加されている。
知っておきたいRAM関連の一般的な用語
LPDDR: LPはlow-powerの略。最近のスマートフォン、スマートウォッチ、タブレットは、消費電力をできるだけ抑えるために、標準的なDDRの変種ではなくLPDDR5メモリを使用している。ただし、その分、帯域幅が犠牲になる。
GDDR:GDDR、またはグラフィックスDDRは、標準的なDDR RAMの一種だ。その名の通り、主にグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)と共に使用される。GDDRは通常、従来のDDR RAMよりも帯域幅が広く、レイテンシーを犠牲にし、より高速なデータ転送レートを可能にしている。一方、CPUと組み合わせる婆は、より低レイテンシのメモリの方が有効だ。
QDR:QDRとは、Quad Data Rate(クワッド・データ・レート)メモリのこと。現在、QDR モードで動作する特殊な RAM 実装は、GDDR6 を含むごく少数に限られている。
Transfers per second (T/s):特定の RAM モジュールの速度は、転送速度、つまり 1秒間にどれだけのデータを読み取ることができるかに依存する。DDR RAM の場合、転送速度は基本周波数の2倍だ。たとえば、ベース周波数1,600MHzで動作するDDR4スティックの実効速度は3,200MT/sだ。しかし、RAM メーカーは常に DDR RAM の速度を「実効 MHz」で表記している、たとえば、3,200 MT/s の DDR4 キットを 3,200MHz と表記しているのを見かけることがあると思う。MT/s がより正確な転送速度単位であるという意見もあるが、ほとんどの場合、RAM 速度を MHz で表記している。
メモリタイミング:CPUがRAMからデータにアクセスするのにかかる時間を測定した値。当然ながら、アクセス時間が短いほどRAMの動作が速くなり、より望ましいとされている。メモリタイミングはCAS Latency(CL)、Row Column Delay(tRCD)、Row Precharge Time(tRP)、Row Active Time(tRAS)の4つに分類されるが、このクロック単位を数値で表した物が、16-20-20-38のような数字の羅列で表現されたものだ。しかし、あまり要求の厳しくないアプリケーションでは、レイテンシはコンピュータの性能にそれほど大きな影響を与えない。
デュアルまたはクアッドチャネルメモリ:最近のほとんどのコンピュータは、追加のメモリチャネルをサポートしている。簡単に言うと、デュアルまたはクアッドチャネルモードで動作させると、CPUのメモリコントローラは、同時に2つ以上のRAMスティックとデータを交換することができる。これにより、全体の帯域幅が広がり、より高速な通信が可能になる。グラフィックプロセッサが統合された一部のCPUでは、グラフィックプロセッサもシステムRAMを使用するため、特に重要だ。
XMP:XMP(エクストリーム・メモリ・プロファイル)は、メモリ設定を切り替えることができるマザーボードの機能で、通常はより高い公称周波数、電圧レベル、タイミングに切り替わる。例えば、DDR4-3200 RAMのキットは、マザーボードのBIOSメニューでXMPを有効にするまで、2,133MHz(MT/s)で動作する。XMPはIntel固有の機能であり、AMDは対応する技術をDOCP(Direct Over Clock Profile)と呼んでいる。
スマートフォンやPCに必要なRAMはどれくらいか?
必要なRAMの量は、そのデバイスの用途とオペレーティングシステムによって異なる。以前は、スマートフォンはPCよりも少ないRAMしか必要としなかったが、最近では両者の差は縮まってきている。
複数のアプリケーションやブラウザタブを開いているときに、デバイスの動作が遅くなることがあれば、RAMを使い切ろうとしている可能性がある。他のパーツが最新鋭であっても、メモリ不足はマシン性能のボトルネックになる可能性がある。デスクトップパソコンや一部のノートパソコンでは、RAMモジュールを交換(または増設)することができるが、タブレットやスマートフォンでは、そのような選択肢はない。
目安としては、Androidスマートフォンならば6GB以上のRAMを搭載していればまずは安心して使えるだろう。ただし、マルチタスクを多用し、ビデオ編集などの集中的な作業を行う場合は、8GB、あるいは12GBにアップグレードすることで何らかのメリットが得られる可能性がある。Asusのゲームに特化した「ROG Phone」ラインアップなど、一部のスマートフォンは最大16GBを提供しているが、ほとんどのスマートフォンで一般的になるにはまだ時間がかかりそうだ。
タブレットやラップトップなどでは、必要なRAMの量についての答えはもう少し複雑になる。OSによって使用方法が異なるからだ。例えばWindows 11では最低でも8GB必要だが、格安ChromebookやAndroidタブレットは4GBや6GBでも十分使える。
ビデオ編集、ゲーム、ヘビーなウェブブラウジングをする場合は特に、RAMは多いに越したことはないだろう。メインマシンには最低でも16GBが最適となるが、AndroidタブレットやChromebookのような軽い用途のデバイスでは8GBで十分だ。高解像度のビデオ編集やアプリの開発を生業とするプロフェッショナルには、32GBから64GB、あるいはそれ以上のRAMが必要となる。
容量以外にどのようなスペックを求めるべきか?
RAMの性能は、容量だけでなく、クロック周波数、つまり1秒あたりのサイクル数で測られることも多い。これは一言で言えば、メモリがデータをどれだけ速く転送できるかということを示す指標だ。例えば、「DDR4-3200」は、最大3200MHzで動作するが、これは、データーのやり取りを1秒間に3,200,000,000回(32億回)送受信できる事を表している。ゲームや科学的シミュレーションなど、特定のアプリケーションでは、高い周波数が非常に大きな効果をもたらす。逆に、スマートフォンやタブレット端末の軽い処理では、クロック周波数を上げても大きなメリットはないだろう。実際、ほとんどのメーカーは、デバイスのスペックシートにメモリ周波数の記載すらない。
PCやノートパソコンの、特にプロフェッショナルなワークフローでは、メモリの周波数が大きな違いを生む事がある。さらに、CPUによっては、より高速なメモリがもたらす恩恵が大きいものもある。(例えば、AMDのRyzen CPUのラインアップは、CPUのコアクラスタ間の通信を高速化できるため、より高い帯域幅のRAMから大きな恩恵を受ける)。同様に、特定のCPUに搭載された統合グラフィックスも、メモリ帯域幅が広いほどパフォーマンスが向上する傾向がある。
このような利点を考えると、PC用メモリにさまざまな構成があるのは当然のことだろう。では、実際にどれを選べばいいだろうか。その答えは、使用用途によって異なってくる。例えばオフィス作業やウェブブラウジングでは、クロック周波数よりもRAMの容量を重視すべきだろう。一方、ゲームでは、多くの場合、周波数を上げ帯域幅を確保する方が、恩恵を感じる事が多い。
また、RAMを搭載するときは基本的に1本ではなく、2本単位で行う事を心がけよう。デュアルチャネルモードでは、実質的に追加費用なしで、より高い帯域幅が得られるからだ。
エンスージアストは、メモリキットのレイテンシにもこだわるが、実際のところ、ゲームなどの特定のアプリケーションでしか効果は感じられない。ゲームではアクセス時間の短縮が大きなメリットになる。ただし、ここでもメモリのタイミングがどの程度重要かは、使用するCPUによって異なるのだ。
以上の様に、まずは自身が必要とする環境を考えた上で、適切なRAMの種類や容量を選択するようにするといいだろう。
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