レンセラー工科大学の研究者らは、実験室で培養された人間の皮膚組織に毛包を3Dプリントすることに成功した事を報告している。この画期的な成果は、皮膚工学における重要な進歩を表しており、再生医療の新たな道を開くものだ。この研究は『Science Advances』誌に掲載されている。

「われわれの研究は、3Dバイオプリンティングを用いて、毛包構造を高精度で再現可能な方法で作成できるという概念実証です。このような自動化されたプロセスは、将来的に皮膚のバイオマニュファクチャリングを可能にするために必要です」と、レンセラー工科大学の化学・生物工学の准教授で今回の研究を率いたPankaj Karande氏は述べている。

細胞レベルでの3Dプリント

毛包は、汗を生産し体温を調節するだけでなく、皮膚の治癒を助ける幹細胞を含んでいる。また、毛包は局所薬や化粧品の入り口としても重要であり、皮膚科学的な試験において重要な役割を果たしている。

しかし、現在の初期安全性試験は、毛包を欠いた培養された皮膚組織で行われている。この研究の筆頭著者であるCarolina Catarino博士は、毛包をこれらのモデルに組み込むことで、皮膚が外用剤とどのように相互作用するかをより深く理解することができると強調した。

Karande博士の研究室は、すでに血管が機能する皮膚をプリントすることに成功しており、この最新の研究は、火傷やその他の皮膚状態の治療法の開発と試験に向けた次のステップとなる。

研究者たちは、細胞レベルでの操作に適応した3Dプリンティング技術を利用した。このプロセスでは、印刷可能な細胞が十分に得られるまで、研究室で皮膚と毛包の細胞を培養する。

次に、これらの細胞をタンパク質と結合させ、プリンターで使用する「バイオインク」を作成する。極細の針を使い、プリンターはバイオインクを層ごとに沈着させ、毛母細胞を沈着させる溝を作る。皮膚細胞はこの溝に移動し、自然の皮膚に見られる毛包構造を再現する。

現在、人工組織の寿命は2〜3週間であり、毛幹の発達が制限されている。Karande博士の研究チームは、この期間を延長し、毛包をさらに成熟させることを想定している。これは、薬物検査や皮膚移植への応用に大いに役立つ可能性があり、3Dプリントによる毛髪のある完全な機能的皮膚の可能性を示すものである。

Dean Shekhar Garde学部長は、この研究の影響力を認め、チームの研究を “工学と生命科学の接点におけるRPIの研究者による進歩の素晴らしい例であり、人間の健康に影響を与える”と称した。

この新しい研究は、人工皮膚における発毛の可能性を解き明かしただけでなく、再生医療や皮膚科学的検査における画期的な進歩の舞台となるものである。科学者たちは、老化した毛髪を再生させる幹細胞の研究も行っている。

論文

• Science Advances: Incorporation of hair follicles in 3D bioprinted models of human skin

参考文献

• Rensselaer Polytechnic Institute: Scientists 3D-print hair follicles in lab-grown skin

研究の要旨

現在のアプローチでは、皮膚の組織工学的モデルに毛包のような複雑な付属器官構造を適切に導入することができない。ここでは、3Dバイオプリンティングを用いて、これらの構造を人工皮膚組織に組み込む方法について報告する。真皮乳頭細胞（DPC）とヒト臍帯静脈細胞（HUVEC）をプリントして誘導したスフェロイドを、線維芽細胞を含むプレゲル化真皮層内に正確にプリントした。得られた組織は、ケラチノサイトとメラノサイトの移動に支えられ、成熟すると毛包様構造を形成し、その形態と組成は、本来の皮膚組織を肉眼的に模倣した。本来の付属器官構造をよりよく模倣した、複雑性を増した再建皮膚モデルは、移植片として、また化学化合物の安全性を試験する有効性モデルとして、再生医療に大きな影響を与える可能性がある。