レオナルド・ダ・ヴィンチはアインシュタインより何世紀も前に重力と加速度の関係に気付いていた

masapoco
投稿日 2023年2月12日 8:54
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万能の天才と称される芸術家にして科学者でもあった、Leonardo da Vinci(レオナルド・ダ・ヴィンチ)は、時代を遥かに先取りした数々の発見をしていながらも、それを公表することなく、自身の飽くなき探究心の追求にのみ情熱を注いでいたことはよく知られている。ただし、それら考察の結果は記録として残っており、彼がどれ程隔絶した才能を持っていたのかを、未だに知らしめてくれるものである。

カリフォルニア工科大学のMory Gharib氏は、ある日Leonardo da Vinciのデジタル化されたノートを目にしていたとき、小さな三角形のスケッチに目を留めた。これは、瓶から注がれた砂粒の動きを描いているものに見えたが、それはIsaac Newtonが運動の法則を発表するよりも、そして、Albert Einsteinが等価原理を実証するよりも何世紀も前に、重力と加速度の間の等価性を描こうとしたものだったのではないかと気付いた。

Gharib氏とその共同研究者たちは、今回新たに発表した論文で、Leonardの描いたモデルは、現代の計算に当てはめると約97%の精度で重力定数(G)の値を算出していたことが明らかになったと述べている。この発見をさらに驚くべきものにしているのは、Leonardoが正確な計時手段を持たず、1660年代にNewtonが運動と万有引力の法則を開発するために発明した微積分の恩恵も受けずに、このようなことを行ったていたという事実だ。Leonardo da Vinciは1452年にイタリアのフィレンツェに生まれた。Newtonの発見よりも200年も前なのだ。

「Leonardoがさらに実験を重ね、この問題をさらに深く掘り下げたかどうかはわかりません。しかし、彼が1500年代初頭にこのような方法で問題に取り組んでいたという事実は、彼の考え方がどれほど先を行っていたかを示しています。」と、Gharib氏は述べている。

Leonard da Vinciの先進性はこれに留まらない。彼が残した記録は13,000ページ以上にものぼるが、現存するのはその3分の1以下である。空飛ぶ機械、自転車、クレーン、ミサイル、機関銃、不沈艦、港や運河を浚う浚渫船、太陽エネルギーや計算機の理論、さらには初歩のプレートテクトニクス理論も理解していたという。

望遠鏡が発明される1世紀も前に、『アトランティック写本』(1490年)に「月を拡大して見るための眼鏡を作る」と記し、望遠鏡の製作の可能性を予見していた。2003年、イタリアのイデア美術館の館長Alessandro Vezzosi氏は、Leonardo da Vinciのメモの中に、不思議な調合法のレシピを発見した。Vezzosi氏がそのレシピを実験してみたところ、1900年代初頭に広く使われていた合成樹脂「ベークライト」という素材に酷似した固まる混合物ができあがったのだ。つまり、Leonardoが初めて人工のプラスチックを発明したのかも知れないのだ。

今回の研究を主導したGharib氏は、数年前にオックスフォード大学の歴史学者Martin Kempらと共同で、Leonardo da Vinciが最初の人工心臓弁を作り、人体実験こそしなかったものの、それをテストしたことを証明している。「その結果、Leonardoの考え方、つまり可視化の方法から科学の捉え方までが見えてきたのです。私は、芸術家、エンジニア、発明家である以上に、彼は科学者であったと信じています。」と、彼はArs Technicaに語っている。

そして今回Gharib氏は、大英図書館に所蔵されているLeonardoの『アランデル写本』(1480年から1518年の間のメモやスケッチをまとめたもの)の余白に、もう一つ興味深い発見をした。その中に、二等辺三角形の斜辺に “Equatione di Moti “と書かれたスケッチがあった。これは、Leonard da Vinciが記録を取るときに用いていた「鏡文字」で書かれており、古いイタリア語で書かれていた。Gharib氏のかつての教え子であるFlavio Nova氏に依頼して翻訳してもらい、Leonardの実験を再現し、論文の共著者のコーネル大学Chris Roh氏によって計算が行われ、Leonardの先進性を確かめることが出来た。

Leonardのスケッチに描かれているように、水差しを一定の高さに置き、地面と平行に一直線上に移動させ、砂と思われる粒を流し込む形で実験を再現した。水差しを一定の速度で動かし、その位置の変化をプロットすると、砂は垂直線上に落ち、三角形は形成されない。だが水差しを一定速度で加速すると、砂は直線になるが斜めになり、三角形ができる。運動が重力と同じ速度で加速されることで、正三角形が生まれ、その斜辺に「運動の等価性」という言葉が書かれている。

「Leonardは何をしようとしているのか?『もし、重力が粒子に作用するのと同じように、私の手を動かしたり、瓶を動かしたりすることができたとしたら。ある時間内に同じ距離を移動するのであれば、私は加速度だけで重力を模倣したことになる』と言おうとしているのです。彼はこれを運動行為と呼んでいる。重力とは違う方向でそれを行うのです。つまり、彼は重力が一種の加速度であることを明確に理解していたのです。ただし、地球に向かってですが。そうでなければ、加速度によって重力を模倣しようとはしなかったでしょう。」と、Gharib氏は述べている。

当時は慣性の概念すら知られていなかった。だが、Leonardoはさらに進んで、当時最高の数学的ツールであった幾何学を使って、重力定数を求める実験のデータを本質的にモデル化しようとしたと、Gharibらは主張している。「方程式や数学という概念はありませんでしたが、Leonardoは方程式ではない形の数学を直感的に理解していたのです。そこで彼は、幾何学を使って方程式を書き出したのだと思います。時計などの道具を使わずに、彼はただこの幾何学を、2つの運動を等しくするための証拠として使ったのです。1つはコントロールできる動き、もう1つはコントロールできないが理解したい動き、そしてもう1つは、それらが小さなステップごとに等しくなっていることを示す線です。彼は、よりコンピュータ科学者のようにアプローチし、よりアルゴリズム的にモデル化したのです。」

Gharibらがレオナルドの水差し実験をコンピューターでシミュレーションしたところ、Leonardoが顕著な誤りを犯していたことが判明した。つまり、物体の落下距離は、t2(t=時間)に比例するのではなく、2tに比例すると考えていたのだ。Leonardoの「方程式」をプロットしてみると、すぐに間違った結果が出る。しかし、Roh氏は重大な洞察を与えてくれた。結果として得られる2つのグラフは全く異なるが、最初のうち、tの値が非常に小さいとき(具体的には2と4)、実はグラフは非常に似ているのである。Leonardoのノートには、物体が4つ以上の時間間隔で落下することしか書かれていなかったのだ。そこで、Leonardoは間違った方程式を正しい方法で使ったのだ。

「工学や物理学には、『すべてのモデルは間違っている』という格言があります。実験家として、どの方程式やモデルをいつ使うか、自分の限界を知ることができれば、エキスパートと言えるでしょう。そこで、私はLeonardoをさらに尊敬するようになりました。彼のモデルは、現実を観察した上で成り立っています。彼は、間違った方程式と呼べるものを、何の道具も使わずに、非常に有用なモデルを作ったのです」。実際、Gharib氏らがLeonardoの「アルゴリズム」を使って彼のモデルをプロットし、それを現代の方程式に当てはめたところ、重力定数の測定は97%の精度で行われたとのことだ。

「今回の研究は(Leonardoの)脳の小さな一角を見せるものです。これは、物事を発見しようとする学生や若い科学者にとって重要なことです。発見すべきことはたくさんあるのに、私たちは正しい機器や道具を持っていないため、しばしば無力になります。これは、『あなたは楽器よりもずっと大きな存在です。まずは発見を考える前に、自分のクリエイティビティを思いっきり発揮してください』と、謙虚に伝えるものです。」


論文

参考文献

研究の要旨

レオナルド・ダ・ヴィンチは、限られた道具の中で、独創的な問題解決力を発揮した。著者らは、落下物の加速度に関するレオナルドの思考と物理実験の組み合わせについて考察している。レオナルドの記録によると、水を注いだ花瓶が垂直方向に落下する物体の軌道を真似て横方向に移動すると、斜めに並んだ落下物(斜辺)と花瓶の軌道からなる足の長さが等しい直交三角形ができる。その斜辺に、レオナルドは「Equatione di Moti」(運動の等化)と書き、重力による運動と実験者が定めた運動の2つの直交運動が等価であることを指摘した。著者らは、ニュートン力学を用いた解析解を提示し、レオナルドの “等価原理 “を確認した。



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