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シドニー大学ナノ研究所の研究者らは、エレクトロニクスとフォトニックコンポーネントをシームレスに統合したコンパクトなシリコン半導体チップを発表した。この技術革新により、無線周波数(RF)の帯域幅が大幅に拡大し、チップ内に流れる情報を正確に制御できるようになるという。

最先端のシリコンフォトニクス技術を駆使して作られたこのチップは、幅5ミリメートル以下の半導体上に多様なシステムを統合する能力を誇っている。Ben Eggleton副学長(研究担当)教授は声明の中で、このプロセスを“レゴのブロックを組み立てるようなもの”と表現し、これにより電子「チップレット」の高度なパッケージングによって新素材が統合される事を示唆した。

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新しいチップを手にするAlvaro Casas Bedoya博士とBen Eggleton教授(シドニー・ナノサイエンス・ハブにて)。(Credit: Photo: Stefanie Zingsheim)

レゴブロックのように部品をチップに組み込むこと自体は新しいことではなく、2022年、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、レゴのような再構成可能なAIチップを設計している。今回のシドニー大学が発表したチップは、センシング素子と処理素子を交互に重ねたもので、チップの層が光学的に通信できるようになっている。

物理学部のフォトニック・インテグレーション担当アソシエイト・ディレクターであるAlvaro Casas Bedoya博士によると、このチップの背後にある異種材料の統合というチームの手法は、10年の歳月をかけて開発されたものだという。

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チップ製造に使われるシリコン・ウェハーを手にするAlvaro Casas Bedoya博士

「このフォトニック集積回路の開発には、基本的なチップの製造に海外の半導体ファウンドリーを利用することと、地元の研究インフラと製造を組み合わせることが不可欠でした。このアーキテクチャは、オーストラリアが、付加価値プロセスを海外のファウンドリーに依存することなく、独自の主権チップ製造を開発できることを意味します」と彼は付け加えた。

オーストラリア政府の「国益に関わる重要技術リスト」のほとんどの項目は、半導体に大きく依存している。シドニー・ナノの研究は、ニューサウスウェールズ州政府が後援する半導体セクター・サービス・ビューロー(S3B)のようなイニシアチブと連携している。

S3BのディレクターであるNadia Court博士は声明の中で、「この研究成果は、半導体技術の進歩を促進するという我々の使命に沿ったものであり、オーストラリアにおける半導体技術革新の将来に大きな期待を抱かせるものである。「この結果は、この分野への世界的な注目と投資が高まる極めて重要な時期に、研究・設計における地元の強みを強化するものです」と、述べている。

この集積回路は、オーストラリア国立大学の研究者らと共同で開発され、シドニー大学ナノサイエンス・ハブのコア研究施設クリーンルーム(最先端のリソグラフィーと成膜設備を備えた1億5000万ドルの最新ビル)で建設された。

このチップ内のフォトニック回路は、15ギガヘルツの帯域幅を実現し、全帯域幅の1/4以下である37メガヘルツのスペクトル分解能を誇る。

この研究チームは、このチップがマイクロ波フォトニクスと集積フォトニクス研究を再構築し、高度なレーダー、衛星システム、ワイヤレスネットワーク、来るべき6Gおよび7G通信に応用される可能性があると考えている。

「マイクロ波フォトニック・フィルターは、現代の通信やレーダー・アプリケーションにおいて重要な役割を担っており、異なる周波数を正確にフィルターする柔軟性を提供し、電磁干渉を減らし、信号品質を向上させます」とEggleton教授は説明している。

共著者でシニアリサーチフェローのMoritz Merklein博士は、コンパクトで高分解能な新世代のRFフォトニックフィルターを構想しており、「この研究は、広帯域の周波数チューニングが可能な新世代の…RFフォトニックフィルターへの道を開くもので、特に空中や宇宙空間でのRF通信ペイロードに有益であり、通信やセンシング能力の強化の可能性を開くものです」と述べている。


論文

参考文献

研究の要旨

マイクロ波フォトニクス(MWP)は、フォトニックコンポーネント固有の広帯域性と波長可変性を利用することで、高周波(RF)信号処理の新たなパラダイムを切り開きました。主要なRF処理機能である集積MWPフィルタの実装には多くの努力が払われてきたが、RFアプリケーションに必要なメガヘルツレベルのスペクトル分解能と主要な電気光学コンポーネントを融合できる完全集積フォトニック回路の実現は、依然として長年の課題である。ここでは、アクティブな電子光学コンポーネントを備えたコンパクトな5mm×5mmチップスケールのMWPフィルターを導入することで、この課題を克服し、37MHzのスペクトル分解能を実証した。このデバイスは、ブリルアン利得を提供するカルコゲナイド導波路を、変調器と光検出器を集積したCMOS(相補型金属-酸化膜-半導体)ファウンドリー製造のシリコンフォトニックチップに異種集積することで実現した。この研究成果は、広帯域の周波数チューニングが可能な、コンパクトで高分解能の新世代のRFフォトニックフィルターへの道を開くものであり、航空・宇宙用RF通信ペイロードなどの将来のアプリケーションに要求されるものである。

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