身体に良いと思って長年摂取していた物が、実は身体に悪影響を与えている可能性が明らかになった。新たな研究によれば、市販されているペットボトル飲料水には、これまで考えられていたよりも10倍から100倍多い微小なプラスチック粒子が含まれており、人体と環境に計り知れない悪影響を及ぼしている可能性があるというのだ。
ナノプラスチックは、マイクロプラスチック(長さ1μm~5mm)よりもサイズが小さいため、腸から体内への通過が容易で、人体への毒性が高いと考えられている。しかし、このような微小粒子の検出には困難が伴うため、生物への影響の理解には隔たりがあった。
「以前は、ここは未知の暗黒地帯でした。この研究によって、これまで私たちの目に触れることのなかった世界を覗き見ることができる窓が開かれたのです」と、コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所の環境化学者である共著者、Beizhan Yan氏は言う。
コロンビア大学とラトガース大学の研究者が、水中のプラスチックを「前例のない感度と特異性」で検出する新しい光学技術を開発したことを、科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に発表した。
これまで検出できなかった物が検出できるようになった
新しい研究の主執筆者であるコロンビア大学大学院の化学専攻、Naixin Qian氏は「これまでの研究ではナノ粒子の質量を推定することはできても、個々の粒子を数えることはできなかったし、どれがプラスチックなのか他の何かなのかを特定することもできなかった」と指摘している。
この新しい研究では、コロンビアの生物物理学者である共著者のWei Min氏が発明した、刺激ラマン散乱顕微鏡法と呼ばれる技術を使用している。これは、特定の分子を共鳴させるように調整された2つのレーザーを同時に照射してサンプルを観察するものである。研究者たちは、7種類の一般的なプラスチックを対象に、結果を解釈するためのデータ駆動型アルゴリズムを作成した。「検出することと、何を検出しているかを知ることは別のことです」とMin教授は言う。
研究者らは、米国で販売されている3つの人気ブランドのボトル入り飲料水(名前は伏せた)をテストし、100ナノメートル大のプラスチック粒子まで分析した。
この新しい技術を使って、ペットボトル入りの市販の水を調査・分析した結果、ペットボトル入りの水1リットルには、平均24万個もの小さなプラスチック片が泳いでいるという驚愕の事実が判明したのだ。これは、1リットルの水の中に平均10.4個のプラスチック粒子を発見した2018年の先行研究が示唆したものより、はるかに多くのプラスチックである。
水中のプラスチック粒子の10%がマイクロプラスチック(5ミリから1マイクロメートル)であったが、それ以外の90%がナノプラスチックであった。
検出されたプラスチックの一つはポリエチレンテレフタレート(PET)だったがこれは驚くべきことではなかった。PETはペットボトル入りのソーダやスポーツドリンク、ケチャップやマヨネーズなどの調味料にも使われている。おそらく、ボトルが絞られたり、熱にさらされたりすることで粒子が剥がれ落ち、水に混入するのだろう。最近の研究では、キャップの開閉を繰り返すことで多くの粒子が水に入り込み、小さな粒子が摩耗することが示唆されている。
だが、それ以上にナイロン一種であるポリアミドが多く検出されたとのことだ。このポリアミドは、ペットボトル詰めされる前に水を浄化するために使われるプラスチックフィルターに由来しているのだろう、とBeizhan Yan氏は言う。水を綺麗にするはずのフィルターから人体に有害である可能性のある微少プラスチックが生じるというのは皮肉な物だ。
その他、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート等が検出されたとのことだ。
だが研究者らが検出した7種類のプラスチックは、サンプルに含まれるナノ粒子の約10%に過ぎず、残りが何なのかは見当もつかないという。もしこれらがすべてナノプラスチックだとすると、1リットルあたり数千万個のプラスチック片が混入しているということになる。
マイクロプラスチックは、それ自体かなり悪いもので、私たちの環境や体内にかなり浸透している。しかし、ナノプラスチックは非常に小さいため、特別な危険をもたらす、と研究チームは言う。
ナノプラスチックは、私たちの細胞や臓器に入り込み、胎盤のバリアを越えて胎児にまで到達し、厄介な化学物質の残留物を残して、重要な身体機能を狂わせる可能性があるため、健康への影響は甚大である、とCNNは報じている。
非営利団体 “Healthy Babies, Bright Futures “のリサーチ・ディレクターであるJane Houlihan氏は、この研究についてCNNに次のように語っている。「乳幼児は、発達途上の脳や身体が、有害物質の暴露による影響を受けやすいため、最大のリスクに直面する可能性があります」。
論文
- Proceedings of the National Academy of Sciences: Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy
参考文献
- Columbia University Mailman School of Public Health: Bottled Water Can Contain Hundreds of Thousands of Nanoplastics
- CNN: Bottled water contains thousands of nanoplastics so small they can invade the body’s cells, study says
- bbb
研究の要旨
プラスチックは、今や私たちの日常生活に遍在している。マイクロプラスチック(長さ1μm~5mm)、そしておそらくナノプラスチック(1μm未満)の存在によって、最近、健康への懸念が高まっている。特にナノプラスチックは、マイクロプラスチックに比べてサイズが小さいため、人体に入りやすく、毒性が強いと考えられている。しかし、ナノプラスチックの検出は、ナノレベルの感度とプラスチック同定の特異性の両方に多大な分析上の課題を課しており、私たちを取り巻くこの神秘的なナノの世界における知識のギャップをもたらしている。これらの課題に対処するため、我々は、高い化学的特異性とスループットで、単一粒子レベルでのマイクロ・ナノプラスチック分析を可能にする自動プラスチック同定アルゴリズムを備えたハイパースペクトル刺激ラマン散乱(SRS)イメージング・プラットフォームを開発した。我々はまず、100 nm以下のシングルナノプラスチックの高速検出を可能にするSRSの狭帯域の感度向上を検証した。次に、高感度な狭帯域ハイパースペクトルイメージングによって課されるスペクトル同定の課題に対処し、一般的なプラスチックポリマーのロバストな判定を達成するために、データ駆動型のスペクトル照合アルゴリズムを考案した。この確立された技術を用い、モデル系としてボトル入りの水からマイクロナノプラスチックを研究した。その結果、主要な種類のプラスチックからナノプラスチックを検出し、同定することに成功した。マイクロナノプラスチックの濃度は、ボトル水1リットル当たり約2.4±1.3×105粒子と推定され、その約90%がナノプラスチックであった。これは、以前に報告されたペットボトル水中のマイクロプラスチック存在量よりも桁違いに多い。ハイスループットの単一粒子計数により、プラスチックの組成と形態間の粒子の非均質性と非直交性が明らかになった。その結果、多次元プロファイリングがナノプラスチックの科学に光を当てた。
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