テレビを観ると認知症リスクが高まる?一方コンピューターの利用は大幅に認知症リスクを軽減することが調査から明らかに

masapoco
投稿日
2022年8月23日 11:54
using computer

テレワークが増えて通勤時間がなくなることは精神的な負担の軽減にもなり、これまで満員電車に揺られていた生活への回帰はとてもではないが考えられないと言う人が多いだろう。実際にAppleがテレワーク体制を縮小し、出社を命じることに対しては多くの反発も起きているようだ。

だが、移動の時間がなくなり座りっぱなしの生活が続くことについては、もちろん健康リスクもある。定期的な運動は、身体的、精神的な様々な問題について、その発生リスクを軽減してくれる効果がある事は様々な研究から明らかになっている。そんなに激しいワークアウトは必要ない。定期的に家の周りを散歩するだけでもいいようだ。

では、座って行う作業の内容についてはどうだろうか?この度、南カリフォルニア大学アリゾナ大学の共同研究では、長時間座ってテレビを見るなどの受動的な活動を行っている人よりも、読書やコンピューターの使用など、座っているときに活動的な人ほど認知症を発症するリスクが低いことが示された。

運動不足に伴う身体的リスクは、直接的に、あるいは肥満を介して、一般に心血管系の健康状態の低下と関連している。少量の身体活動でもこれらの影響を抑えることができるようだが、一般に運動量を増やすことはやはり良い結果をもたらすようだ。

しかし、運動は精神的な健康も改善する。運動は、うつ病やその他の疾患に対する効果的な治療法であり、加齢による悪影響のいくつかを食い止めるのに役立つと言われている。

今回の研究では、これまでに行われてきた運動不足・不活発であることの弊害を調査する研究について、その活動内容が総じて「テレビを見る」という行為に焦点を当てて研究が行われてきた事に対して疑問を持ったことから始まっている。余暇の過ごし方として数十年前までは多くの人がそうだったろうが、現代の、コンピュータやモバイル機器の普及によって、余暇の過ごし方が多様化している現代において、その運動不足のあり方は多様化している中で、果たして適切なのだろうか、と。

そこで、研究者たちは、このことをもっと詳しく調べ、関連するいくつかの疑問に取り組むことにした。研究デザインでは、コンピュータの使用とテレビの視聴を分離し、それぞれが加齢に伴う精神的問題の発生にどのような影響を及ぼすかを調べた。また、座りっぱなしの行動と老化に伴う問題の関連に、身体活動が影響を与えるかどうかも調べた。

そのために研究チームは、UK Biobankという、数十万人の英国市民の匿名化された人口統計と健康状態を組み合わせた大規模データベースを活用した。今回の研究では、60歳未満を除外し、活動レベルや余暇の過ごし方に関する詳細な情報を記入した約75,000人に焦点を当て、研究を行った。

肝心な結果について、年齢と性別を考慮した場合、テレビを見る時間は認知症リスクの増加と関連していた(ハザード比1.3、つまり認知症の兆候があると診断される確率が1.3倍高かった)。身体活動は、そのリスクをごくわずかに低下させた。一方、コンピュータの使用はリスクをかなり低下させ、ハザード比を0.8に低下させた

身体活動のレベルを考慮しても、結果は同じだった。身体活動量の多い人でも、テレビを見る時間は認知症リスクの上昇と関連し、パソコンを使う余暇時間は認知症発症リスクの低下と関連していたのだ。

この傾向は、研究者がグループを3分の1に分け、テレビ視聴とコンピュータ使用の高、中、低を比較しても同じであった。食事、飲酒、肥満などの追加要因を制御しても、結果は変わらなかった。

この結果を受けて、研究著者であるアリゾナ大学心理学およびイヴリン F. マクナイト脳研究所教授Gene Alexand氏は以下のように述べている。

「身体活動が脳の健康に良いことは分かっていても、日中にもっと身体を動かせば、座っている時間の悪影響に対抗できると考える人は多い。我々の発見は、余暇活動中に座っていることによる脳への影響は、我々がどれだけ身体的にアクティブであるかとは、本当に別であることを示唆しています。そして、コンピューター使用時など、より精神的にアクティブであることが、テレビを見るような受動的な座りがちな行動に関する認知症のリスク上昇に対抗するための鍵となるかもしれません。」

身体活動の影響は軽微であったが、研究者らは、身体活動がテレビ視聴の多さやコンピューターの使用量の少なさに関連する問題のいくつかを相殺する可能性があるかどうかを検証している。高水準の運動はいくらかリスク軽減効果を持つように見えるが、それは微々たるものだとのことだ。

全体として、この研究結果は、座りっぱなしでいる際の活動に関連する問題について、私たちがどのように考えるかを分離する必要があることを示唆している。身体的な健康という意味では、どのような運動不足も同等に考えることが出来る。しかし、精神的な問題に関しては、座りっぱなしの時にどのように過ごすかが重要なのだ。

その意味で、今回の結果は、精神的に活発であることが認知症予防につながることを示す多くの研究成果と合致している。読書や語彙を増やすゲームなどは、一般に認知症のリスクを下げるようで、その効果は比較的若いうちに読書をした場合でも積み重なるようだ。そういう意味で当然の結果かも知れない。

とはいえ、運動との関連に関してはまだ調査を続ける必要もある。研究者らは、活動レベルが参加者の履歴のある時点でチェックされただけであり、自己申告であるため、正確さに欠ける傾向があることを指摘している。また、コンピュータを使用するとは言っても、その内容はさまざまで、中には動画を見るだけの“受動的な”活動も含まれるだろう。

座っている間に何をするかが重要なのです。この知識は、積極的な行動変容を通じて、座りがちな行動による神経変性疾患のリスクを低減することを目的とした、的を絞った公衆衛生介入を設計する際に、極めて重要です。」


論文

参考文献

研究の要旨

座りがちな行動(SB)は、心代謝性疾患や死亡率と関連しているが、認知症との関連は現在のところ不明である。本研究では、身体活動(PA)の取り組みにかかわらず、SBが認知症の発症と関連するかどうかを調査する。UK Biobankから、60歳以上で認知症の診断を受けていない参加者(平均[SD]年齢:64.59[2.84]歳)146,651名を対象とした。自己申告の余暇SBは、テレビ(TV)視聴時間またはコンピュータ使用時間の2つのドメインに分けられた。平均11.87(±1.17)年の追跡調査期間中に、合計3,507人が全死因性認知症と診断された。PAに費やした時間を含む幅広い共変量で調整したモデルでは、テレビを見る時間は認知症発症リスクの増加と関連し(HR [95% CI] = 1.24 [1.15~1.32] )、コンピューターを使う時間は認知症発症リスクの減少と関連していた(HR [95% CI] = 0.85 [0.81~0.90] )。PAとの共同関連では、テレビ使用時間とコンピュータ使用時間は、すべてのPAレベルで認知症リスクと有意な関連を保っていた。認知的に受動的なSBに費やす時間(すなわち、テレビ時間)を減らし、認知的に活動的なSBに費やす時間(すなわち、コンピュータ時間)を増やすことは、PAの関与にかかわらず、認知症のリスクを減らすための有効な行動修正目標であると考えられる。



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