30年の寿命を超えるペロブスカイト太陽電池の開発に成功

masapoco
投稿日 2022年7月3日 12:31
30yr Perovskite Solar Cell Loo featured for web 3000x1688px

太陽電池と聞いて思い浮かべるのは、屋根に載っているパネル型の物や、広い敷地に一面敷き詰められたパネルなどが今までのイメージではないだろうか。だが、「ペロブスカイト太陽電池」を用いれば、将来はビルの壁や曲面など、これまで設置が難しかった所に使用できるようになり、クリーンエネルギーの利用が大きく加速される可能性が秘められている。そんなペロブスカイト太陽電池の耐久性に関して、今回初めて30年という長寿命を実現したという研究が発表された。

これまでの太陽電池に比べて、安価で、軽く、柔軟なペロブスカイト太陽電池

現在量産されている太陽電池の多くは、「シリコン系太陽電池」と「化合物系太陽電池」だ。どちらも太陽電池として、壊れにくく、耐久性があり、変換効率も高い(25%のものもある)が、材料や製造にかかるコストが比較的高いというデメリットがあった。また、シリコン系太陽電池では、シリコンが厚く、曲げることが出来ない事から、設置場所の制限もあった。

そういった問題を改善する可能性がある、次世代の太陽光電池として期待されているのが、「ペロブスカイト太陽電池」だ。ペロブスカイト太陽電池は、日本の桐蔭横浜大学宮坂力教授らによって2009年に初めて開発された。

既に「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」に匹敵する高い変換効率を達成しているだけでなく、作製自体も塗布(スピンコート)技術で容易に可能なため、既存の太陽電池よりも低コストで作る事が出来るのが特徴だ。また、ペロブスカイトは室温で製造できるのに対し、シリコンは摂氏1500度以上で鍛造される。シリコンの鍛造に利用するエネルギー源はどこから来るかというと、やはり現状は化石燃料に頼らざるを得ない。つまり、二酸化炭素排出量も馬鹿にはならないと言うことだ。その点、ペロブスカイト太陽電池は遙かに低エネルギーで製造できる。

また、軽量で柔軟な素材であるため、ビルの壁面や、曲面など、今まで設置が困難な場所にも設置が出来るという特徴がある。

変換効率も研究室レベルではシリコン系太陽電池並みの25.5%が実現できており、将来的には35%になるのではと考えられている。

ではなぜ普及しないのかというと、問題は耐久性だった。ペロブスカイトはあまり安定しておらず、風雨にさらされると壊れてしまうという問題があった。これまでのペロブスカイト太陽電池は1-5年程度と耐久性が短いことが課題だった。2021年11月に兵庫県立大学の伊藤省吾教授らが20年相当まで耐久性を向上させることに成功したが、まだ実用化はされていない。また、変換効率はシリコン系に比べるとかなり低い12%前後に留まるとのことだ。

シリコン系太陽電池の耐久性を大幅に上回る30年の長寿命を初めて実現

今回、プリンストン大学の研究チームは、光吸収ペロブスカイト層と銅塩などからなる電荷輸送層という2つの重要な構成要素の間に、超薄型のキャップ層を設けることで、安定性の問題に対処した。このキャップ層を科学者は2Dと言う用語で表現している。つまり、厚みが全くないと言う意味で2次元的だと言う意味で使うのだが、実際は数個の原子レベルの極薄の層になる。二硫化炭素、鉛、ヨウ素、塩素でできており、このキャップ層が数週間以内にデバイスが焼き切れるのを防ぐ役割を果たした。

この2Dキャップ層を設けるアイデア自体は古くからあったが、成果としては今回の報告されたレベルには達していない。プリンストンの研究チームの推定では、このキャップ層を用いたペロブスカイト太陽電池は、屋外での動作で30年まで持ちこたえることができたという。また、この種のものとしては初めて、20年の寿命を超えた初めての研究でもある。

もちろん、テストに実際に30年の時間をかけるわけにはいかないので、研究者らは、太陽電池の耐久性を調べるために開発した新しい加速エージング法を用いて、この寿命を計算した。太陽電池のバッチを実験室に入れ、明るい光と、35℃の夏の暑い日から110℃の極端な温度まで、さまざまな温度に曝した。このデータから、研究チームは標準的な環境条件下で30年の寿命を予測することができた。

研究チームは、この研究が耐久性の高いペロブスカイト太陽電池を作る新しい方法を提供するだけでなく、加速エージング技術は科学者があらゆる種類の太陽電池の耐久性をテストするのに役立つだろうとしている。


論文

参考文献

研究の要旨

ペロブスカイト太陽電池(PSC)の劣化経路を理解し、安定性を向上させるためには、加速エージング試験が必要である。ここでは、高温(110℃まで)を用いて、一定照明下でのカプセル化CsPbI3太陽電池の加速劣化を定量化する。ペロブスカイト活性層とホール輸送層の間に2次元(2D)Cs2PbI2Cl2キャッピング層を組み込むことで、界面が安定化すると同時に、全無機PSCの電力変換効率が14.9%から17.4%に向上した。この2Dキャッピング層を持つデバイスは、35℃では劣化せず、初期効率の20%低下には、一定照明下、110℃で2100時間以上必要であった。観測されたアレニウス温度依存性に基づく劣化加速因子は、35℃で連続使用した場合の固有寿命を51,000±7,000時間(5年以上)と予測した。



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