重いブランケットを用いることで、睡眠ホルモンが増加した事が初めて研究により確認された

masapoco
投稿日 2022年12月15日 10:48
good sleeping

スウェーデンのウプサラ大学の新しい研究によると、就寝時に加重ブランケット(ウェイトブランケット)を掛けて寝た場合に、若年層でメラトニンが増加することが研究により明らかになった。メラトニンというこのホルモンは暗闇に反応して増加し、睡眠を促進し安眠に繋がると言われている。

経験的に、重たい寝具の使用は寝返りを打つことに対する障害になり得るため、逆に睡眠の阻害要因になりそうにも思えるが、実際には加重ブランケットを用いることで不眠が解消される可能性や、睡眠時リラックス効果が増大したといったケースが実験により確認されている。

また、過去の研究では、加重ブランケットは、不眠症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症による睡眠の問題を抱える人々を助ける可能性があることが示されている。

今回の実験では、その加重ブランケットの使用により、実際にメラトニンの増加が確認されたとのことで興味深い物だ。

メラトニンとは何か?

外が暗くなると、体は自然にメラトニンの分泌を増やし、休息時間であることを体に知らせる。これはまた、体の概日リズム(24時間周期の体内時計・サーカディアンリズム)を同期させ、夜間の睡眠を助ける働きがある。

体内では天然のメラトニンが生成されるが、なかなか寝付けない人は、就寝前にメラトニンのサプリメントを摂取することで改善される場合もあるという。

過去の研究では、メラトニンのサプリメントはまた、偏頭痛、外傷性脳損傷、および耳鳴りなどの特定の条件に役立つかもしれないことが示されていた。

しかし、日本ではメラトニンのサプリメントは一般的ではない。購入する場合は、海外からの輸入製品を利用することになる。

ちなみに、メラトニンを過剰摂取することはまずないが、過剰摂取は以下のような副作用をもたらす可能性がある。

  • 頭痛
  • 眠気
  • めまい
  • 吐き気
  • 過敏性、落ち着きのなさ
  • 口や肌の渇き
  • 奇妙な夢や寝汗

加重ブランケットは不眠を解消するか?

加重ブランケットとは、単純に分厚い毛布等ではなく、生地に実際に重くするためのウェイト素材を縫い込んだ毛布のことだ。このブランケットに使用されているウェイト素材は、通常、ガラスやプラスチックのペレットやビーズである。

加重ブランケットには様々な重さがあり、通常、2~13kgの範囲だ。通常は体重の5%から12%に相当する重さの毛布を選ぶと良いと言われている。

2019年の加重ブランケットの売上は世界的に3億9900万ドルに達したが、予測によると2026年までに売上が約11億7000万ドルに達するとされている。

これらの毛布を販売している多くの企業は、加重ブランケットが、睡眠促進ホルモンを増加させることによって、睡眠を改善すると主張しているが、それを裏付けるエビデンスは今までなかった。今回の研究は実際にそれを確かめることに端を発している。

研究者らは論文の中で、研究に使用した毛布は、ヨーロッパで加重ブランケットを販売しているスウェーデンのCura社から提供されたものであることを明らかにしている。

加重ブランケットがメラトニンに与える影響と今後

この研究では、26人の若い男女の唾液中のメラトニン、オキシトシン、コルチゾールの量を測定した。研究参加者の中には、不眠症の人や以前に加重毛布を使ったことがある人はいなかったとのことだ。

分析の結果、加重ブランケットを使用すると、参加者の唾液中のメラトニン濃度が約30%上昇することが判明した

なお、唾液中のオキシトシンやコルチゾールの量には変化がなかったとのことだ。さらに、科学者たちは、参加者の交感神経系の活動の変化も測定していない。

現時点では、なぜ重い毛布がメラトニン濃度を高めるのか、それが人々の睡眠の質を著しく向上させるのかについては不明である、と研究者ら論文の中で述べている。

また、「今後の研究では、数週間から数ヶ月にわたって頻繁に加重ブランケットを使用した場合に、メラトニン分泌に対する刺激効果が毎晩観察されるかどうかを調査する必要があります。観察されたメラトニンの増加が、先に述べた不眠症と不安に対する加重ブランケットの効果に、治療的に関連する可能性があるかどうかは、まだ確定していません。」と研究者らは論文の中で述べており、実際に加重ブランケットが不眠症の改善に役立つことを結論づけるのは早計としている。

「これは非常に興味深い研究ですが、メラトニンが加重ブランケットで増加するはずだということは明白なことではないので、第二のコホートで再現されるといいですね」と、スウェーデンのリンショーピン大学の神経科学者である Håkan Olausson教授は、The Washington Post紙に述べている。

また、研究者らは、生涯にわたって同じ被験者で加重ブランケットを用いることによるメラトニンとコルチゾールのレベルの変化を評価したり、異なる年齢層の被験者で同じ測定をするなどして、実際に加重ブランケットの睡眠への影響を調べる事も視野に入れているようだ。


論文

参考文献

研究の要旨

加重ブランケットが、不眠や不安などの状態を緩和するための非薬理学的介入の可能性として浮上した。実験的な証拠はないものの、これらの効果は、内因性ストレス系の活動の低下とオキシトシンやメラトニンなどのホルモンの放出の増加に起因するとされている。そこで、今回の実験室内クロスオーバー研究(男性15名、女性11名の若く健康な被験者26名)の目的は、就寝時に体重の12%程度の重さの毛布を使用すると、軽い毛布(体重の2.4%程度)と比較してメラトニンとオキシトシンの唾液濃度が高くなるかどうかを調べることであった。また、ストレスホルモンであるコルチゾールの唾液濃度、交感神経活動の指標である唾液α-アミラーゼ活性、主観的眠気、睡眠時間の違いも検討した。加重ブランケットを使用した場合、ベースライン(=22時)から消灯(=23時)までの1時間の唾液メラトニンの増加率は、約32%高かった(p=0.011)。その他、主観的な眠気や総睡眠時間など、ブランケットの条件による有意差は認められなかった。本研究は、加重ブランケットを使用することで、就寝時にメラトニンがより顕著に放出される可能性を示唆する初めての研究である。今後の研究では、数週間から数ヶ月にわたって頻繁に加重ブランケットを使用した場合に、メラトニン分泌に対する刺激効果が毎晩観察されるかどうかを調査する必要がある。観察されたメラトニンの増加が、先に述べた加重ブランケットの不眠症と不安に対する効果に治療上関連するかどうかは、まだ確定していない。



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