医療や介護その他夜勤を必要とする業務、はたまた受験生、または新生児を抱える親にとって、「徹夜」は他人事ではない。途中で仮眠を取ることも出来るが、その取り方によって身体への影響は変わるのだろうか?今回、広島大学の研究者は、仮眠をしない、長い仮眠を1回取る、短い仮眠を2回取る場合を比較し、その身体への影響を調べて報告している。
広島大学の折山早苗氏は、過去の研究データを用いて、看護職員が夜勤中にとった仮眠の長さとタイミングが、眠気、疲労、仕事のパフォーマンスにどのように影響するかを調査した。この研究結果は、新米両親にも当てはまる可能性があるという。
「長期的なパフォーマンスを維持するための90分の仮眠と、より低い疲労度と素早い反応を維持するための30分の仮眠を戦略的に組み合わせることで、早朝の作業効率と安全性を高めることができる」と、折山氏は結論づける。
日中は光に敏感な体内時計(サーカディアン)が覚醒を促し、夜間はスイッチを切る準備をする。夜勤はこの概日リズムを狂わせ、眠気、集中力の低下、能率の低下につながる。昼寝をすることで夜勤の悪影響が軽減されるという研究もある。
日本の公立病院の看護職員は、16時間の夜勤の間、通常2時間まで睡眠や休息をとることが許されている。折山氏は、午後4時から午前9時までの夜勤シフトをシミュレートした際、120分の仮眠を1回とる群(仮眠1回群)、90分の仮眠の後に30分の仮眠をとる群(仮眠2回群)、仮眠をとらない群を比較し、それぞれが覚醒度と認知パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを調べた。
その結果、仮眠をとらない群と仮眠を1回とる群では、仮眠を2回とる群に比べ、午前4時から午前9時までの眠気が悪化し、自覚的疲労感が増すことがわかった。一方、昼寝を2回すると、午前6時までの眠気と午前9時までの疲労が減少した。また、午前3時に終了する分割昼寝が眠気と疲労の影響を緩和することがわかった。
認知に関しては、昼寝は1回でも2回でもパフォーマンスの向上は見られなかった。しかし、90分の仮眠の間に眠りに落ちるのに時間がかかった看護師は、内田クレペリン検査(UKT)のスコアが悪かった。これは、能力面と性格や行動面の特徴を測る検査で、就職試験の適性検査でも使用されていて、計算力や事務処理能力、注意力などを測るものだ。
「例えば、午後4時から翌朝9時までの夜勤では、午前2時から午前9時までの間に高い安全レベルを維持するために迅速な対応が必要な作業が予定されている場合、午前12時に終了する120分の単相性仮眠よりも、午前12時に終了する90分と午前3時に終了する30分の分割仮眠の方がより効果的であると考えられます」と折山氏は述べた。
この研究では、仮眠のタイミングが重要であることもわかった。仮眠の開始時間を遅くすることは避けるべきだが、仮眠を遅くすればするほど眠気を防ぐのに効果的である。しかし、仮眠を遅らせすぎると、眠りたいという欲求が高まり、仕事の集中を妨げる可能性がある。
研究者は、この研究結果は新しい親に役立つかもしれないと言っている。
「この研究結果は、夜勤者だけでなく、乳幼児を育てている母親の睡眠不足による疲労を最小限に抑えるためにも応用できます」と折山氏は言う。
ただし、折山氏は、この研究の限界を指摘している。第一に、この研究は実験室条件下で行われたもので、実際の労働条件とは異なる。第二に、この研究に採用された女性には交代勤務の経験がなく、これが結果に影響を与えた可能性がある。
「したがって、仮眠をとる理想的な時間帯や、長時間の夜勤における仮眠の理想的なスケジュールについては、さらなる解明が必要です」と彼女は述べている。
論文
- Scientific Report: Effects of 90- and 30-min naps or a 120-min nap on alertness and performance: reanalysis of an existing pilot study
参考文献
- Hiroshima University: New parent? Night shift? New analysis suggests ideal nap strategy to survive all-nighters
研究の要旨
本研究の目的は、16時間の模擬夜勤中に120分の単相仮眠(One-nap)または90分と30分の分割仮眠(Two-nap)をとった直後と夜勤終了までの覚醒度と認知パフォーマンス、および睡眠の質と覚醒度とパフォーマンスの関係を調査することである。この研究は41名の女性を対象に行われた。そのうち15人が仮眠なし群、14人が仮眠1回群(22:00-00:00)、12人が仮眠2回群(22:30-00:00、02:30-03:00)に分けられた。参加者は16:00から09:00まで1時間ごとに、内田クラペリン検査の成績、主観的な疲労感や眠気、体温、心拍変動について検査を受けた。睡眠潜時が短いほど、90分の仮眠直後の覚醒度は悪かった。また、120分と30分の仮眠では、総睡眠時間が長くなると、起床時の疲労感と眠気が増加することが明らかになった。04:00から09:00にかけて、仮眠なし群と仮眠1回群では、仮眠2回群よりも疲労度が高かった。仮眠1回群と仮眠2回群では、朝のパフォーマンスの向上は見られなかった。これらの結果は、分割仮眠が長時間の夜勤中の眠気と疲労を改善する可能性を示唆している。
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