まだまだマスク生活が続きそうな日本だが、特に冬場、マスクをしているとメガネが曇ってしまうという経験を、メガネをかけている人ならば誰もが経験したことがあるはずだ。
曇り止めスプレーも市販されてはいるが、長期にわたって効果が持続する物はなく、またその効果自体が甚だ怪しい物もある。つまり、決定的な解決方法はいまだなかったわけだ。
だが今回、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)の研究チームは、この曇りの悩みを長期にわたって解決する完璧な方法を考案した。彼らは、酸化チタンと金粒子を使用した超薄膜で100%透明なコーティングを特許出願し、曇りの除去(表面に発生した霧を取り除くこと)と曇り防止(表面に霧が発生するのを防ぐこと)の機能を実現したのだ。
- 論文
- Nature Nanotechnology: Transparent sunlight-activated antifogging metamaterials
- 参考文献
市販の曇り止めスプレーは、親水性(水を引き寄せる性質)の分子を含んでいます。親水性分子が結露を吸着して均一に分散させ、視界を確保しやすくしている。比較して、自動車のリアウィンドウの曇り止めは、発熱する機構によって、結露を防いでいる。今回、ETH Zurichが開発したコーティングは、後者と同様“発熱”によって曇りを解消する方法だ。
このコーティングは、基本的に熱を利用して曇りを抑える。熱源は、最も一般的で簡単に手に入るエネルギー、すなわち太陽光だ。この太陽光のエネルギーの半分近くを占める、人間の目では見ることのできない近赤外線の波長帯を利用する。
コーティングは、太陽光の残りの50%である紫外線と可視光線を吸収しないため、コーティングは透明にしか見えない。最終的には、太陽光の近赤外線部分を選択的に吸収することで、表面を8℃まで加熱し、曇りの発生を防ぐことができるのだ。
金ナノ粒子のクラスターを2枚の極薄の酸化チタン層で挟んだもので、コーティング全体の厚さはわずか10ナノメートル(金箔の12分の1)と非常に薄いため、既存の標準的なコーティングの下に簡単に組み込むことができ、傷や汚れ、化学物質などの屋外からの影響から保護することができる。さらに、フレキシブルな基板にも蒸着でき、曲げても割れることがない。
酸化チタンの屈折率の高さが、加熱効果を高めている。また、外側の層は金を磨耗から保護するのに役立っている。さらに、金の層は電気を通すので、直射日光が当たらないときは、バッテリーなどの電源を使って加熱することも可能だという。
ただし、金メッキのメガネが店頭に並ぶには、まだしばらく時間がかかりそうだ。特許は申請しているが、採用する企業が決まっているわけではない。
また、この発明は眼鏡に限定されるものではないかもしれない。研究グループは、この層が車のフロントガラスの曇りを軽減するのに役立つと見ている。将来的には、鏡や窓など、暖かさを保つ必要のある多くの透明な表面にも応用できるかもしれない。
研究の要旨
眼鏡、窓、ディスプレイなど様々な用途において、表面の透明性を維持するための曇り対策は重要である。エネルギーニュートラルな受動的アプローチは、主に表面の濡れ性を制御することに依存しているが、不均一性、汚染物質の沈着、堅牢性の欠如に悩まされており、これらはすべて耐久性と性能を大幅に低下させる。ここでは、核生成熱力学に基づき、透明で太陽光で活性化する光熱式コーティングを設計し、フォギングを抑制することに成功した。このメタマテリアルコーティングは、ナノスケールの薄いパーコレーション金層を含み、太陽光エネルギーの半分が存在する近赤外領域で最も吸収されるため、可視光線の透明性を維持することができる。この光誘起加熱効果により、未塗装品と比較して優れた曇り止め効果(4倍向上)、除去効果(3倍向上)が持続し、屋内外、曇天下でも優れた性能を発揮する。このコーティングは非常に薄く(~10nm)、標準的で容易に拡張できる製造プロセスで製造できるため、他のコーティングの下に組み込むことができ、高コンプライアント基板でも耐久性を発揮することができる。
コメントを残す