Qualcommは、ミドルレンジ・スマートフォン向けチップセットの最新世代となる「Snapdragon 7+ Gen 3」を発表した。前世代のSnapdragon 7+ Gen 2と同様、Gen 3はスマートフォンのミドルレンジ・セグメントをターゲットとしており、プレミアムなハイエンドモデルの「Snapdragon 8 Gen 3」より控えめな性能とコストでプレミアムに迫る機能を提供する。
SoC | Snapdragon 7+ Gen 3 (SM7675-AB) | Snapdragon 7+ Gen 2 (SM7475-AB) | Snapdragon 7 Gen 3 (SM7550-AB) |
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CPU | 1x Cortex-X4 @ 2.8GHz 4x Cortex-A720 @ 2.6GHz 3x Cortex-A520 @ 1.9GHz | 1x Cortex-X2 @ 2.91GHz 3x Cortex-A710 @ 2.49GHz 4x Cortex-A510 @ 1.8GHz | 1x Cortex-A715 @ 2.63GHz 3x Cortex-A715 @ 2.4GHz 4x Cortex-A510 @ 1.8GHz |
GPU | Adreno | Adreno | Adreno |
DSP / NPU | Hexagon | Hexagon | Hexagon |
メモリ・コントローラー | 4x 16-bit CH @ 4200MHz LPDDR5X / 67.2GB/s | 2x 16-bit CH @ 3200MHz LPDDR5 / 25.6GB/s | 2x 16-bit CH @ 3200MHz LPDDR5 / 25.6GB/s |
ISP/カメラ | Triple 18-bit Spectra ISP 1x 200MP or 108MP with ZSL or 64+36MP with ZSL or 3x 32MP with ZSL 4K HDR video & 64MP burst capture | Triple 18-bit Spectra ISP 1x 200MP or 108MP with ZSL or 64+36MP with ZSL or 3x 32MP with ZSL 4K HDR video & 64MP burst capture | Triple 12-bit Spectra ISP 1x 200MP or 64MP with ZSL or 32+21MP with ZSL or 3x 21MP with ZSL 4K HDR video & 64MP burst capture |
エンコード/デコード | 4K60 10-bit H.265 H.265, VP9 Decoding Dolby Vision, HDR10+, HDR10, HLG 1080p240 SlowMo | 4K60 10-bit H.265 H.265, VP9 Decoding Dolby Vision, HDR10+, HDR10, HLG 1080p240 SlowMo | 4K60 10-bit H.265 H.265, VP9 Decoding Dolby Vision, HDR10+, HDR10, HLG 1080p120 SlowMo |
Wi-Fi | FastConnect 7800 Wi-Fi 7 + BT 5.4 2×2 MIMO | FastConnect 6900 Wi-Fi 6E + BT 5.3 2×2 MIMO | FastConnect 6700 Wi-Fi 6E + BT 5.3 2×2 MIMO |
モデム | X63 Integrated 3GPP Rel 17 (5G NR Sub-6 + mmWave) DL = 4.2 Gbps UL = 3.5 Gbps 5G/4G Dual Active SIM (DSDA) | X62 Integrated (5G NR Sub-6 + mmWave) DL = 4.4 Gbps 5G/4G Dual Active SIM (DSDA) | X63 Integrated 3GPP Rel 17 (5G NR Sub-6 + mmWave) DL = 5.0 Gbps 5G/4G Dual Active SIM (DSDA) |
製造プロセス | TSMC 4nm | TSMC 4nm | TSMC 4nm |
Snapdragon 7+ Gen 3は、Qualcommが先日発表した「Snapdragon 8s Gen 3」のカットダウンバージョンのように見える。Snapdragon 7+ Gen 3は、Arm Cortex-X4コアを搭載した最も安価なQualcomm SoCだ。クロックは2.8GHzで、Snapdragon 8 SoCのような3GHz以上のクロックスピードは出せないが、それでもSnapdragon 7+ Gen 3は、Qualcommが現在のモバイルチップで提供している中で最も強力なCPUコアを搭載していることに変わりはない。残りのCPUコアは、Snapdragon 8s Gen 3と同じCortex-A720パフォーマンスコアとCortex-A520効率コアの組み合わせで、クロック周波数2.6GHzのA720が4個、そしてクロック周波数1.9GHzのA520が3個搭載されている。
QualcommはSnapdragon 7+ Gen 3とSnapdragon 8s Gen 3のCPU性能の比較については触れず、それぞれ、前世代のSnapdragonチップとの性能比較に重点を置いている。CPUコアアーキテクチャの変更により、Snapdragon 7+ Gen 3は「前世代」チップよりもマルチスレッドCPU性能を15%ほど向上させているようだ。
だが、注目すべきは、チップに供給されるメモリサブシステムである。Snapdragon 7+ Gen 2は、Snapdragon 7チップの一般的なサイズである32ビットのLPDDR5メモリバスを搭載していたが、Snapdragon 7+ Gen 3は、一般的にSnapdragon 8チップに限定される構成である64ビットのLPDDR5Xメモリバスを搭載すると言う大きな進化を見せている。その結果、Snapdragon 7+ Gen 3はSnapdragon 7+ Gen 2の2.5倍以上のメモリ帯域幅を利用できるようになり、最新の7+チップのピークメモリ帯域幅は67.2GB/秒となった。メモリバスの幅が広くなったことで、メモリ帯域の大部分を担っているが、LPDDR5Xのサポートが追加されたことも見逃せない。最大速度がLPDDR5X-8400であっても、Snapdragon 7+ Gen 2に対してメモリサブシステムが大幅にアップグレードされたことになる。
これは結果としてGPU性能の大幅な向上に繋がっている。Qualcommは、この新しいチップのGPU性能は第2世代チップに比べて45%向上しているとアピールしている。
Snapdragon 8 Gen 3ではハードウェア・レイトレーシングとグローバル・イルミネーションがサポートされ、8s Gen 3では(現在も)レイトレーシングがサポートされているが、7+ Gen 3ではレイトレーシングのサポートが完全に廃止されている点には注意が必要だ。その結果、比較的強力なGPUであることに変わりはないが、フラッグシップ/プレミアムスマートフォンの基準からすると、機能面では明らかに見劣りするのも否めない。ただし、Adreno GPU IPのバージョンには、Snapdragon 8 Gen 3で初めて導入されたQualcommのフレーム生成エンジン「Adreno Frame Motion Engine 2.0」が搭載されている。
一方、Qualcommは今年発売する全てのSoCに生成AI機能を搭載しようと考えているのか、Snapdragon 7+ Gen 3は搭載NPUによるオンデバイスAIモデル駆動を正式にサポートしている。ただしQualcommのスペックシートには、Snapdragon 7+ Gen 3で使用されているNPU IPの世代がSnapdragon 7+ Gen 2と大きく異なるようには記載されていないため、Snapdragon 8s Gen 3と同様、ハードウェア機能よりもソフトウェアイネーブルメントによるところが大きいようだ。
続いて、Snapdragon 7+ Gen 3はQualcommのトリプル18ビットSpectra ISPをカメラシステムに採用しており、新世代の「コグニティブ」IPを使用している。生の機能と解像度の制限という点では、4K60ビデオ・キャプチャと最大200MPの写真という前世代と変わらないが、画像処理機能は着実に改善されている。最も注目すべきは、このバージョンのSpectra ISPが、写真処理のためのセマンティック・セグメンテーションをサポートしていることだ。
残念な点としては、AV1デコードが搭載されない事だ。Snapdragon 7+ Gen 3はVP9とH.265ビデオをハードウェアでデコードできるが、AV1のハードウェアデコーディングは今のところSnapdragon 8シリーズだけとなる。Snapdragon 7+ Gen 3が実際にはSnapdragon 8s Gen 3と同じダイを使用していると仮定すると、これはAV1デコードが機能/コストの差別化要因として意図的に抑えられていることを意味する。
最後に、Snapdragon 7+ Gen 3の通信面はSnapdragon 7+ Gen 2からのサイドグレードである。Snapdragon X63統合モデムとして分類されるSnapdragon 7+ Gen 3は、sub-6とmmWaveスペクトルの両方をサポートし、mmWaveでは2×2 MIMO、sub-6では4×4 MIMOを搭載する。このチップの最大5Gアップロード速度は3.5Gbpsと評価されているが、理論上のダウンロード速度は4.4Gbpsに対して4.2Gbpsと、前世代より少し遅い。
X63モデムと組み合わされるのは、QualcommのFastConnect 7800システムで、2×2 MIMOのWi-Fi 7とBluetooth 5.4をサポートする。Snapdragon 7 SoCでWi-Fi 7がサポートされるのはこれが初めてだ。
全体としてQualcommは、Snapdragon 7+ Gen 3をGen 2の端的な後継機と位置付けており、CPU性能を大幅に向上させ、GPU性能をより大幅に向上させ、エネルギー効率を5%向上させている。前世代と比較して、最新の7+ SoCには新しいハードウェアとソフトウェアの機能が混在しているが、カニバリズムを防ぐためにも、8/8sとは明らかに十分に差別化/制限されている。
Qualcommによると、Snapdragon 7+ Gen 3を搭載したスマートフォンは数カ月以内にリリースされる予定だという。最初に採用されるOEMは、Sharp、realme、OnePlusとなる。
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