沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らが、世界で初めて量子力学の原理を利用した画期的な「量子エンジン」の設計・製作に成功した。
特定の量子領域の粒子間のエネルギーの不均衡に基づくこの新しい量子エンジンは、エネルギーやコンピューティングのような業界全体に革命をもたらす可能性がある。
量子エンジンの基本的な概念
一般的な内燃機関は、燃料と空気の点火によってシリンダー内に発生する圧力を利用する。この燃料と空気の燃焼がピストンを上下させ、モーターのクランクシャフトを前進させる。サイクルを回すと、このシステムは自動車、ボート、飛行機から芝刈り機や除草機まで、あらゆるものに動力を供給するのに十分な安定した力を生み出す。
今回、OISTの研究者らが概念実証に成功した「量子エンジン」と呼ぶまったく新しいタイプの発電機は、内燃エンジンと同じ原理、すなわち圧力を発生させることで動作するが、彼らの設計では作動に熱を必要とせず、その代わりに量子の不思議な性質を利用しているという。
量子にはさまざまな種類があり、研究者たちは常に新しい粒子を発見している。ミュー粒子であれ、グルーオンであれ、アップクォークであれ、ダウンクォークであれ、すべての量子はフェルミ粒子とボース粒子の2つに大別される。これら2つの量子の主な違いは、その静止エネルギー状態であり、特に極低温では最も珍しい(そして将来有望な)量子領域効果が生じる。
この違いが、沖縄科学技術大学院大学量子システムユニットの科学者チームを、世界初の超小型量子エンジンを設計し、実際に製作するのに十分なのか疑問に思わせた。いくつかの設計を試みた後、彼らはフェルミ粒子同士を組み合わせてボース粒子を作り、そのボース粒子を分解してフェルミ粒子を作るというアイデアを思いついた。理想的なのは、これが内燃機関内部の作用のように周期的に起こり、この周期的な反応によって駆動する量子エンジンができることだ。
「フェルミ粒子をボース粒子に変えるには、2つのフェルミ粒子を組み合わせて分子にします。この新しい分子がボース粒子です。この分子を分解することで、フェルミ粒子を再び取り出すことができます。これを繰り返し行うことで、熱を使わずにエンジンを動かすことができるのです」と、量子システム研究ユニットを率いるThomas Busch教授は説明する。
主な欠点は、この小さなエネルギー生成所が、フェルミ粒子とボース粒子のエネルギー差という特異な量子特性を維持するために極低温に依存していることである。それでも、量子エンジンの実際の設計は驚くほどシンプルである。さらに、研究者らは、彼らの量子エンジンの効率は「かなり高い」とも言っており、ドイツの共同研究チームが構築した現在の実験の設定では、最大25%効率を高められることが分かったという。
研究者らは、研究室内で動作する概念実証ではなく、実用的な量子エンジンを作るという目標を実現するためには、重要なステップが必要であることにも注意を促している。
OISTの研究者であるKeerthy Menon氏は、「このようなシステムは非常に効率的ですが、私たちは実験協力者とともに概念実証を行ったにすぎません。「有用な量子エンジンを構築するには、まだ多くの課題があります」と、述べている。
研究者たちが最終的に成功すれば、この種のシステムは、エネルギー発電、送電、貯蔵などのエネルギー分野を完全に変える可能性がある。
論文
参考文献
- 沖縄科学技術大学院大学:量子革命の原動力、「量子エンジン」が実現する日も近い?
- via Phys.org
研究の要旨
熱機関は、古典的な領域でも量子的な領域でも、熱エネルギーを機械的な仕事に変換する。しかし、量子論は、熱とは異なる非古典的なエネルギー形態を提供する。ここでは、パウリの排他原理に由来する超低温粒子のフェルミオンのエネルギーとボソニックのエネルギーの差を燃料とする量子多体エンジンを実験的に実現する。磁場を通して、ボース・アインシュタイン凝縮したボソン分子とユニタリー・フェルミ気体の間で(あるいはその逆で)気体を調整することにより、量子統計量をボース・アインシュタインからフェルミ・ディラクへと効果的に変化させることができる。このようなパウリエンジンの量子的性質は、古典的な熱領域におけるエンジンや、純粋な相互作用駆動装置と対比させることによって明らかにされる。その結果、1サイクルあたり数106の振動量子が得られ、その効率は最大25%であった。この発見は、量子統計が仕事生成のための有用な熱力学的資源であることを立証するものである。
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