1950年の平均寿命は60歳に満たなかった我々が、現在は80歳に届こうとしている中、今後は更に平均寿命を伸ばすことが可能になるかもしれない画期的な研究が明らかになった。バージニア大学の研究者は、大幅な長生きを実現する可能性のあるアンチエイジング・デトックス・アプローチを発見したのだ。
このグループは、実は別のことを研究していたのだが、思いがけない発見に巡り会った。このアプローチは、有害物質が酵素によって代謝され、その有害作用が緩和され、寿命が大幅に延びるという新しいメカニズムの発見による。モデル動物である線虫や酵母の実験で、adh-1遺伝子の発現量を増やすと老化が遅れることが明らかになり、研究グループは、人間でも同じことができるのではないかと考えている。
「この発見は予想外のものでした」と、上級著者であるEyleen Jorgelina O’Rourke博士は声明の中で説明している。「我々は、長寿の秘訣はオートファジーという名の細胞若返りプロセスの活性化であるという非常に支持された仮説を追い求めていた中、結局、健康と寿命延長における、これまで認識されていなかったメカニズムを発見したのです」
線虫は、その遺伝子の70%以上をヒトと共有しており、長年にわたり、この地味な小さな虫が、科学的発見のための非常に貴重なツールであることを証明してきた。線虫や他の生物におけるこれまでの研究から、O’Rourke氏と研究チームは、細胞のリサイクルプロセスであるオートファジーがアンチエイジングの礎となる可能性があると考えるようになった。
その結果、オートファジーを全く増加させることなく、ミミズの寿命を50%延ばすことに成功したのだから、その驚きは想像に難くないだろう。
チームは、「Alcohol and aldehyde dehydrogenase Mediated Anti-aging Response」の頭文字をとって「AMAR」と名づけた。これは偶然ではあるが、サンスクリット語で「不滅」を意味するという。
研究チームは、このメカニズムを活性化することで、体内に自然に蓄積される脂肪の副産物である2つの物質の代謝が促進されると予測した。そのうちの1つであるグリセロールは直接分解され、その結果、もう1つのグリセルアルデヒドの分解に間接的につながる。グリセロールとグリセルアルデヒドには毒性があると考えられており、これらを除去することで、健康的な老化や長寿を促進することが期待されるのだ。
さらに、アルコール脱水素酵素をコードするadh-1という1つの遺伝子の発現量を増やすだけで、AMAR効果を活性化できることも予想外の発見だった。
線虫の実験により弾みが付き、研究チームは、酵母でもこの研究成果を検証し、同様に寿命に有益な影響を与えることができた。さらに、文献を調べたところ、ヒトを含む哺乳類において、アルコール脱水素酵素レベルの上昇と絶食・カロリー制限(アンチエイジングのための介入と考えられている)の間に相関関係があることが判明したのだ。
研究グループは、グリセロールとグリセルアルデヒドは、加齢に伴い体内に蓄積される脂肪の量が増えるため、時間の経過とともに自然に増加すると考えている。また、グリセロールとグリセルアルデヒドの毒性を回避し、長寿を実現するために、他の動物でもAMAR機構を活性化できる可能性が示唆された。
O’Rourke氏は、「我々は、AMARを標的とした治療薬の開発に関心が集まることを期待しています。現在、加齢に伴う疾病が患者さんやその家族、医療制度にとって大きな健康負担となっている中、老化のプロセスそのものを標的とすることは、この負担を軽減し、すべての人が自立した健康な生活を送る年数を増やす最も有効な方法となるでしょう」と、述べている。
AMARは、脂肪から毒性を取り除き、健康を増進させる方法を提供するかもしれまないが、もしかしたら、私たちが余分な体重を落とすのにも役立つかもしれない。
論文
- Current Biology: Increased alcohol dehydrogenase 1 activity promotes longevity
参考文献
- University of Virginia:
- via New Atlas: Wonder enzyme may hold the key to longer, healthier lives
研究の要旨
いくつかの分子は、生物全体の健康寿命や寿命を延ばすことが出来る。しかし、そのほとんどは、上流のシグナル伝達ハブか、複雑なアンチエイジングプログラムを編成する転写因子である。したがって、これらの分子は、長寿を駆動する基本的なメカニズムを指し示すものではあるが、それを明らかにするものではない。むしろ、条件や生物種を超えて長寿を促進するのに必要かつ十分な下流エフェクターが、アンチエイジングの基本的なドライバーを明らかにする可能性がある。なぜなら、TFEB/HLH-30はアンチエイジングの介入に必要であり、その過剰発現は線虫の寿命を延ばし、ヒトを含む哺乳類の老化のバイオマーカーを減少させるのに十分であるからである。その結果、HLH-30の過剰発現、カロリー制限、mTOR阻害、インスリンシグナル欠損によって駆動される線虫の長寿に必須なアルコールデヒドロゲナーゼを介した抗加齢反応(AMAR)を提示することが出来た。ADH-1の過剰発現は、AMARの活性化に十分であり、加齢に関連し老化を促進するアルコールであるグリセロールのレベルを下げることにより、健康寿命と寿命を延長させる。また、Adh1の過剰発現は酵母の長寿を促進するのに十分であり、adh-1のオルソログはカロリー制限されたマウスやヒトで誘導されることから、ADH-1は系統を越えてアンチエイジングエフェクターとして働くことが示唆された。
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