太陽光発電は、再生可能エネルギーの源としてますます重要性を増していることに多くの人は賛成することだろう。ただ、太陽との角度の問題で発電量が下がったり、曇りの日は発電量が下がったりなど、課題はまだまだ多い。そんな問題に対して、スタンフォード大学の技術者たちは、このたび、あらゆる角度からの太陽光を太陽電池に集光し、日の出から日没まで発電し続けることができる画期的なピラミッド型のレンズを開発したと報告している。
- Stanford University : Stanford engineers’ optical concentrator could help solar arrays capture more light even on a cloudy day without tracking the sun
- Microsystems&Nanoengineering : Immersion graded index optics: theory, design, and prototypes
太陽光の入射角や環境に縛られずに発電が可能に
太陽電池は直射日光の下で最もよく機能する特徴がある。つまり、多くの太陽電池は1日に数時間しかエネルギーを生成できないのだ。なるべく太陽光が当たるようにと、太陽の動きに追従するようなシステムもあるが、そう言ったシステムはそれ自体がエネルギーを消費し、機械的な複雑さも増すため問題も多い。
スタンフォード大学の研究チームは、太陽光発電パネルが、太陽を追いかける必要がないように、あらゆる角度から当たる太陽光を集め、それを直下の太陽電池に集中させることができる新たな技術の開発に着手した。その結果、研究チームがAGILE(Axially Graded Index Lenses)と呼ぶ逆ピラミッド型構造の配列を開発し、太陽電池の保護面上に集光用の新たな層を設けることで、集光効率を劇的に上げることが可能になったという。
AGILEのプロトタイプは、テストにおいて、表面に当たった光の90%以上を捕らえることができ、太陽電池に届くまでに3倍の明るさになるように光を集光することができた。このシステムは、間接的に太陽光を集めることで太陽電池の効率を向上させ、理想的でない天候(例えば雨や曇りの時)や条件下でも出力を高めることができたとのことだ。また、太陽光発電の入射角として理想的ではない角度の光線でも、屈折させて理想的な形で太陽光パネルに届けることが可能になるとのこと。
AGILEはパッと見シンプルに見えるが、これを作り上げるまでの技術・工程は非常に複雑だ。ピラミッドは、屈折率の異なるガラスやポリマーを積み重ねたもので、それぞれの層で光の屈折率が異なっている。一番上の層は屈折率が低いので、どの角度から光が入っても対応出来るようになっており、下に行くに従って少しずつ光を屈折させ、下の太陽電池に焦点を合わせるように作られている。側面は鏡面になっており、外れた光を必要なところに跳ね返すように作られている。
このように複数の材料を使うことで、近紫外線から赤外線までの幅広いスペクトルの光を取り込むことができるという。さらに、それぞれの材料が熱で膨張する速度が同じで、デバイスにひびが入らないようにするなど、材料の相性を確認することも必要だったようだ。研究の結果、AGILEは複数の材料を用いているが、3Dプリントで製造できるようになったという。
科学的な発見の中には、自然界からアイデアや着想を得た物が多くある。例えば、蝶の羽やハエの目、花びら、魚のヒレなどがあるが、AGILEのデザインは「自然界から生まれたものではありません」と論文の著者のNinaVaidya氏は述べている。しかし、論文では、「魚の網膜(Gnathonemusなど)や昆虫の複眼(Lepidopteraなど)に見られるAGILEの特徴があり、カモフラージュと同時に透過率を最大限にする反射防止として勾配指標が存在しています」とも述べている。
研究チームは、この新システムにより、太陽エネルギーの利用場所を拡大し、コストと土地の両方を削減できる可能性があるとしている。AGILEは、宇宙船の太陽電池を改良することもできるだろう。
スタンフォード大学のプレスリリースによると、AGILEの商業化計画についてはまだ考えられていないが、プロトタイプは、容易に入手できる材料を用いて、太陽光発電産業を念頭に置いて設計されたとのことだ。
Vaidya氏は、「豊富で安価なクリーンエネルギーは、気候変動や持続可能性に関する緊急の課題に対処するために不可欠な要素です。我々は、それを実現するための工学的ソリューションを触媒する必要があります」と述べている。
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