科学者たちは、磁場によって操縦されるバイオニック・バクテリアを用いて、腸内毒素と呼ばれる殺癌化合物を腫瘍に送達する新しい方法を考え出した。
これらの細菌は「マイクロロボット」として機能し、特定の腫瘍を探し出し、その周囲に集まり、自ら自然に生成した抗癌剤を放出し、腫瘍を縮小させる働きをするという。
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研究者は、従来の手法ではアクセスできず、手術が不可能だった腫瘍について、磁石を使って細菌を誘導するというアイデアを思いついた。しかし、そのような目的地に到達するために磁石で制御できるバクテリアは多くはなかった。
しかし、ある特殊な水中バクテリアのグループが、この特殊な性質を備えている事が分かった。このバクテリアは、体内で生成される小さな鉄の結晶をコンパスのように使って、磁力によって誘導されやすくなっているのだ。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校のマイクロロボット研究者であり、今回の研究の著者の一人であるSimone Schürle-Finke(シモーネ・シューレ=フィンケ)教授が率いる研究チームは、この細菌ががん細胞を標的にする能力をテストするために、細菌に蛍光タグと薬剤を含むナノ粒子を装着した。その結果、遺伝子操作によって作られた細菌ロボットは、ナノ粒子を推進力にして、合図とともにがんと闘う化合物を放出することができた。まさに、バクテリアをロボットのように操作することに成功したのだ。
Schürle-Finke氏は、これらの新しく設計された微生物が腫瘍に到達すると、「基本的に小さなナノ工場ができ、がん細胞に対して有毒な分子を放出し続ける のです」と付け加え、説明している。
彼らは、このロボットをがん化したマウスに注射して実験した。さらに、外部から発生させた磁場を用いて、マウスの腫瘍に細菌を誘導したのだ。その結果、磁場をかけなかった対照群に比べ、3倍以上の精度で、腫瘍を縮小させるという目標を達成することができたという。
この研究はエキサイティングなものではあるが、マイクロロボット化したバクテリア技術ががん治療の主流になるには、まだ改良が必要だ。
ひとつには、「われわれがテストしたこれらの細菌は、人体にとってはかなり異質なものです」とSchürle-Finke教授が言うように、バクテリアはがんと闘う化合物を自然に生成する段階にないからだ。
研究が進めば将来的に、磁性細菌の磁性鉄球の生成に関与する遺伝子群を特定し、それを無害な大腸菌、サルモネラ菌、クロストリジウム菌など、より身近なモデル生物に移植することが試みられる可能性もあると言う。
Schürle-Finke氏は細菌治療の可能性に期待を寄せている。そして、腫瘍学から微生物学、ロボット工学に至るまで、科学分野の垣根を越え、研究が進むことを望んでいる。「このように科学が融合することは素晴らしいことだと思います」と彼女は述べている。
研究の要旨
バイオハイブリッド型バクテリアベースのマイクロロボットは、がん標的治療のための有望な外部制御可能なビークルとして、ますます認識されるようになってきている。特に磁場は、エネルギーを伝達し、その動きを指示する安全な手段として用いられてきた。しかし、これまでの磁気制御は、拡張性の低い磁場勾配に依存し、アクティブな位置フィードバックが必要で、体内の拡散分布には不向きであった。本論文では、磁気応答性モデル生物としてMagnetospirillum magneticumを取り上げ、様々な細菌が示す腫瘍コアへの生得的な移動を補完する、生体障壁を通過する磁気トルク駆動型制御方式を提示する。このハイブリッド制御法は、位置フィードバックに依存せず、容易に拡張可能であり、循環系によって分散される細菌マイクロロボットに適用できる。その結果、磁気応答性細菌が血管内皮モデルを横切って移動する量が4倍増加することを確認し、その主なメカニズムは、細胞界面におけるトルク駆動型の表面探査であることを明らかにした。3次元腫瘍モデルとしてスフェロイドを用い、回転磁場に曝した試料では、蛍光標識した細菌がその中心部に最大21倍のシグナルでコロニーを形成した。さらに、誘導検出による閉ループ最適化、オフターゲット効果を低減するための空間選択的な作動など、この制御方式がさらなる利点を持つことを実証した。最後に、マウスに全身投与したところ、細菌腫瘍の集積が有意に増加したことから、この制御方式を磁気応答性バイオハイブリッドマイクロボットの臨床応用に展開することが可能であることを支持するものである。
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