現代社会は電気で動いている。その電気を地球上のすべての照明、テレビ、暖房器具、携帯電話、コンピューターに運んでいるのが電線だ。しかし、石炭発電所や太陽光発電所では、発電所から最終目的地まで電気を送る際に、平均して約5%の電力が失われている。これは、米国だけでも年間60億ドルの損失に相当する。
何十年もの間、科学者たちは、ほぼ100%の効率で電気を送ることができる超伝導体という物質を開発してきた。私は物理学者として、超伝導体が原子レベルでどのように機能するのか、超低温でどのように電流が流れるのか、そして浮遊などの応用がどのように実現するのかを研究している。近年、比較的常温・常圧で機能する超伝導体の開発が大きく進んでいる。
なぜこのようなことができるようになったのか、どのような影響があるのかを知るためには、超電導材料の仕組みを理解することが重要だ。
抵抗のない素材
超伝導体とは、電流の流れに抵抗を与えることなく電気を通す物質のこと。
銅やアルミニウムなどの一般的な導電体は、電流を流すと熱を持つが、超電導体はこの抵抗がないのが大きな特徴だ。これは、滑らかな表面で手を素早く滑らせるのと、ざらざらした敷物の上で手を滑らせるのとに似ている。絨毯の方が摩擦が大きいので、熱も大きくなる。電気トースターや旧式の白熱電球は、抵抗を使って熱や光を発生させているが、電子機器では抵抗が問題になることがある。半導体の抵抗は導体より小さいが、超伝導体より大きい。
超電導体のもう一つの特徴は、磁界をはじくことだ。超伝導体の上に磁石を浮かせることができるのだ。
超電導の仕組みは?
すべての超電導体は、電気的に中性な物質でできている。つまり、原子はマイナスに帯電した電子を含み、同数のプラスに帯電した陽子で核を囲んでいる。
ワイヤーの一端をプラスに帯電しているものに、もう一端をマイナスに帯電しているものに取り付けると、システムは電子を動かして平衡になろうとする。そのため、電線の中の電子は物質中を移動しようとする。
常温では、電子はやや不規則な経路で動いている。一般的には電線の中を自由に移動することに成功するが、たまに物質の原子核と衝突することがある。この衝突が、電子の流れを妨げ、抵抗となり、物質を熱するのだ。
すべての原子の原子核は、常に振動している。超伝導物質では、電子はランダムに飛び回るのではなく、振動する原子核と同調するように原子から原子へと受け渡される。この協調的な動きによって、衝突が起きず、抵抗も熱も発生しないのだ。
物質が低温になればなるほど、電子と原子核の動きは組織的になる。そのため、既存の超伝導体は極低温でしか機能しないのだ。
電子機器へのメリット
もし科学者が常温超伝導材料を開発できれば、電子機器のワイヤーや回路はより効率的になり、熱の発生もはるかに少なくなるはずだ。その恩恵は広範囲に及ぶだろう。
電気を送るための電線を超電導素材に置き換えると、現在のケーブルに比べて最大で5倍もの電気を効率よく送ることができるようになる。
コンピュータの速度は、チップ上の1つの電気回路にどれだけ多くのワイヤーを詰め込めるかでほぼ制限される。電線の密度は、廃熱によって制限されることが多い。もし、超電導線材を使うことができれば、1つの回路に多くの線材を入れることができ、より高速で安価な電子機器を実現することができる。
最後に、常温の超伝導体があれば、磁気浮上は電車から蓄電装置まで、あらゆる用途に使えるようになる。
高温超電導の基礎物理を研究する研究者や、新たな応用を期待する技術者は、最近の進歩に注目している。
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