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数学は人類が自然を理解するために生み出した学問であるが、自然を注意深く観察すると、そこには我々自身が考えている以上に数学の美しさが隠されている事に気付かされ、改めて驚かされる。

例えば、フラクタルは抽象的な数学の概念であるが、実は自然界に広くみられることがわかっているし、フィボナッチ数列の美しさは花びらの枚数」や「松ぼっくりの鱗模様の列数」、「ひまわりの種の列数」、「ウサギの増え方」など、多くの場面で見られる。

Chou Romanesco
フラクタルの例、野菜のロマネスコ (Credit: Bouba at French Wikipedia)

そんな数学と自然の新たな驚くべき関係を、今回オックスフォード大学、ハーバード大学、ケンブリッジ大学、GUST、マサチューセッツ工科大学(MIT)、インペリアル大学、アラン・チューリング研究所の研究者チームの著名な研究機関からなる学際的な科学者チームが発見し、『Journal of The Royal Society Interface』に報告している。今回研究者らは、数論の一分野である重要な関数が、遺伝子の突然変異が機能の変化に繋がる頻度を予測出来ることを発見したのだ。これは純粋数学の数論と分子レベルで生命の進化を支配するメカニズムである遺伝学を結びつける物で、中立突然変異の構造と生物の進化に光を当てる画期的な物である。

数学の女王

正の整数の性質を研究するものとして知られる数論は、伝統的に非常に抽象的な数学の分野であり、実社会への応用は限られていると考えられてきた。ドイツの偉大な数学者Carolus Fridericus Gaussは、数論が美しい理論であるだけでなく、他の分野の役に立たないからこそ「数学は科学の女王であり、数論は数学の女王である」と述べているほどだ。しかし、その発見から時が経つにつれ、数論は科学や工学など多様な分野で驚くべき関連性を見出している。例えば、フィボナッチ数列に忠実な葉の角度や、素因数分解に基づく現代の暗号化技術などである。そして今回、数論は進化遺伝学に思いがけない形で登場した。

「数論の美しさは、整数間の抽象的な関係を明らかにするだけでなく、自然界に見られる深い数学的構造にもあります」と、オックスフォード大学の数学者であり、この新しい研究の主執筆者であるArd Louis氏は説明する。

すべての遺伝子型(ある遺伝子のDNAの文字)には、表現型、つまり最終的な結果が存在する:新しいタンパク質、あるいは別の遺伝子を制御する遺伝子の場合には行動である。与えられた遺伝子型は、その表現型が変化する前に、多くの突然変異を蓄積することができる。

研究チームは、この突然変異に注目した。突然変異とは、時間の経過とともに生物のゲノムに入り込み、進化を促す遺伝的エラーである。突然変異の中には、遺伝的配列の一文字の変化で病気を引き起こしたり、予期せぬ利点をもたらすものもあれば、生物の外見、形質、行動(表現型)に観察可能な影響を及ぼさないものもある。

生物の外見、形質、行動(表現型)にに影響を及ぼす物は中立突然変異と呼ばれることもあり、観察可能な影響はないが、進化が働いていることを示す指標となる。突然変異は時間の経過とともに一定の割合で蓄積され、共通の祖先から徐々に分岐していく生物間の遺伝的関係を示している。

数論と遺伝学の出会い

研究者らは、実際の表現型が変異に対してどの程度堅牢なのかを突き止めることにした。

この堅牢性は遺伝学だけでなく、物理学やコンピューター・サイエンスなどの分野でも見られることから、そのルーツが可能な配列の基本的な数学にあるのではないかと考えた。彼らは、この可能な配列をハイバーキューブとして知られる多次元の立方体として想定し、この可視化不可能な立方体上の各点を可能な遺伝子型として考えた。同じ表現型を持つ遺伝子型は、最終的には集まってくるはずだと研究者らは考えた。問題は、そのクラスターがどのような形をとるかである。

今回、研究者らは数論から得られるsum of digits関数が、遺伝子の突然変異が機能の変化につながる頻度を予測できることを発見した。sum of digits関数は、与えられた底の自然数の桁の和を計算し、数論と遺伝学の間の興味深いつながりを提供する。つまり、立方体上の各遺伝子型を表す数字を足すことで、その遺伝子型の平均的な堅牢性が得られるということである。これらのルールは、タンパク質の折り畳み、コンピューター・コーディング、物理学におけるある種の磁気状態などの側面も支配している。

研究チームは、最大の堅牢性が、ある表現型に対応するすべての可能な配列の割合の対数に相当することを立証することで、この疑問を解決することに成功した。さらに、sum of digits関数による補正係数が、この関係にさらに寄与している。

研究者たちはまた、最大堅牢性と高木曲線の間に予想外の関連性を発見した。この曲線は、フランス菓子のブランマンジェに似ていることからブランマンジェ曲線とも呼ばれ、数論と遺伝学の結びつきをさらに強めている。

この発見は、進化遺伝学の研究にとって重要な意味を持つ。多くの遺伝子変異は中立的なカテゴリーに分類される。つまり、生物の生存能力に影響を与えることなく、長い時間をかけて蓄積することができる。このような中立的な突然変異は、ゲノム配列を既知の割合で徐々に変化させるため、科学者は2つの生物間の配列の差の割合を比較し、その最も最近の共通祖先がいつ存在したかを特定することができる。

しかしながら、このような中立突然変異の存在は、ある配列に対する突然変異のうち、どの程度の割合が中立的なのか、という重要な問題を提起する。この疑問に答えるため、研究者たちは、表現型に影響を与えることなく配列に起こりうる変異の平均数を定量化する、表現型の変異堅牢性を調査した。

Louis教授は、今回の発見の意義を強調した。「われわれは以前から、多くの生物学的システムが表現型に顕著な堅牢性を示すことを知っていました。しかし、その堅牢性の絶対的な最大値や、そのような最大値が存在するのかどうかさえわかっていませんでした」。

ハーバード大学医学部の筆頭著者であるVaibhav Mohanty博士は、この発見に驚きを隠せない。「最も驚くべきことは、配列からRNA二次構造へのマッピングにおいて、自然界が場合によっては正確な最大堅牢性境界を達成しているという明確な証拠を発見したことです。まるで生物学がフラクタル的なsum of digits関数を認識しているかのようです」。

Louis教授はさらに、整数間の抽象的な関係を明らかにするだけでなく、自然界において深遠な数学的構造を照らし出す数論の美しさと意義を強調した。研究者たちは、この研究はほんの始まりに過ぎず、数論と遺伝学の間の多くの魅惑的なつながりが将来発見されるだろうと信じている。

また、このような中立突然変異の動態を理解することは、いずれ病気を予防する上で重要になるかもしれない。ウイルスやバクテリアは急速に進化し、その過程で多くの中立的変異を蓄積する。もし、このような病原体が、籾殻のようなものの中から、針の穴を通すような有益な突然変異にたどり着かないようにする方法があれば、研究者たちは、例えば、病原体が感染力を強めたり、抗生物質に耐性を持つようになるのを阻止できるかもしれない。


論文

参考文献

研究の要旨

表現型の堅牢性は、ある表現型に対応する全ての遺伝子型の平均的な突然変異の堅牢性と定義され、進化する集団による新しい表現型の変異の中立的な探索を促進する上で重要な役割を果たす。符号化理論の結果を応用して、遺伝子型がレンガ積みのグラフのように構成されているときに、表現型の堅牢性が最大になることを証明する。最大堅牢性の値は、整数論のフラクタル連続関数によって与えられる。興味深いことに、RNAの二次構造に関する遺伝子型-表現型マップや、タンパク質の折りたたみに関する疎水性-極性(HP)モデルは、この上限値を正確に達成する表現型の堅牢性を示すことができる。sum of digits 関数の性質を利用することで、複数の中立成分を持つ表現型の最大堅牢性が煉瓦積みのグラフ境界から逸脱する下界を証明し、RNA二次構造の表現型がこの下界に従うことを示す。最後に、表現型が粗視化された場合に堅牢性がどのように変化するかを示し、そのような表現型間の遷移確率の公式と関連する境界を導出する。

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