ニューヨーク市立大学シティ・カレッジ(CCNY)の研究者らは、ダイヤモンドを使って人間にとっては永遠とも思える長時間データを保存可能な記憶媒体を作るという画期的なアイデアを発表した。耐久性のみならず、1平方インチあたり25GBという驚異的なデータを書き込む能力は、デジタル情報の保存方法やアクセス方法を変える可能性を秘めている。
未来の記録媒体としては、ガラスやセラミックなど、様々な素材が研究されており、当サイトでも度々紹介してきたが、CCNYの研究者らは宝石として人類を魅了してきた素材に新たな可能性を見出した。
ダイヤモンドの“欠陥”を利用する
『Nature Nanotechnology』誌で発表された研究の中で研究者らは、ダイヤモンドの原子構造に存在する小さな窒素欠陥を利用する事を提案した。”カラーセンター”と呼ばれるこの部分は、原子が欠けた小さなキズで、光を吸収するスポットを作り出す。
研究者らはこのカラーセンターを活用し、データを書き込んで保存(後に検索)することに成功した。「つまり、同じ微細なスポットの異なる原子に異なる情報を記憶させるために、わずかに異なる色のレーザーを使うことで、ダイヤモンドの同じ場所に多くの異なる画像を記憶させることができるのです」と、CCNYのポスドク研究員であるTom Delord氏は説明する。
情報ビットを刻印/反転するための一般的なレーザーベースの技術は、通常、回折限界(レーザービームが集光できる最小領域)として知られるものにぶつかる。これが、ブルーレイに青色レーザー技術が使われている理由の一部である:青色の光は赤色よりも波長が短いため、同じスペースにより多くの情報を書き込むことができる。青色光はより細いため、赤色光2本分のスペースに青色光4本を印刷することができ、面積あたりの記憶密度が自動的に高まる。
しかし、今回CCNYの研究者らが示したのはこれを超えるものだ。彼らは、同じ窒素欠陥で複数の色(各色の適切な回折限界の範囲内)を印刷できることを実証した。
「この方法を他の材料や室温で応用できれば、大容量ストレージを必要とするコンピューティング・アプリケーションに応用できるかもしれません」と、Delord氏は述べている。
レーザーが通過するたびに、小さな赤、青、緑のインク滴が、利用可能な空間(窒素欠陥とコップ内の水)に向かって落ちていく。色が違うということは、密度が違うということであり、緑色の液滴の内容物(0に設定されたビットとする)と赤色の液滴の内容物(1に設定されたビット)を分離することができる。他の色があるごとに、このシステムでエンコードされる情報量は増える。コンテンツを読み出したいときに、異なる周波数/密度を分離できる限りは。印象的なのは、これらすべての情報層が、互いに干渉することなく、同じ物理的空間を占め、記憶密度を高めることができることだ。
「私たちが行ったのは、狭帯域レーザーと極低温条件を使って、これらのカラーセンターの電荷を非常に正確に制御することでした。この新しいアプローチによって、私たちは本質的に、原子1個に至るまで、以前よりもはるかに微細なレベルで、極小ビットのデータを書き込んだり読み取ったりすることができるようになったのです」と、Delord氏は説明する。
研究者たちは、彼らの技術が同じ窒素欠陥に12種類の画像(12種類の周波数)を転写し、1平方インチ(645.16平方ミリメートル)あたり25GBのデータ密度を達成できることを実証した。これは、直径12センチのブルーレイディスク1枚に記録できる25GBの情報量とほぼ同じである。
これは単なる一回限りの技術ではない。情報は刻まれるのではなく、正確に帯電した原子にエンコードされる。ダイヤモンドの中の小さな気泡に光を当てるようなものだ。そして、その光の泡から情報を抽出し、読み取り、抽出し、何度も何度も再エンコードすることができる。
CCNYチームのダイヤモンドを使った研究は、データ・ストレージのために従来とは異なる素材を探求する、より広範なトレンドの一部である。例えば、MicrosoftのProject Silicaは、石英ガラスをクラウド・ストレージ・ソリューションに利用する実験を行っている。データの保存にガラスの耐久性を活用することで、何世紀にもわたって大量のデジタルデータを保存することができるかもしれない。
同様に、データ・ストレージの分野におけるもうひとつの最近のブレークスルーは、セラミック・ナノメモリーの開発である。この技術は、よりコンパクトで耐久性があり、エネルギー効率に優れた方法でデータを保存する先進的な素材を使用し、5000億ドル規模のストレージ産業を破壊する可能性を提示している。
ダイヤモンドを使うのはコストがかかるように思えるかもしれないが、合成ダイヤモンドを使えば、この技術を商業的に受け入れられる可能性がある。この方法が他の素材や室温でも応用できるようになれば、コンピューターやデジタル・ストレージに革命をもたらすかもしれない。
この技術の実現ははるか先のことだが、研究チームは、このカラーセンターの運用を室温レベルでも行う事が出来ると確信している。彼らは、この技術がいつの日か室温で実現し、より低いエネルギーコストで貯蔵容量を増やすことにつながると確信している。
論文
- Nature Nanotechnology: Reversible optical data storage below the diffraction limit
参考文献
- The City College of New York: CCNY researchers publish optical data storage breakthrough in Nature Nanotechnology
研究の要旨
ワイドバンドギャップ半導体のカラーセンターは準安定な電荷状態を特徴としており、選択波長での光励起の助けを借りて相互変換することができる。これらの各状態における明瞭な蛍光特性やスピン特性は、古典的な情報を3次元的に記憶するために利用されてきたが、これらのプラットフォームの記憶容量は、これまでのところ光回折によって制限されていた。ここでは、ダイヤモンドの色中心(窒素空孔)の光学遷移における局所的不均一性を利用して、同じ回折限界体積を共有する個々の点欠陥の選択的な電荷状態制御を実証する。さらに、このアプローチを高密度のカラーセンター・アンサンブルに適用し、極低温で21Gb inch-2の面密度を持つ書き換え可能な多重データストレージを示した。これらの結果は、記憶容量の増大と動作あたりのエネルギー消費の低減につながる代替光記憶装置コンセプトを開発するための利点を強調するものである。
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