CRISPR遺伝子編集技術による高コレステロール治療、初期試験で有望な結果を示す

masapoco
投稿日
2023年11月17日 13:44
dna

家族性高コレステロール血症(FH)は、遺伝的要因により低比重リポタンパク質(LDL)コレステロール、いわゆる悪玉コレステロールの血中濃度が異常に高くなる疾患であり、高い心臓病のリスクに繋がる。FHは、肝臓が血液からLDLを除去する速度を制御する重要な遺伝子の変異によって引き起こされる事が分かっているが、しかし、現在進行中の臨床試験の中間結果(ヒトでの試験としては初めて)では、遺伝子編集治療薬を1回注入するだけで、この患者のLDLコレステロール値を有意に低下させることができ、その効果は何年にもわたって持続する可能性があることが示された。

「悪玉コレステロールを低下させるために毎日錠剤を飲んだり、何十年にもわたって断続的に注射をしたりするのではなく、この研究は新しい治療法の可能性を明らかにした」と、今回の遺伝子編集治療薬を開発したVerve Therapeuticsの最高科学責任者であるAndrew Bellinger氏は述べている。

VERVE-101:CRISPRに基づく新しい遺伝子療法

マサチューセッツ州に拠点を置くバイオテクノロジー企業、Verve Therapeuticsが開発したVERVE-101は、塩基編集と呼ばれる一般的な遺伝子編集ツールCRISPRの新バージョンを使用するもので、DNA鎖全体を切断するのではなく、DNA鎖の小さな構成要素を切断する。塩基編集の大きな利点は、病気の原因となる遺伝子に手を加える際に、より効率的でエラーが少ないことである。さらに重要なのは、DNAに切断を加えないため、意図しない突然変異やDNA損傷が起こり、がんにつながる可能性が低くなることである。

臨床試験では、PCSK9と呼ばれる肝細胞の単一遺伝子を標的とするベースエディターVERVE-101の静脈内注入が10人の参加者に行われた。親からPCSK9遺伝子を受け継いだFH患者では、この遺伝子は肝細胞表面のLDLレセプターを通常より早く分解する酵素をコードしており、その結果血液中にLDLコレステロールが蓄積する。VERVE-101は、代わりに肝細胞に変異したPCSK9を作るように指示し、それを無効にする。

臨床試験の結果

研究者らは、以前に動物でVERVE-101の有効性と忍容性を試験し、その結果をCirculation誌に発表していた。その試験では、投与量に応じてPSCK9蛋白レベルを67%から83%、LDL-Cを49%から69%低下させ、その効果は476日まで持続した。肝酵素の一過性の上昇が14日目までに完全に消失した後、VERVE-101は動物によく耐容されることがわかった。

今回の試験には、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)と診断され、コレステロール低下薬を服用しているにもかかわらずLDL-Cが極めて高い、ニュージーランドまたは英国の男性7名と女性2名が参加した。参加者の平均年齢は54歳で、大多数に重度の冠動脈疾患があり、すでに心臓発作を経験したり、冠動脈バイパス手術を受けたり、ステントを挿入したりしていた。

この臨床試験では、29歳から69歳までの10人の参加者が治療を受けた。低用量群の6人は治療に反応を示さなかった一方で、高用量群の3人はLDLレベルが約39%から55%低下した。最も効果が顕著だった参加者では、LDLレベルが6ヶ月間低下したままであった。VERVE-101が意図した通りに機能すれば、この変化は永続的になる可能性がある。

安全性に関する懸念

しかし、この治療では安全性に関する懸念も指摘された。試験参加者は、一過性の肝酵素値の上昇に加え、まるでインフルエンザにかかったかのような悪寒、発熱、頭痛の短期間の発作を報告した。

また、10人の被験者のうち、1人はVERVE-101を注射した5週間後に心臓発作で死亡し、2人目は注射の翌日に心臓発作で死亡した。ただし、Nature誌は、第三者の専門家からなる安全性委員会が、死亡した心臓発作はVERVE-101によるものではなく、彼らはすでに “進行した心臓病”を患っていたと述べたと報じている。これらの心臓問題は、遺伝子療法と直接関連があるかどうかは明らかではないが、安全性に関する懸念を提起している。また、ベース編集が意図しない遺伝子を編集する「オフターゲット」効果を持つ可能性もある。

VERVE-101は、FHの治療において有望な進展を示しているが、患者への使用が承認されるまでには、さらなる研究と評価が必要である。この治療法の安全性と効果に関する追加データが待たれる。

また、現在進行中の研究が成功すれば、FH患者だけでなく、心血管系疾患のリスクを持つ、あるいは持つ高齢者であれば誰でも治療できる可能性がある。承認されている遺伝子治療薬の中には数億円という値段のものもあるので、この遺伝子治療がどれほど利用しやすくなるかは不明である。しかし、遺伝子治療を希少な遺伝性疾患だけでなく、一般的な病気にも利用するためのスタートにはなるだろう。


論文

参考文献



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