海底インターネットケーブルは衛星レーザー通信に置き換えられるかも知れない

masapoco
投稿日 2023年6月23日 10:06
eth zurich laser satelite

日本のような島国は、世界中とインターネットと繋がるために、海底インターネットケーブルによって大容量通信を行っている。大陸間の通信も、こうした大容量の通信ケーブルに依存しており、これらのケーブルの中で最も高性能なものは、毎秒100テラビットを超えるデータ転送が可能だが、現在のところワイヤレスではそのような通信速度の実現は不可能だ。だが今回、チューリッヒ工科大学(ETH)の研究チームは、この流れを変える可能性のある画期的な研究を発表した。彼らは、テラビット級のスループットを誇るレーザーベースのシステムを実証したのだ。この技術によって、最終的には世界中に張り巡らされたケーブル網が置き換えられる可能性もあるかも知れない。

この研究は、欧州のHorizon2020の一部であり、800億ユーロという巨額の資金を投じて、最先端研究を実施するプロジェクトの一つである。Jürg Leuthold教授率いるETHのチームは、光データ転送システムが衛星と連携して毎秒何テラビットのデータを転送し、海を横断する物理的なインターネット・バックボーンを不要にすることを想定している。

今回のテストでは、チューリッヒ工科大学の研究者たちは衛星を使わなかった。レーザー通信が宇宙空間で問題なく機能することはすでに知られている。例えば、SpaceX社のStarlink衛星によるインターネット・コンステレーションは、衛星間のデータ送信にレーザーを使用している。テラビットレーザーが大気圏内でも機能することを確認するため、研究チームは遠方の高所にあるターゲットを選んだ:ユングフラウヨッホは、レーザー光源から53キロ離れたスイスアルプスの峠である。大気はレーザーにどのような影響を与えるのだろうか?

チューリッヒ工科大学が考案した光システムは、より高いデータレートをサポートするために、変調された光波を使用している。つまり、受信機は各送信シンボルから複数の状態を読み取ることができる。位相角と振幅が変化することで、64QAM信号となる。大気中の乱気流は、慎重に構築されたこれらの波形をずらす可能性があるため、研究者たちはフランスの航空宇宙企業Onera 社と提携し、97個の微小ミラーを備えた微小電気機械システム(MEMS)チップを製作した。このチップは、不正確な位相シフトを1秒間に1,500回修正することができ、信号が無傷であることを保証する。

この研究では単一波長のレーザー光を使用したが、研究チームはこの技術を40チャンネルまで拡張できると考えている。チャンネルあたり約1テラビットとなれば、物理的なケーブルに取って代わることができるかもしれない。現在の衛星インターネット・システムはまだマイクロ波帯の信号に頼っており、高周波レーザーほど多くのデータを伝送することはできない。将来の衛星インターネット・コンステレーションが、このようなレーザーを使って地表にデータを送るようになる可能性はある。しかし、ETHの研究者たちは、それを他の研究者に任せるつもりだ。Leuthold教授と彼のチームにとって次の目標は、データ帯域幅を広げるための改良された変調方式を開発することである。


論文

参考文献

研究の要旨

自由空間光(FSO)通信技術は、将来の衛星地上ネットワークの帯域幅需要に対処するためのソリューションである。FSOは、RFボトルネックを克服し、わずかな数の地上局でTbit/sオーダーのデータレートを達成する可能性がある。ここでは、スイスアルプスのユングフラウヨッホ山頂(標高3700m)とベルン市近郊のツィマーヴァルト天文台(標高895m)間の53.42kmの自由空間チャネルで、最大0.94Tbit/sのネットレートを達成するシングルキャリアTbit/sラインレート伝送を実証する。このシナリオでは、乱流条件下での衛星-地上フィーダーリンクが模倣されている。悪条件にもかかわらず、チャネルの歪んだ波面を補正するために完全適応光学システムを採用し、偏波多重高次複素変調フォーマットを使用することにより、高いスループットが達成された。適応光学系はコヒーレント変調フォーマットの受信を歪ませないことがわかった。また、コンステレーション変調-新しい4次元BPSK(4D-BPSK)変調フォーマット-を、最低SNRの下で高いデータレートを伝送する技術として紹介する。この方法により、ビットエラー比1・10-3において、1ビット当たり4.3光子と7.8光子という少ない光子数で、それぞれ13.3Gビット/秒と210Gビット/秒の53km FSO伝送を示す。この実験は、高度なコヒーレント変調符号化と完全適応光フィルタリングの組み合わせが、次世代のTbit/s衛星通信を実用化する適切な手段であることを示している。



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