核融合科​​学研究所と米国TAEが共同で放射性物質を使わない「水素・ホウ素核融合実験」に初成功

masapoco
投稿日
2023年3月3日 5:53
tae team and reactor

国際的な巨大プロジェクトであるITERなど、現在の核融合発電プロジェクトの多くは、トリチウム(三重水素)という非常に希少で問題のある燃料を必要としている。これに対し、米国の核融合スタートアップ「TAE Technologies」社は、より安価で安全な水素・ホウ素(H-B)核融合の実現を目指しており、このほど、日本の核融合科​​学研究所 (NIFS) と協力して、磁気閉じ込めプラズマにおけるH-B核融合の世界初測定を達成したことを発表した。

TAE社は、Googleなどから受けた12億ドル以上の投資を背景に、「Norman」と呼ばれる第5世代の核融合装置から、予定よりも早く結果を出した。この装置は、3000万℃のプラズマを維持するように設計されているが、すでに7500万℃を突破している。

TAEが水素-ホウ素核融合を採用する理由は、トリチウムのような希少性、放射能の心配もなく、安価で安全に実現できるからだ。

ただし、難点は、ホウ素はトリチウムよりも大きな原子であり、核に正電荷があるため、融合に、重水素-トリチウムの場合に比べて、更に大きなエネルギーが必要になり、そのためには10億度もの超高温という、トリチウム炉の何倍もの高温が必要だという。これについて詳しくは、2022年の記事を参照頂きたい。

TAEは、磁気閉じ込めプラズマにおける水素・ホウ素核融合を世界で初めて測定した事を、科学誌『Nature Communications』に「First measurements of p11B fusion in a magnetically confined plasma」と題した論文で報告している。

今回の実験は、世界最大の超伝導プラズマ閉じ込め装置と世界第2位のステラレータである大型ヘリカル装置(LHD)を有する日本の核融合科学研究所(NIFS)とのパートナーシップの一環として行われたものだ。

この装置は水素・ホウ素核融合を追求するために特別に設計されたものではないが、LHDがすでにホウ素や窒化ホウ素をプラズマに注入するシステムを備えていることを利用したプロジェクトだという。一般的には、格納容器の壁を整え、不純物を取り除き、乱流を減らしてプラズマの閉じ込めを改善し、プラズマの電子密度を高めるために注入されるが、研究チームは、プラズマの中央部にもホウ素が蓄積しており、高エネルギー陽子をプラズマに発射すると、測定できる量のHB融合が期待できるほどの密度にあることに気付いた。

そこでTAEは、PIPS(Passivated Implanted Planar Silicon)検出器を中心に、LHDのチャンバー内で起こるH-B核融合によるアルファ粒子(またはヘリウム核)を検出するシステムを構築したのだ。そして想定したように、ホウ素入射と高エネルギー陽子ビームの両方をオンにした場合、PIPS装置は150倍以上のアルファ粒子パルスを検出したという。

TAE Technologies CEOであるMichl Binderbauer氏は、「この実験は、我々に豊富なデータを提供し、水素ホウ素が実用規模の核融合発電に適していることを示すものです。私たちは、目の前の物理的な課題を解決し、この非放射性で豊富な燃料に依存する炭素を含まないエネルギーの革新的な新しい形態を世界に提供できることを確信しています」と、述べている。

同社は既に今後の開発についてロードマップを公開しているが、「Copernicus」原子炉を「10年以内」に予定しており、これにおいては核融合における正味利得の獲得も視野に入れている。2030年代初頭には、世界初のプロトタイプのH-B核融合発電所となる「Da Vinci」が稼働し、送電網に接続されて電力を供給する予定だとしている。


論文

参考文献

研究の要旨

陽子・ホウ素(p11B)核融合は、魅力的なエネルギー源であるが、その実現は技術的に困難である。その可能性を実現するための技術開発には、まず、磁場閉じ込めの熱核プラズマ環境でp11B核融合を起こす実験能力を開発することが必要だ。ここでは、高エネルギー中性粒子ビームによるp11B核融合と、高温核融合プラズマ(大型ヘリカル装置)へのホウ素粉末入射のシミュレーションに裏付けられた、診断上重要なレベルのアルファ粒子放出をもたらす明確な実験結果を報告する。プラズマ周辺部にホウ素粉末を注入することで、炉心にホウ素が蓄積される。2MW、160kVの水素中性粒子ビーム入射装置3台が、ホウ素プラズマと反応する高エネルギー陽子を大量に発生させます。核融合生成物であるMeVアルファ粒子は、カスタム設計の粒子検出器で測定され、グローバルレートの計算と非常によく一致する核融合率を得ることが出来る。これは、磁場閉じ込めプラズマにおけるp11B核融合の最初の実現例である。



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