“汗をかく”ヒートシンクがパッシブ冷却性能を32%以上向上させる

masapoco
投稿日 2023年11月7日 15:50
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香港城市大学の研究者らが、大規模なコンピューターシステムを冷却するための、より効率的で安価な方法を発見した。その秘訣はなんと“塩”を加えることだという。

コンピュータ全盛の現代、世界中のコンピューターが毎週2ゼタバイト以上のデータを処理する中で生じる膨大な熱が大きな問題となっている。このような巨大な処理能力は、莫大なCO2の産生も伴う物だ。商用クラウドプロバイダーは、最適な温度を維持するために年間数十億リットルもの冷却水を使用している。既にクラウド業界は航空業界よりも大きなCO2の排出量が多いとも言われているのだ。

香港城市大学のエネルギー環境学部のWei Wu教授は、同僚たちと共に現在の熱放散技術を改善するシステムを考案した。10月31日に『Device』誌に発表された論文の中で、Wu教授は臭化リチウムを含む水が蒸発と再吸収によって温度を低く保つプロセスを説明している。

「吸湿性塩充填膜カプセル化ヒートシンク(hygroscopic salt-loaded membrane-encapsulated heat sink)」(HSMHS)と名付けられたこのヒートシンクは、多孔質膜に閉じ込められた臭化リチウム塩を利用し、水分の蒸発を可能にしている。

実際にどのように動作するのかだが、研究者らは標準的なヒートシンクを作り、その上に臭化リチウム水溶液を置き、水蒸気が通過するように多孔質膜材料で保持した。塩溶液の脱着プロセスによって冷却作用が起こり、水蒸気が多孔質膜を通して周囲の大気中に放出される。

塩水というと腐食の心配があるかもしれないが、この費用対効果の高い代替案は、臭化リチウムが多孔質のまま安全に封入され、可動部品がなく摩耗が大幅に減少するはずなので、最新の代替案よりも10倍長くCPUを効果的に冷却できると主張している。テストでは、HSMHSは、あるCPUを64℃以下で6時間半以上快適に動作させることができたという。

Wu教授は、その論文「Membrane-encapsulated, moisture-desorptive passive cooling for high-performance, ultra-low-cost, and long-duration electronics thermal management」の中で、この装置が「オフ時間中に大気中の水蒸気を吸収することで、その冷却能力を自発的かつ迅速に回復することができる」と述べ、そのプロセスを、“哺乳類が汗をかいて体温を調節するプロセス”に例えている。

パッシブ冷却技術は、可動部品がなく直接電力を必要としないため、魅力的だ。しかし、現在利用可能なパッシブ・クーラーは、すぐに熱飽和してしまうことが多く、システム性能が低下しする点が難点であった(サーマル・スロットリングなど)。

臭化リチウムで処理された水の高い水分吸収能力と低コストは、水分補給が必要なハイドロゲルや金属有機フレームワークを使用した冷却戦略に比べて明らかな利点を提供するという。Wu教授によると、「対照的に、LiClやLiBrのような吸湿性無機塩は、非常に高い水分吸収能力と低コストのため、これらの問題に対処する有望な方法を示している」とのことだ。

単一のコンピューターにこのプロセスを適用したところ、研究者たちはパフォーマンスが32%以上向上したことが確認出来たという。また、このプロセスは「記録的なコスト効率の高さで完了した」とも述べている。

Wu教授は、「不適切な熱管理は電子デバイス内の膨大な熱蓄積を引き起こし、機能の喪失、最終的にはデバイスの故障を招きます。提案された戦略が、溶液の漏れや腐食なしに、長期間安定した冷却能力を提供することができ、記録的なコスト効率で最先端の受動冷却戦略と比較して、エミュレートされたヒーターの温度上昇を抑制することができることを実証しています」と述べている。

この冷却戦略は、コスト効率が高く、非常にスケーラブルであり、「技術的な障壁が少ないさまざまな冷却アプリケーションに役立つ可能性がある」として、Wu教授は広く展開されることを期待してる。


論文

参考文献

研究の要旨

受動的な熱管理戦略は、断続的な放熱のためのエネルギー消費を削減する最も有望な方法の一つである。しかし、既存の戦略は、その効率の低さとコストの高さから、実用化に向けて厳しい障害に遭遇している。ここでは、水蒸気しか通さない保護膜を介した吸湿性塩溶液からの水分脱離に依存するパッシブ熱管理戦略を提案する。我々は、結晶化を避けつつ、費用対効果の高い吸着剤として臭化リチウムを選択した。優れたことに、この戦略は約400分間有効な冷却能力(ΔTmax = 11.5℃)を提供でき、測定された熱流束は75kW/m2に達する。この戦略を実際のコンピューティングデバイスに採用することで、その性能は32.65%向上し、費用対効果は過去最高となった。この戦略は、間欠的な熱制御を必要とする様々なアプリケーションに有用であり、技術的な障壁はほとんどない。



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