Seagateは、以前から熱補助型磁気記録(HAMR)技術を搭載した第2世代ハードディスクドライブ・プラットフォームと30TBを超える容量について述べてきたが、具体的にいつ発売する計画なのかは明らかにしてこなかった。しかし今週、同社はついに、1年後の2023年半ばに30TB超のHDDを発売する意向であることを明らかにした。
HAMRによって可能となった更なるHDDの大容量化
SeagateのCEOであるDavid Mosley氏は、投資家や金融アナリストとの決算説明会で、「我々は、HAMR技術に基づく30TB超のドライブ・ファミリーの発売に向けて、開発の道を歩んでいます。来年のこの時期までに、これらのHAMRベースの製品の顧客出荷を開始することを期待しています。」と述べている。
動画ストリーミングが隆盛を迎え、必要なストレージ容量は天文学的なスピードで高まっている。そういった需要に応え続けなければならないわけだが、その為にはHDDでも技術革新が必要だ。Seagateはその期待に応え、さらに大容量なHDDを実現するための技術として、HAMR(熱補助型磁気記録)を開発した。
HAMRとは?
HDDは、頑丈な筐体の中に記録用のプラッタというディスクが入っており、そこにデータを書き込むことで、記憶を実現している。HDDの容量を増やすと言うことは、より多くのデータ・ビット、すなわち「粒子」をプラッタに多く書き込むことが出来る様にしなければならない。プラッタのサイズは規格があり(3.5インチとか、2.5インチHDDというのを聞いたことがあるだろう)決まっているので、入れられるデータビットを増やすためには、1平方インチ当たりの表面積に詰め込めるビット の密度を高める必要がある。ディスク当たりのビット数が増えるということは、それだけ多くのデータを保存できるということだ。
しかし、ビット密度が増えると粒子間の距離が縮まり、各粒子の磁気によって周辺の粒子の磁気方向に影響が出る可能性がある。そうすると、常温での各粒子の安定性(「熱安定性」)に問題が生じる。この問題を解消するためには、粒子が互いに干渉しないように、粒子を熱的に安定させる新しい素材を使ったプラッタの製造が不可欠となるのだ。
そのようなプラッタを使えば各ビットは常温でも非常に安定する。しかし逆にビットが安定することで、データの書き換えなどでビットの磁気方向を変えたい場合はどうすればいいのか?粒子が熱的に安定している場合に、HDDに新しいデータをどうやって書き込めばいいのかという新たな問題が生じてしまう。
Seagateが開発したHAMRは、この両方の問題を解決するという。HAMRテクノロジーは、磁気と熱の安定性を維持しながらデータ・ビットをより小さくして高密度に集約するという新しいタイプのメディア磁気技術を各ディスクで可能にする。それぞれの記録ヘッドに取り付けられた小型レーザー・ダイオードがディスクの特定の微小領域を加熱することで、記録ヘッドが各ビットの磁気極性を反転させ、データを書き込むのだ。各ビットは1ナノ秒で加熱・冷却されるため、HAMRレーザーがドライブの温度に影響を与えたり、メディア全体の温度、安定性、または信頼性に影響を与えたりすることは一切ないという。
Seagateの第2世代HAMRプラットフォームは、このHAMRテクノロジーによってハードディスクの容量を50TB以上に増やすことができるため、同社にとって大きな意味を持つ。同社が公開しているロードマップでは、「30TB以上のドライブ」の発売は2023年半ば以降と曖昧な表現になっており、来年の具体的な時期については言及されていない。例えば年末ギリギリ2023年12月20日の正式出荷も「2023年の稼働」と見なすことができる。とはいえ、部品調達などは順調に進んでいるようだ。
Seagate社は、かなり以前から第1世代HAMRプラットフォームを搭載したハードディスクを一部の顧客とLyveストレージシステム内に出荷してきたが、これらの製品はこれまで幅広い層には提供されてこなかった。Seagateは、第2世代HAMR HDDは、より広い範囲を対象として販売すると昨年発表している。
SeagateはHDDプラットフォーム全体にHAMRテクノロジーを採用する事を考えている。ただし、HAMRテクノロジーを採用するためにはメディア、磁性層、書き込み/読み取りヘッド、アクチュエータ、コントローラ、その他多くのハードディスク・ドライブ部品など広範な部品が既存の物から置き換えられる必要が生じる。そのため、最初に発売される30TBのHAMR HDDはこれまでのSeagateのコンポーネントと比べて構造が大きく異なるため、高額になる可能性が高いとのことだ。
シングル・アクチュエータを搭載した30TB超のHDDにも問題はある。それは、IOPS/TB(1TBあたりのIOPS)についてだ。容量が増加すると、IOPS/TBの性能は低下し、システムの応答性、ひいてはサービス品質に影響を及ぼす。大規模なハイパースケーラの場合、この影響を軽減することは問題ではない。しかし、従来の企業データセンターでサービスを提供したり、エンタープライズグレードのNASを運用したりする人にとっては、この点が大きな問題となる可能性があるため、同容量のデュアルアクチュエータHDDを待つ方がよいかもしれない。
今後は2026年には50TB以上も視野に入れているようだ。また、HAMRは理論的には100TB以上のHDDも可能とのことで、2030年には100TB以上のドライブも登場するようだ。今後も更なる大容量化が期待できる。
30TB以上のシングルアクチュエーターHDDのコスト/価格とIOPS/TBパフォーマンスを考慮すると、これらの超大容量HDDは、当初は一部の顧客のみに提供されることになっても不思議はないだろう。
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