Qualcommは、プレミアムスマートフォン向けのやや手頃な価格のモバイル・チップ「Snapdragon 8s Gen 3」を正式に発表した。同社によると、Snapdragon 8s Gen 3は「最も求められている8シリーズの機能を、より多くのAndroidフラッグシップスマートフォンに提供する」とのことだ。
Snapdragon 8s Gen 3は、前世代のフラッグシップモデルであるSnapdragon 8 Gen 2と現行世代のフラッグシップモデルであるSnapdragon 8 Gen 3の間に位置されるようで、チップナンバーに記載される“s”は、恐らくSuperなどではなく、“Second”や“Sub”を示す物と考えられる。実際、以下に示すように8 Gen 3からいくつかの機能が削除されており、その分、価格も安く提供されるようだ。実際に日本で発売されるデバイスに搭載される事は少なく、当面は中国製のOEMデバイスに搭載されると見られる。
Snapdragon 8 Gen 3 (SM8650) | Snapdragon 8s Gen 3 (SM8635) | Snapdragon 8 Gen 2 (SM8550) | |
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SoC | Snapdragon 8 Gen 3 (SM8650) | Snapdragon 8s Gen 3 (SM8635) | Snapdragon 8 Gen 2 (SM8550) |
CPU | 1x Cortex-X4 @ 3.3GHz 3x Cortex-A720 @ 3.2GHz 2x Cortex-A720 @ 3.0GHz 2x Cortex-A520 @ 2.3GHz 12MB sL3 | 1x Cortex-X4 @ 3.0GHz 4x Cortex-A720 @ 2.8GHz 3x Cortex-A520 @ 2.0GHz | 1x Cortex-X3 @ 3.2GHz 2x Cortex-A715 @ 2.8GHz 2x Cortex-A710 @ 2.8GHz 4x Cortex-A510 @ 2.0GHz 8MB sL3 |
GPU | Adreno (Hardware RT & Global Illum.) | Adreno (Hardware RT) | Adreno (Hardware RT) |
DSP / NPU | Hexagon | Hexagon | Hexagon |
メモリコントローラー | 4x 16-bit CH @ 4800MHz LPDDR5X / 76.8GB/s | 4x 16-bit CH @ 4200MHz LPDDR5X / 67.2GB/s | 4x 16-bit CH @ 4200MHz LPDDR5X / 67.2GB/s |
ISP/カメラ | Triple 18-bit Spectra ISP 1x 200MP or 108MP with ZSL or 64+36MP with ZSL or 3x 36MP with ZSL 8K HDR video & 64MP バースト・キャプチャー | Triple 18-bit Spectra ISP 1x 200MP or 108MP with ZSL or 64+36MP with ZSL or 3x 36MP with ZSL 4K HDR video & 64MP バースト・キャプチャー | Triple 18-bit Spectra ISP 1x 200MP or 108MP with ZSL or 64+36MP with ZSL or 3x 36MP with ZSL 8K HDR video & 64MP バースト・キャプチャー |
エンコード/デコード | 8K30 / 4K120 10-bit H.265 H.265, VP9, AV1 デコード Dolby Vision, HDR10+, HDR10, HLG 720p960 SlowMo | 4K60 10-bit H.265 H.265, VP9, AV1デコード Dolby Vision, HDR10+, HDR10, HLG 1080p240 SlowMo | 8K30 / 4K120 10-bit H.265 H.265, VP9, AV1 デコード Dolby Vision, HDR10+, HDR10, HLG 720p960 SlowMo |
無線接続 | FastConnect 7800 Wi-FI 7 + BT 5.4 2×2 MIMO | FastConnect 7800 Wi-FI 7 + BT 5.4 2×2 MIMO | FastConnect 7800 Wi-FI 7 + BT 5.3 2×2 MIMO |
モデム | X75統合 3GPP Rel 18 (5G NR Sub-6 + mmWave) DL = 10000 Mbps UL = 3500 Mbps | X70統合 3GPP Rel 17 (5G NR Sub-6 + mmWave) DL = 5000 Mbps UL = 3500 Mbps | X70統合 3GPP Rel 17 (5G NR Sub-6 + mmWave) DL = 10000 Mbps UL = 3500 Mbps |
製造プロセス | TSMC 4nm | TSMC 4nm | TSMC 4nm |
Snapdragon 8s Gen 3は大部分がSnapdragon 8 Gen 2の強化版だ。Snapdragon 8 Gen 2と比較すると、Snapdragon 8s Gen 3には2つの重要な差別化要因がある。それは、Snapdragon 8 Gen 3から採用された新しいCPUコア類と、公式のオンデバイス生成AIサポートだ。
CPUについて、Snapdragon 8s Gen 3はArmの最新世代のArm v9 CPUコアを実装しており、Cortex-X4、Cortex-A720、Cortex-A520を搭載している。フラッグシップモデルのSnapdragon 8 Gen 3と比較すると、Snapdragon 8s Gen 3はパフォーマンスコアの1つが削減され、別の効率コアを搭載し、設計を1/5/2構成から1/4/3構成(Snapdragon 8 Gen 2と同じ)に変更している。また、Snapdragon 8s Gen 3は、X4プライムコアが3.3GHzから3.0GHzに周波数も下げられ、他のCPUコアも同様に抑えるている。
それでも、やはりCPUの世代交代は大きく、Snapdragon 8s Gen 3はCPUタスクにおいてSnapdragon 8 Gen 2を上回ると見られる。言うなれば、Qualcommの意図は、より優れたCPU性能とエネルギー効率を備えたSnapdragon 8 Gen 3のアップグレード版を提供するものだ。
だが、CPU以外の機能ブロックのほとんどは、Snapdragon 8 Gen 2からの流用か、同世代の機能に留まる。Snapdragon 8s Gen 3の統合GPUは、ハードウェア・レイトレーシングを提供するが、フラッグシップモデルのSnapdragon 8 Gen 3で導入されたグローバル・イルミネーションのサポートはない。メモリコントローラーもSnapdragon 8 Gen 2と同じで、SoCは最大24GBのLPDDDRX-8400をサポートする。
また、Snapdragon 8s Gen 3のビデオ録画とデコード機能も、Snapdragon 8 Gen 3より明らかにダウングレードしている。トリオの18ビットSpectra ISPを保持しているため、SoCは最大3台のカメラをサポートできるが、8Kのサポートは完全に削除されている。その代わりに、8sG3は最大4Kでしかビデオを記録できず、それも8G3/8G2の半分のフレームレートである60fpsでしか記録できない。Qualcommはこのモードについて、720p960ではなく1080p240と記載している。解像度が高くなることは間違いなく喜ばしいことだが、240fps以上での録画が不可能になる事とのトレードオフとなる。
8Kビデオをサポートしていないことは、SoCのビデオデコードブロックにも当てはまり、4K解像度までのビデオしかデコードできない。しかし、Qualcommはそれ以外のビデオデコードブロックの基本的な機能をすべて同等に保っているため、Snapdragon 8s Gen 3はAV1デコードとDolby Vision HDRをサポートしている。
一方、Snapdragon 8s Gen 3のDSP/NPUの状況は複雑だ。公式には、このSoCは生成AIモデル(最大10Bのパラメータサイズ)をサポートしているが、これはSnapdragon 8 Gen 2とそのNPUができなかったことであり、現状はSnapdragon 8 Gen 3でしか利用できない。しかし、Qualcommによると、これはSnapdragon 8 Gen 3と全く同じNPU IPではないようだ。例えば投機的デコードをサポートしておらず、新しいNPUのマイクロタイル推論の改善に関する言及もないと言う事で、Snapdragon 8 Gen 2のNPUと同じ物とも考えられる。これについては、Qualcommがソフトウェア/ファームウェアのアップデートを行い、機能を向上させた事で可能になったとみるのが妥当だろう。
最後に、Snapdragon 8s Gen 3の通信面は基本的にSnapdragon 8 Gen 2の低速バージョンである。QualcommはここでもSnapdragon X70統合モデムを使用しており、5G Release 17世代の設計で、mmWaveでは2×2 MIMO、sub-6Gでは4×4 MIMOを提供する。最大アップロード速度は3.5Gbpsで変わらないが、Snapdragon 8s Gen 3の最大ダウンロード速度は5Gbpsで、Snapdragon 8 Gen 2(およびSnapdragon 8 Gen 3)の半分である。X70モデムと組み合わされるQualcommのFastConnect 7800システムは、2×2 MIMOでWi-Fi 7をサポートし、Bluetooth 5.4も提供している。他のSnapdragon 8チップに搭載されているデュアルBTアンテナ機能は、この部分にも搭載されている。
全体として、Snapdragon 8s Gen 3は、QualcommのSoCラインアップの中で非常に特殊なニッチを占めることを意図しており、なるべく機能を削らずに、フラッグシップSoCに代わる安価な選択肢を提供するものだ。
Snapdragon 8s Gen 3は、Honor、iQOO、realme、Redmi、Xiaomiなど、通常の中国端末OEMの多くに採用されることが期待される。最初の機種は今月中に発表される見込みだ。
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