核融合実験で世界初の“正味エネルギー利得”が確認された可能性

masapoco
投稿日 2022年12月13日 5:36
LLNL NIF Laser

人類の夢のエネルギー実現に向けて、また大きな一歩が実現した可能性が、Financial Timesによって報じられた。これによると、レーザー核融合実験施設である米国の国立点火施設(NIF)において、これまで誰も達成することが出来なかった、核融合反応による「投入したエネルギーを上回るエネルギー出力の獲得Net energy gain)」という偉業を達成した可能性があるとのことだ。

何十年もの間、科学者たちは、原子が核融合反応によって結合するときに発生する膨大なエネルギーを利用するために研究を続けてきた。核融合反応は原子レベルの小さなスケールで起こるが、これが生み出すエネルギーは莫大で、理論的にはクリーンで持続可能な方法で世界のエネルギー需要を満たすのに十分なエネルギーを生み出してくれる。

このたび、米国エネルギー省のローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の研究者が、投入エネルギーよりも出力エネルギーの方が多い核融合反応を実現し、この夢のエネルギーの実現にまた大きな一歩を進めたようだ。

今回の情報は、事前に研究内容を知る内部の関係者からもたらされたもので、正式な発表はまだだが、米国エネルギー省が、米国東部時間火曜日の午前10時(日本時間12月14日午前0時)に記者会見でこの「科学的ブレークスルー」を発表する予定とのことだ。

核融合とは、重水素と三重水素の原子核を融合させることでヘリウムと中性子を作り出すものだ。この反応の際に、ごくわずかな質量が失われる。この失われた質量はすべてエネルギーとして放出される。放出されるエネルギーは失われたエネルギーと光速の2乗の積に比例する(アインシュタインの有名な公式「E=mc^2」)ことから、わずかな質量であっても、それが全てエネルギーに変化した際には莫大なものが得られる。

この成果は、燃料となる原子の小さなカプセルに200個本近いレーザーを照射し、核融合反応を引き起こすLLNLの実験施設「国立点火施設(National Ignition Facility: NIF)」で行われたものだ。このレーザー核融合は、一斉にレーザー照射を受けた燃料カプセルの外側が高温となり数千万気圧もの圧力が発生することを利用し、球状の燃料を間接的に圧縮させる(爆縮)ことで、燃料自身の重さ(慣性力)で燃焼を維持させる方式でである。

New Scientist誌によれば、NIFでの画期的な反応は、2.1メガジュールの電力を消費するレーザーによって、2.5メガジュールのエネルギーが産出されたようだ。ただし、NIFの実験では、必要とされるエネルギーはレーザーのみではなく、実際にはより多くの電力を消費している。したがって、この報告が事実であったとしても、ある反応がそれを引き起こすために使われたすべてのメカニズムよりも多くの電力を生み出すという「損益分岐点」にはまだ達していないのである。

だが、今回の実験結果が事実であれば、核融合技術が大いに有望であることを示す結果となるだろう。まだ時間はかかるだろうが、いつの日か化石燃料に代わる豊富なクリーンエネルギー源として、人類の発展に大きく貢献するに違いない。

「初期の診断データは、国立点火施設での別の実験の成功を示唆している。ただし、正確な収量はまだ確定しておらず、現時点では閾値を超えていることは確認できていない。その分析が進行中なので、そのプロセスが完了する前に情報を公開することは…不正確であろう。」と、研究者はFinancial Timesに述べている。

NIFはこれまでにも多くの偉業を達成してきた。2021年、自立的な核融合反応を伴う世界初の燃焼プラズマを作り出した。そして、2022年11月には、磁気が核融合反応に及ぼす影響を探り、新しい物理学の兆候を明らかにしている


Sources



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