長年にわたり、大気汚染は人工衛星を使って宇宙から監視されてきた。そして今回NASAは、新たな衛星を打ち上げ、北米上空の大気汚染物質の拡散に関するデータを連続的かつリアルタイムで送信することを計画している。
世界人口の99%がWHOのガイドラインを超える高濃度の汚染物質を含む空気を吸っていることを考えると、この装置のデータは大気汚染の予測や環境保護政策の改善に役立つと考えられる。
この新型センサーは、対流圏排出ガス(Tropospheric Emissions:TEMPO(Monitoring of Pollution)と呼ばれるこの真新しいセンサーは、静止軌道から危険な大気汚染物質の濃度を測定する、この種のものとしては初めてのものとなる。これは、赤道から36,000キロメートル上空の周囲で、衛星が地球上の特定の場所の上に静止したままであることを意味する。
TEMPOによって、科学者たちは、1回のサンプリングではなく、1日中、1時間ごとに発生する全米の窒素酸化物、オゾン、ホルムアルデヒドの濃度の時間変化を特定する事が出来る。このプロジェクトには、米国海洋大気庁(NOAA)と環境保護庁(EPA)のメンバーが参加している。
これにより、大気汚染レベルが一日を通してどのように変化するかだけでなく、大気汚染物質が大気のプロセスによって移動する場所を追跡する最初の機会が得られることになる。
TEMPOの紫外線と可視光線の検出器により、科学者は 3 つの汚染ガスに照準を合わせることができる。まず、喘息の原因となる二酸化窒素は、燃料を燃やすことで大気中に放出される。これは一次汚染物質で、TEMPOが注目する他の2つの汚染物質、オゾンとホルムアルデヒドを発生させる。オゾンは大気圏上層部では有益だが、地上では農作物に害を及ぼし、スモッグを発生させる。ホルムアルデヒドは、排気ガスや製造業の副産物で、アメリカ癌協会によると、癌を引き起こすことが示されている。
TEMPOが活躍するのは、日中だ。地球の大気に反射する太陽光を観測する。そして、科学者たちはこのデータを解析し、どのような汚染物質がどこに存在するのかを測定する。これは分光法と呼ばれる技術で行われる。科学者たちは、太陽系内外の惑星や宇宙の黎明期にある銀河について知るために、同じような方法を用いている。TEMPOは、排出されるガスの色が異なるため、一次汚染物質と二次汚染物質がどこで放出されるかを追跡し、風がそれらを運ぶ場所を確認することが出来るのだ。
これまでの衛星搭載大気汚染監視装置は、地球上空を1,000km以内で周回する地球低軌道にあるものだった。1日に15回も周回する衛星だが、その間に同じ地域を1~2回しか見ておらず、1日の大気汚染濃度の変化を把握するには不十分だ。
ラッシュアワーの汚染や、山火事や火山からの排出物の移動といった現象の研究も、TEMPOデータの恩恵を受けることになる。科学者たちはいつか、大気汚染のホットスポットに住む人々や健康上の問題を抱えた人々に対して、大気質の警告を発するためにTEMPOの測定値を利用するかも知れない。
さらに、この装置は、北半球の大気の質を総合的に把握するための大気質センサーの仮想コンステレーション(星座)の構成要素になることが期待されている。大気汚染はアメリカだけの問題ではない。
この装置の最初の大気質調査は、ロサンゼルス、シカゴ、ニューヨークに焦点を当て、今夏から開始する予定だ。
プレスリリースによると、TEMPOは2023年4月7日にSpaceX社のFalcon 9ロケットで宇宙へ打ち上げられる予定だという。Intelsatの通信衛星Intelsat 40eに搭載される予定だ。この機器は、ホストとなる宇宙船が軌道上にある15年間、ずっと運用されることが期待されている。
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