月面探査で最も難しく、最も意外な活動の1つに、“宇宙服を清潔に保つ”事が挙げられる。特に内部は微生物が繁殖しやすいが、月面での水分確保の困難さを考えると、宇宙服の洗濯のために水を使う事は難しく、地球上のように気軽に洗浄できない事が問題になっている。
そして、宇宙服は数が限られており、宇宙飛行士間で共有される事は確実だ。内部を清浄に保つことは、微生物の増殖を抑え、不要な感染症から宇宙飛行士を守るためにも欠かせない。(何より臭いに悩まされることもなくなるだろう)
「洗剤や洗濯機、乾燥機のおかげで、日常的に下着を清潔に保つのは簡単なことです。しかし、月やその先にある居住区では、宇宙服の内部を一貫して洗濯することは現実的ではないかもしれません。宇宙服はおそらく、異なる宇宙飛行士間で共有され、使用されるまでの間、微生物にとって好都合な条件で長期間保管される可能性があります。私たちは、微生物の繁殖を避けるための代替策を見つける必要がありました」と、と、欧州宇宙機関(ESA)の材料・プロセスエンジニアであるMalgorzata Holynska氏は声明の中で説明している。
抗菌服の素材を探す
ESAは、Planetary Exploration Textiles(PExTex)と名づけたプロジェクトのもと、特にこの問題に取り組むために数多くの専門企業を招聘した。
このプロジェクトでは、アポロ時代には存在しなかった新しい宇宙服に適した新素材の評価に取り組んでいる。そのプロジェクトの1つであるオーストリア主導のBACTeRMA(Biocidal Advanced Coating Technology for Reducing Microbial Activity)と呼ばれる技術では、いわゆる「二次代謝産物」に注目している。二次代謝産物とは、微生物が産生する化合物のことで、抗生物質としての性質を持ち、さまざまな環境条件から微生物を守るのに役立つ。これらの微生物由来の物質により、他の有害なバクテリアなどが宇宙服の内側の裏地(基本的には宇宙飛行士の「下着」)で増殖するのを防ぐことが出来るという。
銀や銅をベースにした他の抗菌素材もあるが、これらは、皮膚刺激につながる可能性があり、快適にならない可能性があるという。
BACTeRMAチームは、”ユニークな細菌学的コレクション”を所蔵するウィーン繊維研究所と協力した。このデータは、細菌の代謝産物で布を染めるなど、殺生物性の繊維加工法を生み出すために活用されている。
抗生物質素材は、放射線、ムーンダスト、模擬的な人間の汗にさらされて耐久性がテストされた。
この試験手法の結果、BACTeRMAのパートナーは、多様な繊維素材における抗菌化合物の効率と適合性に関する重要な洞察を得た。
この予備的な試みは、最終的には、宇宙飛行士が洗濯することなく簡単に長期間使用できる未来的な宇宙服の設計と開発につながるだろう。
「PExTexとBACTeRMAの発見は、抗菌加工とスマートテキスタイル技術の統合の分野における将来の発展の基礎を築くものです。さらに、これらのプロジェクトは、特殊な特性を持つ革新的なテキスタイルを開発することの実現可能性と重要性を実証することで、テキスタイル産業により広範な影響を与える可能性があります」と、オーストリア宇宙フォーラムのGernot Grömer理事は語った。
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