Appleの次期iPhone 15 Proモデルに搭載されるA17チップは、処理能力の向上よりも、消費電力の低減に重きを置いた物になりそうだ。これは、AppleのAチップを製造しているTSMCの最近の発言から推測される動きとなる。
Appleは、今年のiPhone 14シリーズで初めてProとそれ以外とで、搭載されるAチップを差別化する取り組みを実施した。具体的には、iPhone 14、iPhone 14 Plusにおいては、iPhone 13シリーズで用いられたA15 Bionicチップがそのまま流用され、iPhone 14 Pro及びiPhone 14 Pro Maxには、新開発のA16 Bionicチップが搭載される事になったのだ。
このProとベーシックとの差別化はiPhone 15シリーズでも継続すると見られており、そのためiPhone 15のベーシックモデルでは、A16 Bionicが搭載され、iPhone 15 Proモデルにおいて、新開発の次期A17チップ(仮称)が搭載されると思われる。
この新開発のA17チップについては、TSMCがつい先日開始した、同社の最先端3nmプロセスによって製造されるとみられている。加えて、MacBook Proに搭載されるM2 ProやM2 Maxもこの最新プロセスで製造されると見られている。
A16チップは、TSMCのN4ノードを採用していたが、このN4は実質的には5nmプロセスの強化版であり、今回のN3ノードへの移行によって、5nmから3nmへの直接的なジャンプとなる事から、同社にとっても大きな飛躍となる。
プロセスルールが微細化されることには、同じ大きさのチップにより多くのトランジスタを搭載できる事や、同じ性能で、消費電力の低減を図ることが出来るなどのメリットがある。同社はN3(3nm)ノードについて、以前からN5ノード比で最大1.6倍の論理密度向上と25~30%の電力削減を実現すると述べていた。性能向上については、10〜15%であるとのことだが、今回式典の中では、最大35%の電力削減を実現するとだけ述べており、それがN5比なのか、N4比なのかも曖昧なままだ。ちなみに、TSMCのN3ノードはプロセスウィンドウが狭く、デザインによっては予想以上に歩留まりが悪くなるとのことで、プロセスウィンドウを改善し、トランジスタ密度を若干下げたN3E(3nm Enhanced Edition)ノードを開発中とのことだ。
N3E vs N5 | N3 vs N5 | |
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速度の向上 @ 同じ消費電力 | +18% | +10% ~ 15% |
電力削減 @ 同じ速度 | -34% | -25% ~ -30% |
ロジック密度 | 1.7倍 | 1.6倍 |
となると、N4ノードからの性能向上も小幅な物になり、Appleが大々的にアピールできるのは消費電力の低減位になる可能性もある。
実は、Appleはかなり前から、最新チップの発表の際に、直前の世代のチップと比較することを止めている。特に、A16 Bionicの発表の席で見せたスライドでは、わざわざ3世代前のA13 Bionicとの比較を行っているのが印象的だろう。そうしないと印象的な数字を見せることが出来ないからだろうが、これはこれで、同社のチップ部門の開発力の低下を感じずにはいられない。
現在はまだ、Android陣営のQualcommチップに比べて優位を保っているが、かつてのような圧倒的な性能差はなく、追いつかれるのも時間の問題ではないかと言うほどに、他社の追い上げとAppleの衰退が著しい。特に、最近の報道にあるように、満を持して投入しようとしていたハードウェアレイトレーシング機能が設計上のミスによって搭載されなかったという顛末は残念と言うほかないだろう。それに引き換え、QualcommやMediaTekは、Snapdragon 8 Gen 2、Dimensity 9200でそれぞれハードウェアレイトレーシング機能を搭載してきている。Appleは競合他社にチップの才能を大量に奪われ、大規模な頭脳流出が起きているため、このような事態に陥っているようだ。
Appleが果たしてA17チップにおいてどのような設計を行うのかは現時点では分からないが、TSMCの最新の3nmプロセスが35%の省電力メリットを実現したからといって、iPhone 15 ProとiPhone 15 Ultraがすぐにこれらのメリットを享受できるわけではない。これにはAppleの設計も重要になってくる。Appleは、3nmで向上したトランジスタ密度を自由に使うことができ、バッテリーライフを多少犠牲にしながら性能を調整する選択肢をとることも出来るからだ。
また、3nmプロセスによる高い電力効率を利用して、許容できない電力消費などの欠陥のために追加できなかったレイトレーシングのサポートなど、A16 Bionicから廃棄しなければならなかった機能を取り入れることができるかもしれない。次期A17チップにおいて、Appleが危機を乗り越えて大きな飛躍を見せてくれることを願わずにはいられない。
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