シルクタンパクで作られるハイブリッド・トランジスタが生物学とエレクトロニクスの融合への道を切り拓く

masapoco
投稿日 2023年10月16日 18:15
231012 transistor sensor lg

タフツ大学シルクラボの研究者らは、シルク(絹)タンパク質と無機材料を組み合わせた新しいタイプのトランジスタを開発し、生物学とマイクロエレクトロニクスの統合への道を切り拓いたことを報告している。このハイブリッド・トランジスタは生体適合性があり、柔軟で、医療機器やウェアラブル・エレクトロニクスなど、さまざまな用途に使用できるという。

研究者たちは、シルクタンパク質をトランジスタに組み込むために「タンパク質ドーピング」と呼ばれるプロセスを用いた。

トランジスタは単なる電気スイッチであり、金属のリード線が入り、別のリード線が出る。リード線とリード線の間には半導体材料があり、同軸に接続しない限り電気を通さないため、半導体と呼ばれている。

ゲートと呼ばれるもうひとつの電気入力源は、絶縁体によって他のすべてから隔てられている。ゲートは、トランジスタをオン/オフさせる「鍵」の役割を果たす。しきい値電圧が絶縁体を横切る電界を作り出し、半導体内の電子の動きを促し、リード線を通る電流の流れを開始するときに、ゲートによってオン状態が引き起こされる。

これを、シルクを使って生物学的に再現しようとしたのが今回の研究だ。

シルク繊維の構造タンパク質であるシルクフィブロインは、表面に正確に蒸着させることができ、他の化学分子や生物学的分子によって様々な機能を付与することができる。ハイブリッド・トランジスタでは、こうして出来た機能性シルクを、製造工程で無機材料に少量添加する。こうすることで、シルクの層が絶縁体として使用され、水分を吸収すると、中に含まれるイオン(電荷を帯びた分子)を運ぶゲルのように作用する。ゲートは、シルクゲル内のイオンを再配列させることでオン状態をトリガーする。シルクのイオン組成を変えることで、トランジスタの動作が変化し、ゼロから1の間の任意のゲート値でトリガーできるようになるのだ。こうしてできたハイブリッド材料は、柔軟性や生体適合性といったシルクの機械的特性と、無機材料の電子的特性を併せ持つ。

「デジタル・コンピューティングで使われるような離散的な2進数レベルではなく、アナログ・コンピューティングのように、シルクの絶縁体内部の変化によって変化する情報を処理できる回路を作ることが想像できます。これは、現代のマイクロプロセッサーに生物学を取り入れる可能性を開くものです。もちろん、最も強力な生物学的コンピューターとして知られているのは脳です。脳は、可変レベルの化学信号と電気信号で情報を処理します」と、シルクラボのFiorenzo Omenetto氏は述べている。

研究チームは既にこのハイブリッド・トランジスタの実用性を示すプロトタイプを作成している。デモンストレーションで示されたのは、呼吸センサーで、湿度変化に対する卓越した感度を実証した。研究者らは、トランジスターのシルク層をさらに改良すれば、心臓血管や肺の病気、睡眠時無呼吸症候群を検出したり、二酸化炭素レベルやその他の呼気中のガスや分子をピックアップして診断情報を提供したりするデバイスの可能性や、血漿と一緒に使うことで、酸素化やグルコースのレベル、循環抗体などの情報が得られる可能性を提示している。

ハイブリッド生物学的トランジスターを作る上での技術的課題は、ナノスケール、つまり10nm、人間の髪の毛の直径の1万分の1以下でシルク処理を実現することだった。だが、これは既に克服されたという。「これを達成したことで、ハイブリッド・トランジスタを、商業用チップ製造と同じ製造プロセスで作ることができるようになりました。つまり、現在利用可能な能力で10億個のハイブリッド・トランジスタを作ることができるのです」。

絹の中の生物学的プロセスによって接続が再構成された数十億のトランジスタノードを持つことは、AIで使用されるニューラルネットワークのように動作するマイクロプロセッサにつながる可能性がある。「将来的には、自己を訓練し、環境信号に反応し、記憶を別の記憶装置に送るのではなく、トランジスタに直接記録する集積回路ができることも想像できます」とOmenetto氏は言う。

より複雑な生物学的状態を検出し、それに反応するデバイスや、大規模なアナログ・コンピューティングやニューロモーフィック・コンピューティングは、まだ誕生していない。Omenetto氏は将来の可能性について楽観的だ。「これは、エレクトロニクスと生物学の接点に関する新しい考え方を切り開くものであり、その先には多くの重要な基礎的発見と応用が待ち受けているのです」。


論文

参考文献

研究の要旨

近年、天然由来の構造タンパク質製剤とその自己組織化の制御が向上し、シルクベースの材料に高分解能の製造技術を適用することが可能になった。ここでは、確立されたクラスの無機電界効果トランジスタ(シルクFET)にナノスケールのシルク層を統合することによって得られたハイブリッド生体高分子-半導体デバイスを紹介する。このデバイスは、従来の電界効果型と電解質ゲート型の2つの異なる動作モードがあり、統合されたシルク層の厚さ、形態、生化学を精密に制御することで実現されている。異なる動作モードは、気相からナノスケールのタンパク質層内の自由水含有量を動的に調節することによって選択的にアクセスされる。これらのハイブリッド・デバイスの有用性は、高感度で超高速の呼気センサーで示されており、従来の半導体デバイスと組み合わせたナノスケールの生体材料界面の統合によってもたらされる機会を強調し、マイクロエレクトロニクスと生物学の世界の交差点で機能的な成果を可能にしている。



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