ドイツのマックス・プランク・プラズマ物理学研究所(IPP)とウィーン工科大学(TU Wien)の研究チームは、核融合装置の壁を溶かす可能性のあるタイプI ELMプラズマの不安定性を制御する方法を発見した。この研究は、Physical Review Letters誌に掲載されている。
- 論文
- Physical Review Letters: Quasicontinuous Exhaust Scenario for a Fusion Reactor: The Renaissance of Small Edge Localized Modes
- 参考文献
- Max Planck Institute for Plasma Physics: A new solution to one of the major problems of fusion research
- TU Wien: Nuclear fusion: A new solution for the instability problem
- Innovation Newsnetwork: Nuclear fusion reactor instabilities solved by new operational regime
核融合発電は、夢のエネルギー源だ。地上に太陽を再現するこの技術の実現には、いくつもの道のりが待ち受けているが、実現した日には間違いなく、私たちの長年のエネルギー問題を解決してくれることだろう。このことが、世界中の多くの科学者が核融合発電の研究を行っている主な理由だ。
核融合発電を実現するためには、プラズマを炉の中で1億度まで加熱する必要がある。しかし、1億度に耐えられる素材などは存在しないため、磁場がプラズマを囲み、原子炉の壁が溶けないようにしなければならない。プラズマの周囲に形成されるシェルは、磁気的に形成されたプラズマエッジと呼ばれるシェルの端の数センチメートルが非常によく絶縁されているからこそ機能するのである。
しかし、このように太陽レベルの熱を持つプラズマを囲う方法には問題がある。このエッジ領域には、エッジローカライズモード(ELM)と呼ばれるプラズマの不安定性が存在する。ELMは、核融合反応中に頻繁に発生する。ELMが発生すると、プラズマの高エネルギー粒子が原子炉の壁にぶつかり、原子炉が破損する可能性があるのだ。
今回研究者らは、このELMについて、逆転の発想によって、原子炉の損傷を防ぐ方法を考案した。
これまでは、ELMについて、原子炉の壁を損傷する可能性のある不安定性をはらむものとして、それを防ぐことを目的に研究が進められていたが、今回、原子炉の壁を損傷する危険性のない小さな不安定性をあえて受け入れることで、原子炉の壁を損傷させてしまうような不安定性(Type-I ELM)が発生しないようにすることを考案したのだ。
「私たちの研究は、大型のType-I ELMの発生と防止を理解する上で画期的なものです。私たちが提案する運転体制は、おそらく将来の核融合発電所プラズマの最も有望なシナリオです。」と、ドイツ・ガルヒングのIPPの研究グループリーダーでTU Wienの教授であるElisabeth Wolfrum(エリザベス・ヴォルフラム)氏は述べている。
この原子炉は、トロイダルトカマク型核融合炉と呼ばれている。この原子炉では、超高温のプラズマ粒子が高速で移動するが、強力な磁気コイルにより、粒子は原子炉の壁にぶつかってダメージを受けることなく、閉じ込められた状態を保つことができる。
核融合炉の仕組みは複雑である。粒子の動きは、プラズマの密度、温度、磁場に依存する。これらのパラメーターをどのように選ぶかによって、さまざまな運転領域が可能になるのだ。
これまで、研究グループは磁気コイルを通してプラズマをわずかに変形させ、プラズマの断面が楕円形ではなく、丸みを帯びた三角形になるようにし、同時にプラズマの密度を特に端の部分で高くすれば、危険なType-I ELMを防ぐことができることを確認していた。しかしこれは、大型炉では活かす事の出来ないものとこれまでは考えられてた。だが、新たな実験とシミュレーションによって、ITERのような大型の核融合炉で想定されるパラメータ範囲においてさえ、危険な不安定性を防ぐことが分かったのだ。
プラズマ断面が三角形であることと、プラズマの端に粒子を制御して追加投入することにより、小さな不安定性が1秒間に数千回発生する。この論文の主執筆者であるGeorg Harrer(ゲオルグ・ハッラー)氏によると、「これらの小さな不安定性は、原子炉壁に対して大きな影響を及ぼすものではありません。しかし、研究チームが詳細なシミュレーション計算を通じて示すことができたように、これらの小さな不安定性が起きる事により、逆に原子炉を破壊してしまうような大きな不安定性の発生を防いでくれるのです。」とのことだ。
Harrer氏は、「蓋のある料理鍋で、お湯が沸騰し始めるようなものです。圧力が上がり続けると、蒸気が逃げるために蓋が持ち上がり、ガタガタと大きく揺れます。しかし、蓋を少し傾けると、蒸気が逃げ続けることができ、蓋は安定したまま、がたつくことはありません。」と表現している。
これは、巨大なエネルギーポテンシャルを持つ連続的な核融合反応を行うための大きな一歩となるだろう。
研究の要旨
小さな周辺局在モード(ELM)を持つトカマク運転領域は、核融合炉における大きな過渡熱負荷の問題に対する解決策となる可能性がある。小さなELMに対しては、圧力勾配と磁気シアによって支配される最後の閉じた磁束面近傍のバルーニングモードが提案されている。このレターでは、最後の閉じた磁束面付近の安定化効果を実験的に調べ、実際にバルーニング的な揺らぎが発生する線形理想シミュレーションを示し、非線形抵抗シミュレーションと接続する。対象領域の小型ELM領域の無次元パラメータは原子炉内のパラメータと非常によく似ており、この領域は将来のデバイスの理想的な排気シナリオとなる。
「この論文の主執筆者であるGeorg Harrer氏は、「蓋のある料理鍋で、お湯が沸騰し始めるようなものです。「圧力が上がり続けると、蒸気が逃げるために蓋が持ち上がり、ガタガタと大きく揺れます。しかし、蓋を少し傾けると、蒸気が逃げ続けることができ、蓋は安定したまま、がたつくことはありません。”
これは、巨大なエネルギーポテンシャルを持つ連続的な核融合反応を行うための大きな一歩です。永久のエネルギー源です。
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