まるでターミネーター T-1000のように溶けて檻から脱出する液体金属ロボットの開発に成功

masapoco
投稿日
2023年1月26日 5:03
mp shape shifting robots feat

カーネギーメロン大学のソフト マシン ラボの責任者であるCarmel Majidi氏率いる研究チームは、まるで映画『ターミネーター2』に登場する、液体金属ロボットT-1000のように、身体を溶かして狭い空間を移動できる画期的なロボットを開発した。このロボットは、立ち入りにくい場所での作業や、檻からの脱出も可能だという。将来的には、ハンズフリーのはんだ付けマシンや、飲み込んだ毒物を取り出すための道具として利用できるかもしれない。

これまでにも磁気で動作し、変形できる小型機械は存在したが、ハードな金属ボディのロボットほど強度はなく、また制御も難しいものだった。

今回、Majidi氏の研究チームは、液体金属のガリウムと、ネオジム、鉄、ホウ素からなる磁性材料の微小な断片を混ぜ合わせて、1ミリメートルサイズのロボットを作った。固体の状態では、自分の質量の30倍もの物体を支えられるほど強度がある。この素材を磁石の近くに置くと、柔らかくなったり、伸びたり、動いたり、溶けて水たまりのようになったりと、さまざまな作業を行うことができるようになる。磁石の磁場が、ロボットの中の小さな磁性体片に力を及ぼし、それを動かして周囲の金属をさまざまな方向に変形させることができるのだ。

研究チームが注目したのはガリウムの持つ、29.8℃と言う非常に低い融点だ。これによって、彼らが「磁気活性相転移物質(MPTM)」と呼ぶ物質を実現した。これは、位相を変化させることにより、固相の「高い機械的強度、負荷容量、速い移動速度」と、液相の「優れた形態適応性(伸長、分割、および合体)」の特性を併せ持つ画期的なものだ。

Viceのインタビューの中で、Majidi氏は、「私のグループは、液体金属、つまり融点が非常に低いガリウムのような金属を使用する多くの技術を開拓してきました。これは、この2つのアプローチを融合させる試みの1つで、2つを混ぜ合わせるとどうなるかを見ただけです。ガリウム金属の高い電気伝導性と相転移能力、そして磁性微粒子システムの磁気応答性を利用する、『両者の良いとこ取り』シナリオが期待されます。」と、述べている。

相転移とは、物質が固体、液体、気体、プラズマのいずれかの状態から別の状態に変化することである。このような変化は、システムに十分なエネルギーが供給されるか、システムから十分な量が失われたときに起こる

研究チームは、ガリウムの塊にヒーターを接続して状態を変化させるのではなく、急速に変化する磁場にガリウムをさらす事で液化させることにした。磁場が変化すると、ガリウムの内部で電気が発生し、熱を帯びて溶ける。その後、室温まで冷やすと再固体化するのだ。

ガリウムの中には磁性粒子が散りばめられているので、永久磁石で引っ張ることができる。固体の状態であれば、磁石で秒速1.5m程度で移動させることができる。また、このガリウムは、固体の状態であれば自分の体重の約1万倍もの重さを持つことができる。

液体でも外部磁石を使えば、伸びたり、割れたり、合体したりと、自在に操ることができる。しかし、ガリウムの粒子は自由に回転し、溶けた結果、磁極が揃っていないため、液体の動きを制御することはより困難である。固体にした方が制御はしやすい。

Majidi氏らは、この戦略を、さまざまな作業を行う小型の機械でテストした。映画『ターミネーター2』のようなデモンストレーションでは、LEGOブロックのようなおもちゃの人間が鉄格子の間をすり抜けて脱獄し、鉄格子のすぐ外側に置かれた型を使って元の形に再固定された。

「このフィギュアが溶けて塊になり、刑務所の鉄格子に吸い込まれるという意味では、ほとんどT-1000のようなものです」とMajidi氏はViceに語り、ターミネーター2の悪役アンドロイドがこのロボットのインスピレーションになったと付け加えた。違う点と言えば、形状記憶能力はなく、元の形に戻るためには、型にはまって温度を冷やす必要がある点か。

より実用的な面では、ある機械が人間の胃の模型から小さな球を取り出し、わずかに溶けて異物を包み込んでから臓器の外に出すということが行われた。しかし、ガリウムは体温(約37℃)では液体になってしまうので、そのままでは人体内で溶けてしまい制御が難しくなる。生物医学の応用では、ガリウムにビスマスやスズなどの金属を少し加えて材料の融点を上げることになるだろう、と著者らは言う。別のデモンストレーションでは、この材料が液化して再硬化し、回路基板のはんだ付けを行った。

「今後の研究では、これらのロボットを生物医学的な文脈の中でどのように利用できるかをさらに追求する必要があります」とMajidi氏は述べている。

「今回お見せしたのは、単発のデモンストレーション、概念実証に過ぎませんが、これが実際に薬物送達や異物除去にどのように使用できるかを掘り下げるには、もっと多くの研究が必要でしょう。」と、締めくくった。


論文

参考文献

研究の要旨

磁気で作動する小型機械は、マルチモーダルな運動やプログラム可能な変形を行うことができる。しかし、それらは形態適応性に乏しい固体磁性エラストマーであるか、機械的強度の低い液体材料系である。ここでは、液体金属中に埋め込まれた磁性ネオジム・鉄・ボロン微粒子からなる磁気活性相転移物質(MPTM)を報告する。MPTMは、交番磁場による加熱や冷却によって、固相と液相の間を可逆的にスイッチすることができる。このように、固相では高い機械強度(強度21.2MPa、剛性1.98GPa)、高い耐荷重(30kgに耐える)、速い運動速度(1.5m/s以上)、液相では優れた形態適応性(伸長、分裂、合体)を独自に兼ね備えている。スマートな組み立てが可能なはんだ付け機や万能ネジ、異物除去やドラッグデリバリーのための機械を胃のモデルで実現し、MPTMの動的な形状再構成能力を示すことで、そのユニークな能力を実証している。



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