オール・ペロブスカイト型タンデム太陽電池で高効率、記録的な高電圧を実現

masapoco
投稿日
2022年11月17日 15:03
all perovskite battery tandem

新たな研究によって、ペロブスカイト太陽電池のみによって、これまでにない記録的な電圧と効率を持つ新しい太陽電池が開発されたことが明らかになった。この「オール・ペロブスカイト型タンデム太陽電池」は、異なる波長の光を利用する2層のペロブスカイトと、エネルギーの浪費を抑える特殊な表面処理で構成されている。

太陽光発電の分野では、近年、これまで多くのシェアを誇ったシリコン素材に代わり、ペロブスカイトが新たに台頭するのではと目されている。ペロブスカイトは、太陽光からエネルギーを吸収する能力が高いだけでなく、より薄く、軽く、柔軟で、製造が簡単で安価なのが特徴だ。

ペロブスカイトの発電効率は、2009年の4%以下から2021年には25%以上へと、10年あまりで飛躍的に向上し、今やシリコンに匹敵するまでになった。ペロブスカイトは、太陽から異なる波長の光を取り込むために複数の材料を重ねる、いわゆるタンデムセルでさらに効果を発揮する。例えば、ペロブスカイトとシリコンのタンデム型太陽電池は、最近、効率30%のマイルストーンを超えた

今回の研究では、シリコン素材を用いることなく、すべてをペロブスカイトで構成するタイプの新しいタンデム型太陽電池を作製し、テストを行った。これまで、シリコンとペロブスカイトでは、そのそれぞれが得意とするスペクトルに対応した領域を受け持つことで、モノリシック型では難しかった高効率を実現する戦略がとられていたが、今回のタンデム型太陽電池では路線が異なる。研究者らは、ペロブスカイトの厚みや化学組成を調整することで、太陽スペクトルの異なる部分を利用できるようにし、それによって2種類のペロブスカイト層を作成し、それをタンデム構造にまとめることで一つのデバイスとして実現したのだ。

「このセルの場合、上側のペロブスカイト層はバンドギャップが広く、可視光だけでなく紫外線もよく吸収します。下の層はバンドギャップが狭く、より赤外域に近いスペクトルに調整されています。この2つの層で、シリコンで実現できるよりも多くのスペクトルをカバーすることができるのです。」と、共同研究者のChongwen Li(チョンウェン・リ)氏は説明する。

この設計を用いて、研究チームは、1cm2の大きさの太陽電池が、最大効率27.4%を達成したと報告している。これは、このタイプの太陽電池としては記録的なものとなる。ただし、NRELによる独立した認証では、26.3%の効率だった。

しかし、この電池が新記録を達成したのは、その電圧の高さである。研究チームが測定した開放電圧は2.19電子ボルトで、これはオール・ペロブスカイト型タンデム太陽電池の中で最高である。

この素晴らしい記録はいずれも、ペロブスカイトの光吸収層と電子を運ぶ層の間の界面に施された工夫のおかげである。研究チームは、ペロブスカイトの表面全体で電界が一定でないため、一部の電子が回路から失われてしまうことを発見した。そこで研究チームは、表面の電荷を均等にする1,3-プロパンジアンモニウム(PDA)という物質を薄く塗ったのだ。

研究チームは今後、太陽電池の安定化、大電流化、サイズ拡大など、太陽電池の効率向上に向けた研究を進めるとしている。

「過去 10 年間で、ペロブスカイト技術は、シリコンが過去 40 年間に達成したのとほぼ同じくらい進歩しました。あと10年で何ができるか想像してみてください。」と、共同主執筆者である博士課程の学生Aidan Maxwell(エイダン・マクスウェル)氏は述べている。

研究の要旨

ペロブスカイト太陽電池 (PSC)の開回路電圧 ( OC ) 不足は、~1.5 eV のペロブスカイトよりも広いバンドギャップ (>1.7 eV) のセルの方が大きくなる。準フェルミ準位分裂 (QFLS) 測定により、電子輸送層 (ETL) コンタクトでのOCを制限する再結合が明らかになった。これは、不均一な表面ポテンシャルと貧弱なペロブスカイト-ETL エネルギー配列に起因することがわかった。一般的なモノアンモニウム表面処理では、これに対処できない。代わりに、ジアンモニウム分子を導入してペロブスカイトの表面状態を変更し、表面電位のより均一な空間分布を実現する。1,3-プロパンジアンモニウム(PDA)を用いると、QFLSが90meV増加し、1.79eVのPSCが実現し、1.33VのVOCが認定され、19%以上の電力変換効率(PCE)が達成された。この層をモノリシックな全ペロブスカイト タンデムに組み込むことで、記録的なVOC 2.19 V (詳細なバランスVOC制限の 89%) および > 27% PCE (26.3% 認定された準定常状態) を報告する。これらのタンデムは、500 時間の動作後も初期 PCE の 86% 以上を保持している。


論文

参考文献

研究の要旨

ペロブスカイト太陽電池の開放電圧(VOC)欠損は、約1.5eVのペロブスカイトよりも1.7eV以上のワイドバンドギャップのセルの方が大きい。準フェルミ準位分裂測定から、電子-輸送層間の接触部におけるVOC制限再結合が観測された。これは、表面ポテンシャルの不均一性とペロブスカイト-電子輸送層のエネルギー整列の悪さに起因していることがわかった。そこで、ジアンモニウム分子を導入してペロブスカイト表面の状態を変化させ、表面電位の空間分布をより均一にすることに成功した。1,3-プロパンジアンモニウムを用いると、準フェルミ準位分裂が90meV増加し、1.79eVのペロブスカイト太陽電池が実現し、1.33V VOCと19%以上の電力変換効率(PCE)が認定された。この層をモノリシックなオールペロブスカイトタンデムに組み込むことで、2.19VのVOC(詳細バランスVOC制限の89%)と27%以上のPCE(準定常状態の26.3%認証)を記録した。これらのタンデムは、500時間の運転後、初期のPCEの86%以上を保持した。



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