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宇宙最強の磁力を持つ天体「マグネター」とは何か

ブラックホールと言えば、光さえも飲み込む超重力、落下する物体は遠くからは永遠に落下しているように見えるなど、我々の想像を絶する驚異の自然現象の産物としてよく知られているが、宇宙にはブラックホールと同じくらい(場合によってはそれ以上に)危険な天体が存在することをご存じだろうか?その名を「マグネター」と呼ぶ。1,000km離れた生物すらも死滅させる強力な磁力を持つこの天体についてご紹介しよう。

マグネターの発見

マグネターの発見には、いくつかの偶然が重なっている。

緑色の小人の発見

マグネターに繋がる最初の発見は、1967年、当時大学院生だったJocelyn Bell氏が、指導教官であるAntony Hewish教授とともに、英国ケンブリッジのマラード電波天文台で研究を行っていた時に訪れた。Bell氏がある晩、データを調べていると、1.33秒ごとに繰り返される規則正しい電波が見つかった。最初は「ノイズのような物」と思ったが、さらに観測を進めると、その電波は毎夜、空の同じ地点から発せられていることがわかり、地球上の電波ではないことが判明した。

当初、Bell氏とHewish氏は、この信号の解釈に戸惑ったようだ。規則的で予測可能なこの電波源を、「緑の小人(Little Green Men)」(つまり宇宙人)にちなんで「LGM-1」と名付けた。冗談の意味合いもあったが、こんな規則的な電波を発しているのは宇宙人による人工物ではないかと思ったのだ。

だが、その後に科学者たちは、この謎の電波源について、大昔に超新星爆発を起こした巨大な星の残骸である中性子星ではないかという仮説に至った。

科学者達は、中性子星について、数十年前から理論上は存在するだろうと仮定していた。だが、理論上では中性子星は質量が太陽ほどあっても、実際の直径が20kmしかないという、観測するには小さすぎるそのサイズから、観測する事は不可能だろうと考えられていたのだ。

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右上方向にジェットを放出するほ座のベラ・パルサー。中性子星自体は内部に存在し、ガスに遮蔽されて見えない(出典:NASA/CXC/PSU/G.Pavlov et al.)

今でこそ中性子星は数多く発見されているが、当時は仮説上の存在でしかなかった。ではなぜ発見する事が出来たのだろうか?それは、一部の中性子星は定期的に点滅する電波を発する特性を有していたため、その存在を確認することが出来たのだ。定期的に点滅する電波を発するこの天体はパルサーと呼ばれるようになった。パルサーはその姿から、「宇宙の灯台」とも呼ばれている。宇宙の暗闇の中で、まるで船乗りに位置を教える灯台のように、回転しながら円を描くように定期的に電波を放っているのだ。

Bell氏とHewish氏が発見した規則正しい電波を放つ天体「LGM-1」はそういったパルサーの一種であったのだ。この世界初のパルサー発見という偉業に対し、Antony Hewishは1974年のノーベル物理学賞を受賞している。

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パルサーのイメージ図(出典:NASA)

ガンマ線天文学の始まりとマグネターの提唱

マグネターの発見にはもう一つの偶然が重なった。LGM-1の発見と同じ頃、米国国防総省は、ソ連が核実験禁止条約に違反していないかどうかを監視するために、「ヴェラ」と呼ばれるX線ガンマ線中性子線の検出器を搭載した人工衛星を打ち上げていた。核実験を行うとガンマ線が大量に放出される。それを測定することで、ソ連が核実験をしていないか観察するために作られたのだ。(多くの科学の発展に戦争がつきものなのは皮肉な物だが)

この衛星は当時軍事機密であったため、存在が秘匿されていたが、ヴェラは運用当時から発生源が不明のガンマ線の爆発を検出することがあった。記録上は1967年7月2日に初めてのガンマ線の爆発を計測していた。(これは後にGRB 670702と名づけられた。)1973年にこの衛星の存在が公にされたことを受けて、アメリカのロスアラモス国立研究所の研究者が、この衛星のデータから、これらのガンマ線の爆発が太陽系外からやってきていることを突き止めた。これがガンマ線バーストの発見である。そしてこれによって、ガンマ線天文学の扉が開かれた。

ガンマ線天文学の発展に伴って、これまで観測されてこなかった様々な事象が発見されたが、新たな謎も増えてきた。特に、軟ガンマ線リピーター異常X線パルサーなど、これまでの理論では説明できない天体が数多く見つかったのだ。

ガンマ線を発生させるには、特に電磁場の形で多くのエネルギーが必要となる。そして、規則正しいガンマ線の放射には、“何かが”回転している必要がある。これについて、宇宙物理学者は、これらの軟ガンマ線リピーターの起源を説明する最も合理的な答えは、パルサーを強化したもの、つまり磁場の強い中性子星であると言う答えに至った。

そして1990年代、Robert Duncanと、Christopher Thompsonによって、マグネターという概念が生まれた

中性子星とマグネター

中性子星は、超新星爆発の燃え盛る中心部で作られる。巨大な星がその一生を終えようとするとき、その過程で炭素と酸素の核はとてつもなく高い圧力で押し潰される。それによって、電子と陽子を融合させる「逆ベータ崩壊」というプロセスが起こり、ほぼ純粋な中性子の固まりが作られる。この原始中性子星は、星の崩壊に(ほんの少し)抵抗することができ、超新星の発生の引き金となる。中性子星は、場合によってはその後ブラックホールになる場合もある。

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中性子星とパルサー、マグネターの違い(出典:NASA)

超新星の残骸から初めて中性子星が姿を現したとき、その温度は1000万〜2000万ケルビンに達している。この高温が中性子を循環させ、高速で動く円形の対流セルを作り出す。これが内部の熱を表面へ運び、宇宙へ放射することができるのだ。この高温では、中性子は流体のように振る舞い、残った電子や陽子を自由に動き回らせることができる。

もし中性子星が十分に速く回転していれば(親星も速く回転していれば起こりうる)、速い自転、対流、自由に動く電荷の組み合わせによって、ダイナモ効果が構築される。循環する電荷は弱い磁場を発生させ、対流セルの運動によって磁場が折れ曲がり、増幅される。回転するたびに磁場は強くなっていくのだ。

地球のコアでも同じようなメカニズムで磁場が発生しているが、エネルギーがずっと低いのだ。中性子星はエネルギーが高いので、すぐに制御不能に陥ってしまう。

生まれたばかりの中性子星は、わずか10秒で、既知の宇宙で最も強い磁場を発生させることができる。しかし、そのわずか10秒の間に、強烈な対流と自転によって中性子星が冷やされ、ダイナモ効果が停止してしまう。通常であれば、磁場は消滅する。しかし、中性子星ではこれが当てはまらず、陽子と電子は超流動体となり、電気抵抗を受けずに運動を維持することができるのだ。そのため、中性子星が冷えても磁場は固定されずっと残っている。

不思議なことに、生まれたばかりの中性子星があまりに速く回転していると、ダイナモのメカニズムを構築する前に対流で冷えてしまうので、強い磁場を発生させることができない。そのため、マグネターになる中性子星は、10個に1個程度の割合で存在することになる。

マグネターは宇宙で最も強い磁場を持っていると言っても過言ではない。身近なところでいうと地球の磁場の強さは、北極で測ると約0.5ガウスだ。最も強い時には、その約2倍の磁場が発生する。これは、太陽系の岩石質の惑星の中で最も強力な磁場であり、コンパスの針を動かして航行するのに十分な磁場である。

冷蔵庫に貼ってあるような磁石はその100〜200倍の磁力があり、惑星全体の重力を簡単に打ち消すことができる。

地球から離れた黒点の磁場強度は約4000ガウスで、これは太陽系で最も強い磁場である。

人類は、強力な磁石を作ることができる。最も強力な持続性電磁石は、数万ガウスに達する。MRIを受けたことのある人なら、1万ガウス程度の電磁石を体験しても、(アクセサリーを外すのを忘れなければ)何の影響もないはずだ。しかし、より強い磁場を持続的に発生させることは、装置を破壊する恐れがあるため困難です。しかし、集束した爆発の内部では、数マイクロ秒の間に1000万ガウスに達する磁場を作ることができるのだ。

典型的なマグネターの表面磁場強度は1014から1015ガウスで、内部強度はその10倍だ。桁が違いすぎてビックリすると思うが、マグネターの磁場は、地球の約1兆倍、人類が生成できる最強の磁場の10億倍となるのだ

マグネターから約1,000km以内に入ると、生命は瞬時に死に絶える。これは、X線放射は別としての話で、その強力な磁場の作用による。水の反磁性によって細胞組織が破壊されるのだ。

さらにマグネターの磁力は、例えば地球からまでの半分の距離(10万マイル=約16万kmと説明される事が多い。実際の月までの半分の距離は約19万km)にあるクレジットカードの磁気記録を抹消できるほどの強さである。

想像を絶するマグネターの世界

すべての中性子星のように、マグネターはそれほど大きくはない。典型的な中性子星の直径は約20キロメートルだ。しかし、その小さな体積の中で、それらは太陽の最大2倍の質量を保持し、宇宙で最も密度の高い既知の物体になる。小さじ1杯の中性子星物質の重さは約1億トンになる。壊滅的な重力崩壊から身を守るために、中性子星は核融合からのエネルギーの放出に依存するのではなく、フェルミ縮退として知られる古典論では説明できない物性を示す量子状態に依存している。

原子核程度の密度では、これらの物体の大部分を構成する中性子は、同時に同じエネルギー状態を占めることができない。そのため、到達できる密度に限界がある。縮退圧を調べる別の方法は、ハイゼンベルグの不確定性原理を思い出すことだ。粒子の位置と速度の両方を同時に正確に知ることは決してできない。中性子同士をぴったりとくっつけることで、彼らの位置は非常によくわかるようになる。しかし、そのために中性子の速度は急上昇し、激しく振動する。急速な速度が、さらなる崩壊に対する圧力源となるのだ。

マグネターは太陽の約100倍の明るさだが、マンハッタン島とほぼ同じ大きさの体積からすべての放射を生成している。

マグネターの内部で何が起こっているかは、まったくの憶測にすぎない。物理学者は、マグネターの表面は重い原子核と自由電子の殻で覆われていると考えている。強い重力があるため、これらの表面は信じられないほど滑らかで、最も高い「山」でも数cmの高さしかないだろう。しかしその表面はあなたの想像を絶する世界だ。もし、あなたがその山のひとつから落ちるとしたら、底に着くまでにすでに光速の半分の速さで移動していることになるのだ。

マグネターの奥深くで、原子核はやがて中性子の海に解離する。中性子には大きなストレスがかかっているため、中性子は圧縮され、塊や管などの奇妙な形になり、「核のパスタ」と呼ばれる。マグネターの核は、物理学では解明されていない。中性子の超流動体か、あるいは他の奇妙な状態の物質(文字通り奇妙なクォークのスープでできている)である可能性もある。

様々な劇的な宇宙現象に関わっているマグネター

通常の中性子星では、放射線を発生させる力は、形成時の初期熱と減速時の回転エネルギーの損失から得られる。マグネターの場合、磁場のエネルギーが他のどのエネルギー源よりも大きい。そのエネルギー密度をE/c2で質量に換算すると、磁場は鉛の1万倍の密度になる。

マグネター単体では、表面温度が2000万ケルビン近くあるため、大量のX線が発生するほど高温だ。しかし、マグネターの特徴はそれだけではない。マグネターの磁場は、光速の数分の一の速さで粒子を巻き込むという。この高エネルギー粒子は、近くに迷い込んだ光子に衝突し、コンプトン散乱と呼ばれるプロセスでエネルギーを与え、さらにX線に変化させる。さらに、同じ磁場が荷電粒子を直接地殻に送り込み、まるでオーロラのように、さらに多くのX線を発生させるのだ。

その結果、マグネターは太陽の約100倍の明るさだが、マンハッタンとほぼ同じサイズの体積からすべての放射を生成する。さらに、マグネターはほとんどX線でのみ放射する。

時には、マグネターの強力な磁場が地殻の荷電粒子を圧倒的な力で押さえつけてしまうこともある。マグネターの地殻は、その大きな圧力から解放されるために突然移動し、重い磁気の負荷を支える新しい均衡を見いだそうとする。このとき、磁場に蓄えられた膨大なエネルギーが放出される。磁場によって失われた膨大なエネルギーは、電子と陽電子を大量に発生させ、それらが再結合してガンマ線の嵐を形成するのだ。

放出後、マグネターは通常のX線発生モードに落ち着く。しかし、十分な時間が経つと、圧力が再び高まるため、再び地殻の新しい配置を行い、そして、再びガンマ線放出を誘発する。これが、国防総省が発見した軟ガンマ線リピーターを引き起こす原因なのだ。

マグネターの磁場が変化することで、宇宙の謎の閃光が生まれる可能性もある。最近、私たちの銀河系で高速電波バーストが観測され、その起源が既知のマグネターと一致することが分かった。マグネターは超新星爆発にも関与しており、爆発したマグネターが超新星残骸を再活性化させ、超新星残骸の明るさを急激に上昇させることもあるという。

Artists impression of a gamma ray burst and supernova powered by a magnetar

しかし、極端な磁場はマグネターの自転を減速させ、エネルギーを逃がす足かせになる。マグネターは約1万年の間に、磁気的な特徴を失い、普通の中性子星に変わってしまうのだ。

天文学者が知っているマグネターは24個だけで、そのほとんどが我々の銀河系内で発見されている。マグネターの寿命は短く、観測可能な時間では、そのうちのごくわずかしか見ることができない。しかし、私たちが知っている限りでは、天の川銀河の中だけでも約3000万個のマグネターが死んでいると推定されている。


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