米国政府の技術輸出禁止措置と英国政府の技術ライセンス禁止措置の決定を受けて、ArmはAlibabaを含む中国のテクノロジー企業に対して、新しいNeoverse Vシリーズのアーキテクチャ設計のライセンスを継続しないことを決定した。
Financial Timesの報道によると、米国と英国の輸出管理規則、および二重用途物品・技術および通常兵器の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメントにより、中国企業はArmの最先端CPU IP「Neoverse Vシリーズ」にアクセスすることができない。ArmのNeoverse V1およびNeoverse V2CPUコアIPは、スーパーコンピュータを含むハイパフォーマンス・コンピューティング・アプリケーションを実現するために設計されたものだ。
Armは、同社のNeoverse Vシリーズの性能が高すぎるため、AlibabaのT-Headチップユニットなどの中国法人への販売が認められないと判断したため、今回の決定を下した。この決定は、Alibaba以外の中国企業にも影響を与えることになる。
Armは、スマートウォッチやスーパーコンピュータなど、さまざまな製品に使われるチップのための高度なRISCアーキテクチャを設計することで知られている。Armはプロセッサそのものを製造しているわけではないが、設計したものをTSMCやサムスンといった企業に販売している。同社の最新のNeoverse V2コアは、これまでで最も強力なもので、米国で開発されたとみられている。
最近制定された米国の輸出規制では、100 FP64 PetaFLOPS以上または200 FP32 PetaFLOPS以上の性能を持つスーパーコンピュータを実現する米国の技術を、41,600立方フィート(1178立方メートル)以下の容器で中国に出荷することが禁止されている。Armの最新のNeoverse V2コアは、これまでで最も強力なもので、米国で開発されたとみられ、Armはその設計を中国企業にライセンス供与することができないというわけだ。
ArmのNeoverse Vシリーズの設計は、スーパーコンピュータ用のHPCプロセッサを目的としており、核兵器の開発にも使用できるため、最近施行された米国の技術輸出規則とワッセナー・アレンジメントの両方の対象になっている。
Armが自社の最先端設計を中国に輸出できないと判断したのは今回が初めてだ。Neoverse Vは、デュアルユース技術が軍事目的に使用されることを防ぐことを目的とした、42カ国が参加する多国間協定「ワッセナー・アレンジメント」に該当する。この技術を中国に販売するためには、Armは米国と英国の両方から輸出許可を取得する必要がある。
今週初め、中国は米国が実施する輸出規制に関して世界貿易機関(WTO)に異議を申し立てた。米国政府は、中国の半導体企業であるYMTCを「国家的チャンピオン」と見なしており、Armが最先端の設計を中国に販売しないという決定を下した場合、中国政府から強い反発を受ける可能性が高い。
AlibabaのT-HeadのエンジニアがFinancial Timesに、「われわれは、欧米諸国から二流の人間として見られていると感じている。彼らは、私たちがお金を持っていても、私たちに良い製品を売ってくれません。」と語っているとのことだ。
Alibabaが懸念する理由は、同社が推進しているクラウドサービスのライバルであり王者であるAmazon Web Servicesは以前からGraviton SoCにArmのNeoverse Vシリーズコアを採用しており、そのためAlibabaのクラウドサービスに対して優位に立っているためだ。今回の決定は、AWSとの差を更に広げることにもなりかねない。
Armに近い関係者がFinancial Timesに語ったところによると、同社はAlibabaや中国の他の顧客と協力して、性能目標を達成しつつ、ワッセナーアレンジメントと米国の最新の輸出規制の両方に準拠できるようなソリューションを模索しているとのことだ。
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