Appleの最新MacBook Proにおいて、買い換えを促す原動力の一つに、新色「スペースブラック」の採用が挙げられるだろう。実機を見てみれば、今までにない黒い金属の質感に魅力を感じる人も少なくないのではないだろうか。この新色は、従来のスペースグレーを置き換えるもので、Appleが特別な陽極酸化処理を施した事で、従来のブラックカラーで不評であった指紋の付着を低減しているという。それ以上の詳細はAppleから語られていないが、これについてiFixitが詳しく調査し、掘り下げた内容をレポートとしてまとめてくれている。
陽極酸化処理とは?
カルフォルニア・ポリ大学で機械工学の講師を務めるDavid Niebuhr博士によると、「陽極酸化は、私たち冶金学者がこれまで行ってきた農業に限りなく近いものです」と説明する。
一般的にアルミニウムは錆びにくい金属と言われているが、実はアルミニウム自体はイオン化傾向が高く、水や酸素など、さまざまな化学物質と反応しやすい性質を持っている。そのためアルミニウムが空気に触れると、空気中の酸素と結びつき、薄い酸化皮膜が出来る。こうして生じた酸化アルミニウム(Al2O3)は化学的にとても安定した状態を持ち、液体や酸に強いものとなっている。そのため、アルミニウムは錆びにくいと認識されている。
だが、こうして自然に生じた酸化皮膜は2nm程度と非常に薄く、ほんの少しこすっただけで容易に元のアルミが露出してしまう。そこで、電気化学的プロセスを用いてこの酸化皮膜を分厚く「育てる」方法が考案された。これが「陽極酸化処理」と呼ばれるものだ。
深い凹凸が黒のカギ
Appleは、陽極酸化処理において、保護的な観点だけではなく、美学的な目的も追求している。Niebuhr博士によると、処理中に染料を添加することで様々な色を生み出すことができるとのことだ。しかし、真の「ブラック」を実現するには、陽極酸化処理と染色だけでは不十分であり、実際にAppleは出願特許の中で、これらのプロセスだけでは「暗いグレー色」に近い色合いになると述べている。
これには光についての基本的な理解が必要だ。物体に光が当たると、一部は反射され、残りはその物体に吸収される。光の反射には、鏡面反射と拡散反射の2種類がある。鏡面反射は光を同じ方向に反射し、光沢のある表面は光を鏡面反射させ、眩しさを引き起こす。一方、マットな表面は拡散反射を引き起こし、光を様々な角度で反射させ、色を知覚させる。
Appleは、スペースグレーの表面で酸化層の保護と拡散反射の表面を実現していたが、それでもまだ光沢があった。そこでAppleは、陽極酸化処理の黒を超え、より黒く、保護された仕上げを実現するために、さらに表面をエッチングして凹凸を増やした。LEXTレーザー測定システムにより、MacBook Proの表面の凹凸を精密に測定した結果、以下のようにスペースブラックの方がより凹凸が際立っていることが明らかになった。深い青と明るい緑は高低差が高いことを表している。
これにより、入射光がさらに多くの方向に拡散され、私たちの目に届く白い光が減少し、マットな仕上がりが実現されたというわけだ。
しかし、この新しい陽極酸化処理だけが全てではない可能性もある。Appleは、指紋の付着を抑えるために、ポリマーや異なる親油性コーティングを使用しているかもしれない。実際に、iFixitのチートスを指に塗りたくって指紋を付けるテストを行っているが、スペースブラックのコーティングが指紋を完全に防ぐわけではないことが明らかになった。
ただし、iFixitはこの新しいカラーは魅力的だが、ラップトップのライフサイクルにおける炭素排出量の70〜80%は製造プロセス中に発生することから、デバイスをなるべく長く使用したり、修理して使い続けることが環境を守るためには重要であるとも指摘している。
Source
コメントを残す