キツツキが脳に損傷を与えずに木の幹に穴を開けるメカニズムは長い間不明だった。一部では、頭蓋骨内にショックアブソーバーのような機構があるのではと予測する向きもあったが、しかし今回、7月14日付の『Current Biology』誌で、研究者たちはこの考え方に反論し、キツツキの頭は衝撃をモロに受けながら硬いハンマーのような働きをする、と発表した。
キツツキの身体のサイズが小さいことが良い方向に働いている
キツツキと言えば、激しく頭を前後に動かしてくちばしで木の幹に穴を開けるイメージを恐らく多くの人はお持ちだろう。しかし実際にあなたが同じ動きをしたときに、果たして無事でいられるだろうか?恐らくあれだけ激しく動かして、しかもそれだけのみならず、頭蓋骨と繋がったくちばしで穴を開けるのだから、その衝撃たるや相当な物だろう。にもかかわらずキツツキたちは脳に損傷が与えられることなく、この本能的な行動を繰り返してきた。キツツキの頭蓋骨は衝撃を吸収するヘルメットのような働きをするのだろうという考えがあったが、計算の結果、衝撃吸収性があれば、キツツキが餌をついばむのに支障をきたすことが分かっている。
ベルギーのアントウェルペン大学のSam Van Wassenbergh教授は、「3種のキツツキの高速度ビデオを分析した結果、キツツキは木に衝突したときの衝撃を吸収しないことがわかりました」と語る。
しかし、頭蓋骨がショックアブソーバーとして機能しないとしたら、激しいつつきは脳を危険にさらすことにならないのだろうか?それについては、実験の結果、キツツキの行動は実は危険にはならないことが判明した。一回一回のつつきによる減速ショックは、サルやヒトのサイズならば脳しんとうを起こす程の衝撃だが、キツツキの小さな脳のサイズならばそれに耐えることができるのだ。Van Wassenbergh氏によれば、キツツキは、例えば、フルパワーで金属をつつくとミスをする可能性があるという。しかし、キツツキが普段木の幹をつついている程度では、頭蓋骨がヘルメットのように機能しなくても、脳震盪を起こす衝撃の閾値をはるかに下回っているとのことだ。
「衝撃吸収機能がないからといって、一見激しい衝撃を受けたときに脳が危険にさらされるわけではありません」とVan Wassenbergh教授は言う。「我々の計算では、脳しんとうを起こした人間よりも低い脳負荷が示されたので、分析された100以上のつつきによる強い衝撃でさえも、キツツキの脳にとっては安全であるはずです。」
この研究結果は、メディアや書籍、動物園などで長い間広まってきた衝撃吸収説に真っ向から反論する物だ。どうしてキツツキは頭が痛くならないのか、小さな子供に説明を求められたときに親が「キツツキは頭に衝撃吸収材が組み込まれているから頭痛にならない」とこれまでは説明していただろうが、これからはその説明は通用しなくなるだろう。
進化の観点から、今回の発見は、なぜ、もっと大きな頭と首の筋肉を持つキツツキが存在しないのかを説明するかもしれない。より大きなキツツキは、より強力な突きをすることができるが、大きくなれば今度は脳しんとうに耐えられない可能性が高いのだ。
また、今回の発見は実用的な意味もあるという。技術者はこれまで、キツツキの頭蓋骨格を衝撃吸収材やヘルメットの開発のヒントに使ってきたが、今回の発見は、キツツキの解剖学的構造が衝撃吸収にはそれほど役に立っていなかった事実を考えると、今後は見直しが必要になるだろう。
Van Wassenbergh教授のチームは、最近行った別の研究で、キツツキのくちばしがしばしば引っかかるが、くちばしの上半分と下半分を交互に動かすことですぐに解放されることを発見したと述べている。現在、研究チームは、くちばしの形がどのようにペッキングに適応しているかを研究している。
論文
- Current Biology: Woodpeckers minimize cranial absorption of shocks
参考文献
- Science Alert: Why Don’t Woodpeckers Get Brain Damage? Research Presents an Intriguing New Hypothesis
研究の要旨
キツツキの頭骨は、木に衝突した際の脳の有害な減速を最小限に抑える衝撃吸収材として機能するという仮説があり、衝撃吸収材やヘルメットなどの道具の設計に影響を与えたと言われている。しかし、この仮説は逆説的である。なぜなら、頭部の運動エネルギーを頭蓋骨で吸収または消散させることは、鳥のハンマー打ちの性能を損なう可能性が高く、したがって自然選択により進化したとは考えにくいからである。現在、3種のキツツキを用いたペッキング時の衝撃減速の生体内定量化とバイオメカニクスモデルにより、キツツキの頭蓋骨格はペッキング性能を高めるための硬いハンマーとして使われており、脳を保護するための衝撃吸収システムとしては使われていないことが分かっている。また、脳梁の大きさや形状が頭蓋内圧に及ぼす影響を数値シミュレーションした結果、キツツキの脳は霊長類の脳で知られている脳震盪の閾値以下ではまだ安全であることが分かった。これらの結果は、自然界で最も壮大な行動の1つである頭蓋機能の適応的進化について、現在一般的な概念と矛盾する。
コメントを残す