電話やコンピューター、インターネット接続がもっと速ければと思ったことがある人なら、テクノロジーの限界にぶつかった個人的な経験に遭遇したことがあるだろう。しかし、そんなあなたにも救いの手が差し伸べられるかもしれない。
過去数十年にわたり、私のような科学者やエンジニアは、現代の電子技術やデジタル通信技術の基礎となる電子部品であるトランジスタの高速化に取り組んできた。これらの努力は、特殊な電気的特性を持つ半導体と呼ばれる材料のカテゴリーに基づいている。シリコンはおそらく、この種の材料の最もよく知られた例だろう。
しかし10年ほど前、科学的努力は半導体ベースのトランジスタの速度限界にぶつかった。研究者たちは、これらの材料を通して電子をより速く動かすことができないのだ。シリコンを介して電流を流すことに内在する速度限界に対処するためにエンジニアが試みている方法のひとつは、物理回路を短く設計することである。チップの演算能力を向上させるには、トランジスタの数を増やせばよい。しかし、研究者がトランジスタを非常に小さくできたとしても、人々や企業が必要とする高速処理やデータ転送速度には十分な速度は得られないだろう。
私の研究グループは、自由空間と光ファイバーにおける超高速レーザーパルスを利用して、より高速なデータ転送方法を開発することを目指している。レーザー光は、光ファイバー中をほとんど損失なく、非常に低いノイズレベルで伝搬する。
2023年2月に『Science Advances』誌に掲載された最新の研究では、そのための一歩を踏み出し、電子の移動を電圧ではなく光子に依存する光トランジスターを備えたレーザーベースのシステムを使用することで、現在のシステムよりもはるかに高速に情報を転送することが可能であることを実証した。
超高速光トランジスター
デジタル伝送の最も基本的なレベルでは、信号のオンとオフを切り替えて1と0を表現する。電子トランジスターは電圧を使ってこの信号を送る:電圧によって電子がシステム内を流れると「1」の信号が送られ、電子が流れないと「0」の信号が送られる。
我々の超高速光データ伝送システムは、電圧ではなく光に基づいている。われわれの研究グループは、現在のシリコンの限界を回避するために、最新のプロセッサーの構成要素であるトランジスタ・レベルでの光通信に取り組んでいる多くの研究グループのひとつである。
私たちのシステムは、反射光を制御して情報を伝達する。ガラスに光を当てると、そのほとんどは透過するが、少しは反射する。太陽光に向かって車を運転したり、窓から外を見たりすると、それがまぶしさとして感じられる。
私たちは、2つの光源から同じガラスを透過する2つのレーザー光線を使用している。1本のビームは一定だが、ガラスを透過するビームは2本目のビームによって制御される。つ目のビームを使ってガラスの性質を透明から反射に変えることで、一定のビームの透過を開始したり停止したりすることができ、光信号をオンからオフに素早く切り替えることができる。
この方法では、現在のシステムが電子を送るよりもはるかに速くガラスの特性を切り替えることができる。そのため、より多くのオンとオフの信号(0と1)をより短時間で送ることができる。
私たちはどれほどのスピードで話しているのだろうか?
私たちの研究は、一般的な電子機器を使った場合よりも100万倍速くデータを伝送するための第一歩を踏み出した。電子の場合、データ伝送の最大速度はナノ秒(10億分の1秒)であり、これは非常に速い。しかし、私たちが作った光スイッチは、100万倍の速さでデータを伝送することができ、その時間はわずか数百アト秒(数京分の1秒)だった。
また、その信号を安全に伝送することができたので、メッセージを傍受したり変更しようとする攻撃者は失敗するか、検知されることになる。
信号を伝送するためにレーザービームを使用し、その信号強度を別のレーザービームによって制御されたガラスで調整することは、情報がより速く伝送されるだけでなく、より遠くまで伝送されることを意味する。
例えば、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は最近、はるか宇宙から素晴らしい画像を送信した。これらの画像は、光通信を使って35ナノ秒に1回の割合で、望遠鏡から地球の基地局にデータとして転送された。
私たちが開発しているようなレーザーシステムを使えば、この転送速度を10億倍に速めることができ、より速く、より鮮明な深宇宙の探査が可能になり、宇宙の秘密がより早く明らかになる。そしていつの日か、コンピューター自体が光で動くようになるかもしれない。
コメントを残す