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2030年頃までに10億度を超える水素-ホウ素核融合発電を目指すTAEがGoogleなどから巨額の資金を調達

米国カリフォルニアの核融合スタートアップ「TAE Technologies」は、同社が「Norman」と名付けた最先端の核融合研究炉で摂氏7500万度以上の温度を達成し、プラズマの比類なきリアルタイム制御を実証したことを報告し、次の研究炉である「Copernicus」の建設資金として戦略的投資と機関投資を確保したことを発表した。

核融合プロジェクトの中には、磁場で閉じ込められたプラズマの中で、数億度の動作温度を作り出すことを目指しているものもある。TAE Technologyiesは、更にその10倍の温度を目指し、より安価で簡単、かつ安全な“ホウ素”燃料を用いるつもりのようだ。

2つの原子の原子核を強くぶつけると、融合して別の元素を作ることができる。これを核融合反応と言うが、正しい元素を使えば、融合した原子の重さは、ぶつけた2つの原子よりも軽くなり、アインシュタインの有名なE=MC2の方程式で予測されるように、その質量差がエネルギーとして放出される。C2(光速の2乗)はかなり大きな数字なので、小さな燃料の質量でも大きなエネルギーを生み出すことができるのだ。

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Norman核融合炉の中で作業する作業員(画像:TAE)

しかし、原子核は非常に小さく、しかも正電荷を帯びているので、互いに反発し合い、そもそもぶつけることが非常に難しい。しかし、太陽には巨大な重力と超高温があり、それぞれ原子を中心部に引き寄せ、猛烈なエネルギーで振動させて、ランダムに原子をぶつけ融合させ、さらに熱を放出させている。何十億年も続く、絶え間ない核融合反応を起こすには絶好の条件となっている。

核分裂を用いた現在の原子力発電については、チェルノブイリや福島第一原子力発電所の事故などがあり、人々が安全性への懸念を抱いているが、核融合は原理的には現在の原子力発電所とは異なり、よりクリーンで、原理的には無尽蔵のエネルギーを生み出す夢の技術と言われている。実際に核融合炉は未だ稼働していないが、この分野での進歩は加速しているようだ。

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Norman核融合炉のレンダリング図(画像:TAE)

太陽の巨大な質量と引力の恩恵を受けられない地球上の多くの核融合実験では、その反応を誘発させるために更に高い温度が必要とされる。磁場閉じ込め核融合では、プラズマを摂氏1億度以上に過熱する。熱は原子レベルの運動であり、この運動によってプラズマ中の原子が互いに激しくぶつかり合い、核の反発を打ち消して核融合反応を起こすと期待されている。

ただし、これは燃料にトリチウム(三重水素)重水素を使うことを前提にしている。例としてあげると、国際的な巨大プロジェクトであるITERで実際に取られている方法だ。しかし、トリチウムは放射性物質であるため、原子炉で使用する材料に放射線を当ててしまうという問題がある。また、トリチウムは希少であり、現在世界中に約25キログラムしか備蓄されていないが、ITERではそのほとんどを実験に使用する予定であるとしている。

TAE Technologiesは、この点を解決しようとしている。1998 年にカリフォルニア大学アーバイン校からのスピンアウトとして設立されたこの会社は、Google、Chevron、Goldman Sachs、Microsoft創業者のPaul Allen氏、ロックフェラー家などの投資家から、12 億ドル以上を調達し、既にいくつかのプロトタイプを作成し、サイズと範囲を徐々に拡大している。

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2030年初頭までのロードマップ。Da Vinciのプロトタイプは実際に発電を行う初の核融合炉になるとのことだ(画像:TAE)

Normanと名付けられた5号機は2017年に完成し、3000万℃のプラズマ温度を目標とするように設計された。Normanは当初予測した以上の性能を発揮し、TAEは7500万℃のプラズマを維持できることを実証し、予定より早く会社を設立した。しかし、目標は1億度ではなく、10億度を目指しているという。

TAEが真に実現したい技術は、水素-ホウ素核融合だという。理由は、トリチウムのような希少性、放射能の心配もなく、安価で安全に実現できるからだ。

ただし、難点は、ホウ素はトリチウムよりも大きな原子で、核に正電荷があるため、磁気閉じ込め設計では、融合には、重水素-トリチウムの場合に比べて、更に大きなエネルギーが必要になることだ。その目安が、彼らが目標としている10億度もの超高温なのだ。

TAEの特徴は、プラズマ物理学と加速器物理学を組み合わせた同社独自の先進ビーム駆動型電界反転配置(FRC)で、TAEの優先燃料である水素-ホウ素(別名プロトンボロン、p-B11)とグリッドに統合するように開発されていることだ。これは、CERNの粒子加速器にヒントを得て設計されているという。

CERNのLHCは実に5.5兆度という、まさに天文学的な条件まで粒子を加速することが出来る。TAEはこれをヒントに、その原理の構成要素のいくつかを採取して、それを核融合に応用できないか考えたとのことだ。

1990年代後半になると、チームは理論、モデリング、計算機シミュレーションを十分に行い、いくつかの物理的なプロトタイプに着手するようになった。

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現行世代の粒子加速器(手前の大きな黄色いドラム缶のようなもの)(画像:TAE)

実現のために、TAEは独自の粒子加速器を開発しなければならなかった。それは、同社独自の設計による原子炉の中央の円筒形のトンネルから突起の出た特徴的な外観となっている。

大型ハドロン衝突型加速器の粒子加速器が27kmの長さのリングであるのに対し、TAEのそれはとてもコンパクトだ。

TAEでは、プラズマをドーナツ状に回転させるのではなく、強力な磁気リングで閉じ込めた状態で回転させます。その意味で、トカマクドーナツの一部をまっすぐにしたようなもので、全体を分解しなくても磁石を簡単に取り外したり交換したりすることができ、TAEはチューブの両端に巨大なフィールドダイバータを走らせ、ゴミ箱のように機能して不純物と排気粒子を吸収するという利点があるとのことだ。

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原子炉シリンダーの中央でプラズマが閉じ込められ、回転している場所を示す断面図のレンダリング
(画像:TAE)

第5世代機が設計目標の250%という過大な性能を発揮していることから、TAEはプラズマが高温になるほど、粒子加速器や磁気閉じ込めシステムの性能が向上し、粒子や熱の漏れが少なくなることを発見した。温度が高温になるほど安定するというのも意外かも知れないが、TAEでは当初よりこれを予測していたようだ。5世代にわたるプロトタイプで、温度が上昇するにつれてシステムの挙動が良くなることを示すデータセットを手に入れることができたことも、大きな収穫だという。これによって、水素ーホウ素核融合が可能となる10億度以上も実現できる可能性が高まったとのことだ。

次のプロトタイプである第6世代のCopernicusは、トリチウムに関連する条件を作り出す能力があることを証明するために、この1億〜1億5千万度を達成し、エネルギー収支がプラスになるように設計されている。つまり、Qファクターが1より大きく、使う電力よりも発電する電力が多いということだ。ただし、実際にタービンなどに接続され、電力を出力するわけではなく、センサーに接続されるのみとなる。

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第6世代のCopernicus(画像:TAE)

そして、これが成功したら、いよいよ最終ステップの「Da Vinci」となり、水素 – ホウ素核融合が可能な条件まで挑戦していく。Da Vinciではいよいよ蒸気タービン発電機を動かし、初めての発電機構を備えた物になる予定とのことだ。

とはいえ、TAEの出資者が商業的なリターンを得られるのはずっと先の話となり、出資者にはかなり長期で推移を見守る忍耐力が求められる。

投資家へのプレッシャーを軽減するため、TAEは開発した技術をもとに営利企業をスピンアウトさせた。例えば、粒子加速器は、がん患者のための標的放射線治療装置として再利用されている。また、8万個の電動部品の動作を高精度に同期させる電力ステージングと分配システムは、より優れた、より効率的なEVドライブトレインの開発に利用されている。

当初は、エンジェル投資家や慈善家の億万長者に頼っていたが、今では、Google、住友商事、Chevronなど、技術基盤の進化に戦略的機会を見出す人たちを取り込んでいるとのことだ。

ただし、投資リスクの裏側には、潜在的な報酬がある。豊富でシンプル、かつ安価な燃料を使用し、常温から1000分の数秒で10億度まで上昇し、需要の急増に対応できるクリーンエネルギー技術を所有することができるのである。そのため、タービンを回すのに十分なほど水が高温になれば、すぐに電力を供給することができる。

初期の商業用水素ホウ素原子炉のコストはどうなるのだろうか?結局のところ、すべてが計画通りに進むと仮定すると、2030年代の初めから半ばにかけて、これらのものがエネルギー市場に参入し、安価な再生可能エネルギーにますます基づく電力網を支え、再生可能エネルギーが需要を満たさないときに作動する短期および長期のエネルギー貯蔵・放出設計の範囲に入ることになる。TAEによると、実際に稼働した際の発電コストは非常に低く、1kwあたり6~7セント程度に抑えられるのではないかとのことだ。これは、現在の原子力発電の半額以下となる。

安全性は核分裂に対する核融合の重要な利点の一つだが、彼らの原子炉が太陽の核の40倍近い高温で稼働する計画であることに対して、世論の理解を得ることが重要なハードルになるようだ。実際にTAEに対しては、「10億度なんて、原子炉が溶けて世界に穴が開くのではありませんか?」と言った質問が来るようだ。

これについては、CERNが既に5.5兆度もの高温を発生させていても地球が無事なことを見れば分かるだろう。人々は、原子がどれほど小さいか、そして熱がどれほど速く拡散するかを理解する必要がある。そしてそれを理解させるのも彼らの課題の1つだろう。

熱暴走もなく、メルトダウンもない。水素-ホウ素核融合では放射能もない。核分裂よりも安全なことは明らかだ。しかし、業界全体が今日、正しい規制の枠組みを見出そうと努力している。何が公平で、何が国民を安心させるのか。これについて、各国は取り組みのスピードで差が出てきている。昨年、イギリスではすでに核融合に関する規制が制定された。核分裂とは違うので、別の規制の枠組みが必要だと判断したのだ。しかし、アメリカではまだその段階に至っていない。原子力規制委員会はここ1年以上公聴会を開いているが、核融合炉が核分裂炉の新規設計と同じ厳しいプロセスを踏まなければならないかどうか、まだ議論が続いている。日本でも規制をどうするかについては、まだ議論の段階だ

もし核融合が核分裂と同じ扱いになれば、長くて複雑な承認プロセスによって、核融合エネルギーの商業化を待つのに10年分のお役所仕事が増え、それに見合った価格上昇も予想される。したがって、業界全体としては、政府や規制当局がこのユニークなクリーンエネルギーに早く理解を示してくれることを望んでいる。


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