国際的な研究グループが、DNAで作られたナノメートル(nm)スケール(100万分の1mm)の画期的なナノエンジンを考案した。彼らはこれを複雑なナノマシンの駆動装置として搭載することを計画しているとのことだ。
アリゾナ州立大学分子科学部のPetr Šulc助教授は、ドイツのボン大学のMichael Famulok教授、ミシガン大学のNils Walter教授と共同でこのプロジェクトに取り組んだ。
DNAの化学エネルギーが運動を制御
研究チームは、分子レベルでナノ集合体を設計・開発した。彼らは、DNAを鋳型とするRNA転写を消費するヌクレオシド三リン酸の化学エネルギーによって駆動する、70nm×70nm×12nmのDNAナノマシンを考案したという。この構造はDNAの基本構造単位である約14,000個のヌクレオチドで構成されているとのことだ。
このナノマシンは、化学エネルギーを利用して、制御されたリズミカルな脈動運動を発生させる。この進歩は、ナノテクノロジー、医学、材料科学など様々な分野に応用可能な、精密で制御可能なナノスケールデバイスを作り出す可能性を示した。
「このような大きなナノ構造の動きをシミュレートすることは、私たちのグループがDNAナノ構造の設計とデザインに使用しているコンピューターモデルであるoxDNAなしでは不可能でしょう。化学的に動力源となるDNAナノテクノロジー・モーターの設計に成功したのは今回が初めてです。私たちの研究手法がこの研究に役立ったことを非常に嬉しく思っていますし、将来、さらに複雑なナノデバイスを作ることを楽しみにしています」と、Šulc氏は述べている。
グリッパーのような動き
この研究では、マシンのエンジンは握力を鍛える“グリッパー”のように動作するが、信じられないほど小さく、約100万分の1であることが強調された。このマシンは、2つのハンドルをスプリングでV字型につないだ構造になっている。
科学者たちは、グリッパーのハンドルをスプリングの抵抗に逆らって圧縮することで操作することができた。グリップを離すと、スプリングがハンドルを元の位置に戻すのだ。
Famulok氏は次のように述べている:「RNAポリメラーゼをナノマシンのハンドルの1つに取り付けました。そのすぐ近くで、2本のハンドルの間にDNA鎖も張りました。ポリメラーゼはこの鎖を掴んでコピーします。ポリメラーゼは鎖に沿って引っ張られ、転写されない部分はどんどん小さくなる。これによって2つ目のハンドルが少しずつ1つ目のハンドルの方に引っ張られ、同時にバネが圧縮されるのです」。
ハンドルとハンドルの間にあるDNA鎖は、その末端の少し前に特定の文字列を含んでいる。このいわゆる終止配列は、ポリメラーゼにDNAを手放すように合図する。するとバネは再び弛緩し、ハンドルを離すことができる。これにより、鎖の開始配列がポリメラーゼに近づき、分子コピー装置は新たな転写プロセスを開始することができる。このサイクルが繰り返される。このようにして、私たちのナノモーターは脈打つような動作をするのだ。
気になるのはこのモーターのエネルギー源だが、このエネルギーは、ポリメラーゼが転写産物を生成する際の”アルファベットのスープ”から供給される。これらの文字(専門用語ではヌクレオチド)のひとつひとつには、3つのリン酸基からなる小さな尾がある。既存の文章に新しい文字を付加するためには、ポリメラーゼはこれらのリン酸基のうち2つを取り除かなければならない。これによってエネルギーが放出され、そのエネルギーを使って文字を連結することができる。「私たちのモーターは、このようにヌクレオチド三リン酸を燃料として使うのです。十分な数のヌクレオチド三リン酸があるときだけ、モーターは動き続けることができるのです」と、Famulok教授は説明する。
研究チームは、複雑なタスクを実行できる機能的なナノ集合体を作ろうとした。このようなナノスケールのドライバー・フォロワー・システムは、ナノテクノロジーの進歩にとって効率的であることが証明されるかもしれない。
さらに、化学燃料で駆動するナノスケールシステムは、精密な分子レベルの動きを可能にし、産業を飛躍的に発展させる可能性がある。
「それぞれのレゴブロックの大きさが数ナノメートル(100万分の1ミリメートル)しかないことを除けば、レゴブロックで遊んでいるようなものです。それぞれのブロックを入るべき場所に入れるのではなく、箱の中に入れて、目的の構造物だけが出てくるまでランダムに振るのです」と、Šulc氏は述べている。
さらに、この分野の有望な応用には、診断学、治療学、分子ロボット工学、新素材の構築が含まれると付け加えた。
「私の研究室では、これらのブロックを設計するソフトウェアを開発し、ASUの実験グループだけでなく、アメリカやヨーロッパの他の大学とも緊密に協力しています。この分野が進歩し、新しい先進的な設計を達成し、ナノスケールでの動作に成功するにつれて、複雑さを増すナノ構造の設計と特性評価に我々の方法が使われるのを見るのはエキサイティングなことです」。
論文
- Nature Nanotechnology: A rhythmically pulsing leaf-spring DNA-origami nanoengine that drives a passive follower
参考文献
- Arizona State Univesity: International team develops novel DNA nano-engine
- via Interesting Engineering: Molecular engineers successfully create a working DNA ‘nanomachine’
研究の要旨
分子工学は、複雑なタスクを実行できるナノ集合体のボトムアップ設計において、モジュール化された機能的実体の創出を追求している。このようなシステムには、下流の受動的従動体を能動的に駆動できる、燃料消費型のナノモーターが必要である。ほとんどの人工分子モーターはブラウン運動によって駆動されるが、その場合、少数の例外を除いて、発生する力は非指向的であり、受動的な第2レベルの構成要素に効率的に伝達するには不十分である。その結果、効率的な化学燃料駆動ナノスケール・ドライバー・フォロワー・システムはまだ実現されていない。ここでは、DNAをテンプレートとするRNA転写を消費するヌクレオシド三リン酸の化学エネルギーを燃料として駆動するDNAナノマシン(70 nm × 70 nm × 12 nm)を紹介し、2本の硬いDNAオリガミアームがリズミカルな脈動運動を起こすことを示す。さらに、アクティブ・ナノマシンをパッシブ・フォロワーと単純に結合させ、その動きをフォロワーに伝えることで、真のドライバ・フォロワー対を形成し、作動制御を実証する。
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