生物学的研究のためのヒト組織サンプルの入手は、必ずしも容易ではない。臓器提供や外科手術で摘出された組織から入手するのが倫理的だが、科学者が入手するのはますます困難になってきている。
それは、ヒトの組織サンプルの供給量が限られているからというだけではない。多くのプロジェクトで必要とされる組織サンプルのサイズや種類にも限りがある。そこで私たちは、世界で最も人気のある玩具のひとつである玩具を使い、低コストで簡単に人体組織サンプルを作成できるプリンターを自作することで、この問題に対処することにした。
3Dバイオプリンティングの登場は、組織サンプルの調達の難しさを解決する可能性をもたらしている。この技術では、生きた細胞を含む “バイオインク”をカートリッジに装填する。それをバイオプリンターにセットする。バイオプリンターがプログラムされると、細胞を含んだバイオインクが印刷され、生体組織の複雑な形成を再現する3D構造が形成される。
私たちの多くが研究の大部分で利用しているプレート上で培養する二次元の細胞培養とは異なり、バイオプリンターでは三次元で細胞を培養することができる。そして、その方が人間の生物学の複雑な構造をよりよく再現することができる。つまり、バイオプリンティング技術によって、健康な組織と病気の組織を研究するための、より比較可能なモデルを作ることができるのだ。
しかし、これらの装置は、何百万円、何千万円という、目を疑うような高額な費用がかかるのが問題だ。いくら画期的な技術とはいえ、私たちの研究チームも含めて、そのような費用を捻出できるところはほとんどないだろう。
そこで私たちは、手頃な価格の3Dバイオプリンターを自作できないか、と考えたのだ。答えは「イエス」で、レゴを使ってそれを実現することにした。
レゴをいじったことがある人なら、レゴが非常に安価で汎用性が高いだけでなく、世界的に入手可能な標準的な部品で非常に高い精度で製造されていることをご存じだろう。
また、従来の3Dプリンターの製造にレゴが使われていることも知っているだろうか。しかし、プラスチックから固い3次元構造をプリントするレゴ3Dプリンターの基本概念を、柔らかい生体材料をプリントできるように設計できるかどうかは不明だった。
私たちの研究室で使うには、出力が正確で信頼性が高く、安定していることが必要だ。
私たちは、カーディフのラボの一角で、標準的なレゴブロックとそのメカニカルなサブブランドであるレゴ・マインドストーム、そして研究室によくある装置であるラボポンプを使って、自分たちの手頃でハイスペックなバイオプリンターの製作に取り掛かった。エンジニアと生物学者からなる学際的なチームが協力して、バイオプリンターの設計、エンジニアリング、建設、プログラミングを行った。
500ポンド(84,000円)かけて作られたバイオプリンターは、デリケートな生体材料を作るために必要な精度を実現している。その仕組みは、驚くほどシンプルだ。
ノズルから、細胞をたっぷり含んだゲル状の物質が皿の上に射出される。この装置の心臓部には、レゴ・マインドストームのミニコンピューターがある。この装置は、ノズルを機械的に上下させながら、ディッシュを前後左右に動かして、細胞が詰まったゲルを押し出す。このプログラム可能な動きによって、細胞の層が積み重なり、人間の組織の3D構造を1層ずつ再現していくのだ。
現在、バイオプリンターを使って皮膚細胞の層を作り、本格的な皮膚モデルの作成に取り組んでいる。また、異なるタイプのノズルを使って異なる種類の細胞を印刷することで、組織サンプルにさまざまな複雑性を持たせることも可能だ。健康な皮膚と病気の皮膚の両方を模倣し、既存の治療法を調べたり、さまざまな皮膚疾患を治療するための新しい治療法を設計したりする、エキサイティングな機会だ。
今後の展開
このバイオプリンターは、人間の皮膚の正確な代表モデルを提供するだけでなく、作成した健康なモデルに病気の細胞を追加するために使用することも可能だ。これにより、皮膚の状態がどのように進行するか、健康な細胞と病気の細胞がどのように相互作用するかを研究することが出来る。また、皮膚病がどのように進行し、どのように治療法が開発される可能性があるのかを確認することも出来るのだ。
私たちは、レゴ3Dバイオプリンターの製作方法を詳しく説明し、世界中のどの研究室でもこの装置を再構築できるよう、明確な手順を示している。研究資金が逼迫している今、私たちは、ほとんどの研究者の予算を超える重要な機器に、オープンソースでアクセスしやすく、手頃な価格の代替品を提供しているのだ。
つまり、レゴのバイオプリンターによって、研究者が画期的な研究を行うことができ、それが最終的に生物学の理解を深め、人々の健康をさらに向上させることにつながるからだ。
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