世界初、メタマテリアルを用いて“真の一方通行ガラス”の開発に成功

masapoco
投稿日 2024年2月16日 7:02

アールト大学の研究者らは、片側からは完全にガラスのように光を透過させるのに、反対側は鏡のように完全に光を反射する、まるで魔法のような“一方通行ガラス”の製作に成功したと報告している。

こうした一方からは鏡にしか見えないが、反対側からはガラスのように向こうが透けて見えるものには、「マジックミラー」があるが、従来のものは光が一方通行に通る物ではなく、実際には両方向から光を通す半透明なものであり、ガラスの内側と外側とで明暗差が生じる場合に機能する物だ。そのため、周りの環境を整える必要があったり、透明ガラスの様な透過率は期待出来ない。「しかし、NME(nonreciprocal magnetoelectric)ベースの一方向ガラスは、光が一方向にしか通らないため、明るさの違いは必要ないのです」と、アールト大学の博士課程研究員であるShadi Safaei Jazi氏は述べている。

マジックミラーと言えば、警察の取調室などで利用されている場面が思い浮かぶかも知れないが、実用的な用途はこれ以外にも多くある。その多くはプライバシーの確保にかかわるものだ。「家、オフィス、車の中にあのガラスの窓があることを想像してみてください。外の明るさに関係なく、人々は中のものを見ることができないでしょう」と、Jazi氏は述べている。

この魔法のガラスを製作するために、研究者らは従来の材料から離れ、メタマテリアルを利用する事を考えた。電場や磁場、ひいては光に対する従来の材料の反応は、原子によって決定される。しかし、光メタマテリアルでは、原子の代わりに、自然界ではめったに見られない特性を持つように構造設計できるメタ原子が使われ、ユニークな電磁応答を生み出す設計が可能になり、ナノスケールでの光の精密な操作が可能になる。

最も一般的な形として、磁気電気(ME: Magnetoelectric)効果は、材料の磁気特性と電気特性の間の結合を示す。従来の材料では、光周波数における磁化の影響は無視できるほど小さいが、メタマテリアルを用いれば、光の電気成分によって磁化を誘導し、磁気成分によって偏光を発生させることができる。

これまでの研究で、磁性はマイクロ波周波数で強いことが実証されており、このスペクトル領域で顕著なME効果が生じている。20年にわたる理論化にもかかわらず、その範囲外で動作するメタマテリアルを実現することは、これまで困難だった。

この新しいメタマテリアルは、非相対的磁気電気(NME: nonreciprocal magnetoelectric)効果を利用している。NME効果とは、材料の磁化と偏光特性が光やその他の電磁波の異なる成分と結びついていることを意味する。

「これまでのところ、NME効果は現実的な産業応用には至っていません。提案されているアプローチのほとんどは、可視光ではなくマイクロ波に対してのみ機能するものであり、また、利用可能な技術では製造することができないのです」と、Jazi氏。

アールト大学の研究者たちは、この2つの壁を突破することに成功したと述べている。既存の技術とナノ加工技術を使ってこれらの問題を克服し、従来の材料であるコバルトとシリコンでできた個々のメタ原子が自発的に磁化する3次元光学NMEメタマテリアルの作製に成功したのだ。

研究者たちによれば、メタマテリアル・デザインで作られた一方向ガラスは、プライバシーの保護に役立つだけでなく、既存のソーラーパネルの上に設置することで、現在のデザインでは失われている反射熱エネルギーの多くを取り込むことができるという。また、安全ガラスや車の窓、あるいは薄暗くならない一方通行のサングラスに取って代わる可能性もある。


論文

参考文献

研究の要旨

テレゲン効果としても知られる非相反的な磁電効果は、基礎物理学(例えば、アクシオンや相対論的物質の電気力学)や応用物理学(例えば、マグネットレス・アイソレータ)に関連する多くの画期的な現象を約束する。我々は、可視周波数領域において等方的かつ共振的なテレゲン応答を持つ3次元メタマテリアルを提案する。このメタマテリアルは、ホスト媒質中のランダムに配向した2種類の物質からなるナノシリンダーによって形成される。各ナノシリンダーは、単一ドメインの磁気状態にある強磁性体と、磁気ミー型共鳴付近で動作する高誘電率誘電体から構成されている。提案されたメタマテリアルは、外部からの磁気バイアスを必要とせず、ナノシリンダーの自発磁化で動作する。さらに、新たに出現した磁性ワイル半金属を活用することで、提案するメタマテリアルにおいて、天然物質のそれをほぼ4桁上回る巨大なバルク実効磁電効果を達成できることを示す。



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