現在電気自動車に搭載されているバッテリーとして主流である、リチウムイオン電池は、エネルギー密度の面で限界に近付いている。そこで、次世代のバッテリーとして注目を集めているのが、リチウムイオン電池の10倍の理論容量を誇るという「リチウム金属電池」だ。
リチウム金属電池は、負極活物質として黒鉛電極の代わりにリチウム金属やその合金を用いるものだが、充放電サイクルを繰り返すに従って負極にリチウム金属が樹枝状に析出成長し、セパレータを貫通して内部短絡を生じ、最悪発火に至るのが問題であり、実用化に至ってはいない。
だが今回、スタンフォード大学と米国エネルギー省のSLAC国立加速器研究所の研究者が、リチウム金属電池が短絡して故障する原因を突き止め、今後の電池生産においてこの問題を回避できる可能性を示した。
この発見の結果は、エネルギー密度が高く、急速充電が可能で、不燃性であるリチウム金属電池を、電気自動車に応用するにあたっての主な障害を克服できる可能性を切り拓く画期的なものだ。
今回、『Nature Energy』誌に掲載された「Mechanical regulation of lithium intrusion probability in garnet solid electrolytes」と題する論文で、研究者は機械的ストレス、特に強力な充電時のストレスをリチウム金属電池の故障原因として挙げている。
研究主任でStanford Doerr School of Sustainabilityの准教授であるWilliam Chueh氏によると、「電池を少しへこませたり、曲げたり、ねじったりするだけで、材料にナノレベルの亀裂が入り、リチウムが固体電解質中に侵入し、ショートすることがあります。また、製造時に混入したゴミや不純物でも、故障につながるほどの応力を発生させることがあります。」と、説明する。
固体電解質の原料としてセラミック材料が広く使われるようになったが、その際、パッキングに問題がある。リチウムイオンの高速輸送を可能にし、エネルギーを蓄積する2つの電極を分離するにもかかわらず、その表面には小さなクラックが発生しやすいのだ。
60回以上の実験を通して、研究者たちはセラミック材料に「幅20ナノメートル以下のナノスケールの亀裂、へこみ、ひび割れ」が発生することを証明した。研究チームによると、このような固有の亀裂が急速充電中に開き、リチウムの侵入を許してしまうのだという。研究チームは、固体電解質に電気プローブを当てて小型電池を作り、電子顕微鏡で急速充電をリアルタイムで観察することでこの結果を得た。
次に研究者たちは、イオンビームをメスのように使って、リチウムがセラミック材料のある部分には思い通りに集まり、別の場所ではどんどん深く潜り始めて、リチウムが固体電解質を橋渡しして短絡を起こす理由を分析した。研究チームは、電気プローブの圧力を上げると、「くぼみ、曲げ、ねじれなどの機械的ストレスを模倣して、電池がショートする確率が高くなる」ことを発見した。
共著者であるXin Xuは、舗装された道路にポットホールができる様子になぞらえて、この現象を説明した。雨や雪が降ると、車のタイヤが舗装の小さな凹凸に水を打ち込み、時間とともにひび割れが大きくなっていくのだ。
「リチウムは実は柔らかい素材なのですが、ポットホールの水の例えのように、圧力がかかるだけで隙間が広がり、故障の原因になるのです。」と、Xiu氏は説明する。
そこで研究者たちは現在、鍛冶屋が刃物を焼きなましするように、製造時にこの機械的な力を使って材料を強くする方法を研究している。また、電解液の表面をコーティングして亀裂を防いだり、亀裂が入った場合に修復したりする方法も検討しているという。
新しい固体電解質二次電池の開発に取り組んでいる世界中の科学者は、この問題を避けて設計することが可能になるだろう。
論文
参考文献
- Stanford University: Stanford scientists illuminate barrier to next-generation battery that charges very quickly
- via Interesting Engineering: Scientists solved mystery to make next-gen lithium batteries
研究の要旨
リチウム金属二次電池の固体電解質は、メッキ時にリチウム金属が短絡しやすく、その根本原因は議論中である。本研究では、Li6.6La3Ta0.4Zr1.6O12(LLZO)のリチウム侵入開始に対する局所的および全体的に加えられたストレスの影響をオペランドマイクロプローブ走査電子顕微鏡により統計的に検討した。統計解析の結果、リチウム金属径の関数として侵入の累積確率はワイブル分布に従うことがわかった。マイクロプローブとLLZOの接触力を増加させると、リチウム金属の特性破壊直径が大きく減少することがわかった。さらに、オペランド型片持ち梁曲げ実験により、0.070%の圧縮ひずみを加えることで、侵入の伝播方向を制御することができた。その結果、電解質へのリチウム侵入の根本原因は、電子リークや電気化学的還元ではなく、電流集中やナノスケールのクラックの存在の組み合わせであることが判明した。これらの知見は、脆性固体電解質における電気化学めっき反応の機械的な調整可能性を浮き彫りにするものである。
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