ドイツのライプニッツ大学ハノーバー校、オランダのトゥウェンテ大学、およびスタートアップ企業であるQuiX Quantumの科学者は、1ユーロ硬貨よりも小さなチップ上に完全に統合された量子光源を発表した。
「我々のブレークスルーにより、ソースサイズを1,000分の1以上に縮小することができました。これにより、再現性、より長い時間にわたる安定性、スケーリング、そして大量生産の可能性があります。これらの特性はすべて、量子プロセッサーなどの実世界での応用に必要なものです」と、ライプニッツ大学ハノーバー校のフォトニクス研究所長で、PhoenixDクラスターのボードメンバーであるMichael Kues教授は述べている。
2023年4月17日に『Nature Photonics』に掲載されたこの研究は、量子コンピュータやハッキング不可能な安全な通信チャネルなどの量子技術を実現するための画期的なものとなる可能性がある。
量子光源とは何か?
量子光源は、量子ビットまたは量子ビットとして使用できる光子(光粒子)を生成する。光量子状態の処理には、堅牢でコンパクト、かつスケーラブルであるため、様々な量子応用に最適な集積型またはオンチップフォトニクスが普及している。
しかし、量子光源の大きな課題の1つは、かさばるレーザーシステムが必要な事だ。さらに、外部電源であり、オフチップであるため、量子ビットがノイズの影響を受けやすく、量子源の使い勝手がさらに制限されるのが課題だった。
どのようにしてこの問題を解決したか?
これらの問題を克服するために、科学者たちはハイブリッド技術を用いた。これは、リン化インジウムレーザー、レーザー共振器、フィルターをすべて1つのチップ上に組み合わせるというものだ。この技術は、前述の課題を克服するだけでなく、室温でチップ上の量子システムの開発を可能にし、さまざまな量子コンピュータのアプリケーションの製造コストを下げることが出来るのだ
最先端のハイブリッド技術を用いることで、量子光源を1,000分の1以上に縮小することに成功した。この量子光源は、量子情報を保存するための量子ビットとして使用できる2つの「もつれ」光子を生成することが出来る。
もつれたり相関したりした量子状態は、その間の物理的な距離とは関係なく、つながったり、結びついたりする。つまり、量子ビットを連結することで、量子システム処理を指数関数的に高速化することができる。これは、量子インターネットを実現するだけでなく、量子クラウドをスケーラブルにするための礎の1つとなる。
ハイブリッドフォトニックチップを用いることで、軽量、コンパクト、スケーラブル、かつ商業的に実現可能なもつれ量子光源を製造することが出来る様になる。また、量子至上主義や量子インターネットの実現など、多くの重要なマイルストーンに一歩近づくことが出来るのだ。
この研究は、量子コンピュータの分野だけでなく、暗号技術や金融など、機密情報を守るために安全な通信が不可欠な分野にも大きな影響を与える可能性がある。量子技術の性能が向上し、信頼性が高まれば、コンピューティングやコミュニケーションの新しい時代へとつながっていくことだろう。
論文
- Nature Photonics: Fully on-chip photonic turnkey quantum source for entangled qubit/qudit state generation
参考文献
- Leibniz Universität Hannover: Quantum light source goes fully on-chip, bringing scalability to the quantum cloud
- via The Quantum Insider
研究の要旨
近年、集積フォトニクスは、光もつれ量子状態をコンパクトで堅牢かつスケーラブルなチップ形式で実現・処理するための主要なプラットフォームとなっており、長距離量子安全通信、量子加速情報処理、非古典的計測などへの応用が期待されている。しかし、これまでに開発された量子光源は、外付けのかさばる励起レーザーに依存しており、再現性のない非実用的なプロトタイプデバイスであるため、スケーラビリティや研究室から実世界への応用の妨げとなっている。本発表では、レーザー共振器、バーニア効果を利用した高効率な可変ノイズ抑制フィルター(55dB以上)、自発的4波混合によるもつれ光子対生成のための非線形マイクロリングを統合し、これらの課題を克服した完全統合型量子光源を実証する。このハイブリッド量子源は、電気的に励起されたInP利得部とSi3N4低損失マイクロリングフィルターシステムを採用しており、テレコムバンド(帯域幅〜1THz)の4つの共振モードでのペア発光と、〜80という高い偶然対偶然比でのペア検出率(〜620Hz)といった高い性能パラメータを実証しています。この光源は、高次元の周波数ビンもつれ量子状態(qubits/qudits)を直接生成する。このことは、最大96%の可視性を持つ量子干渉測定(ベルの不等式に反する)および状態トモグラフィーによる密度行列再構成によって検証されており、最大99%の忠実度を示している。ハイブリッドフォトニックプラットフォームを活用した本アプローチにより、スケーラブルで商用利用可能、低コスト、コンパクト、軽量、現場配備可能なもつれ量子源を実現し、量子プロセッサーや量子衛星通信システムなど、実験室外での実用化に向けて真髄を示すことが出来る。
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