これまで理論的な研究によって多くの可能性が提唱されてきたが、重力が量子的であるかどうかを理解するには実験が必要である。

一般相対性理論と量子力学は、自然の基本的な記述である。一般相対性理論は重力を説明し、量子力学は原子や分子の振る舞いを説明する。

基礎物理学における最も重要な未解決の問題は、この2つの理論を結びつける正しい方法、つまり重力が量子レベルで働くかどうかを決定することである。理論的研究は多くの可能性を提唱しているが、重力の振る舞いを完全に理解するには実験が必要である。

ウォーリック大学、UCL、イェール大学（アメリカ）、ノースウェスタン大学（アメリカ）、フローニンゲン大学（オランダ）は協力し、「MAST-QG: Macroscopic superpositions towards witnessing the quantum nature of gravity（重力の量子的性質を目撃するための巨視的重ね合わせ）」と名付けられたプロジェクトを開始しようとしている。これは、重力が量子的に振る舞うことができるかどうかを理解することを目的としたものだ。

重力の量子的性質を検証する

20世紀初頭の物理学者Erwin Schrödinger（エルヴィン・シュレーディンガー）は、1つの粒子が本質的に2つの場所に存在し、同時に2つの異なる状態になりうるという量子の重ね合わせの考え方の問題点を説明しようと、基本的な思考実験を行った。つまり、箱の中の猫は生きていると同時に死んでいると考えることができる。

「シュレーディンガーの猫は、日常的な物体（そしてペットも！）が一度に2つの場所に存在するという量子の重ね合わせの状態にあるとしたら、本当に奇妙なことだと指摘する思考実験です。私たちはこのアイデアの限界をテストしたいのです」と、ウォーリック大学物理学科のGavin Morley教授は説明する。

Morley教授が指摘するように、これまでの実験では、少量の原子や分子を重ね合わせ状態に置くことに成功している。しかし、重力の影響はこのスケールで測定するには弱すぎるため、重力が量子的であるかどうかを判断するには、これらの実験では粒子の数が少なすぎたのである。

この問題を解決するため、Morley氏と彼の研究チームは、10億個以上の原子からなるマイクロダイヤモンドをもつれさせることを計画している。これは十分な質量があり、もつれ合ったダイヤモンドの重力の影響を測定できるはずだと彼らは提案している。そして、もし重力が量子的なものであるならば、もつれたマイクロダイヤモンドから他のダイヤモンドへ、重ね合わせによって重力が “移動”するのを見ることができるはずである。

研究代表者であるウォーリック大学物理学科のGavin Morley教授は、次のように語っている：「原子や分子は、このような重ね合わせ状態にすることに成功しています。私たちが実験に用いるダイヤモンドは10億個以上の原子からできています。重力の量子的性質を調べるために、このようなダイヤモンド同士の重力による相互作用を調べるのです。重力が量子的であるならば、2つのダイヤモンドを量子もつれ状態に導くことができるはずです。量子もつれとは、量子力学特有の効果で、2つのものが日常生活ではありえないほど強く結びつくことです。例えば、2枚のコインがもつれ合うことができれば、両方とも表か裏かを事前に知ることは不可能であっても、コインをひっくり返すと両方とも同じ表が出ることに気づくかもしれません」。

物理学で最も重要な問題

研究チームが調査する実験には課題がある。イェール大学のDavid Moore博士によれば、彼のチームは「重力以外のナノ粒子間の相互作用をすべて排除する必要がある」。重力は非常に弱いので、このような作業は信じられないほど難しいと述べている。

ノースウェスタン大学のアンドリュー・ジェラチ准教授は言う：「これは挑戦的な実験であり、このプロジェクトは、重力の量子的側面のテストを現実にするための重要な技術的課題のいくつかに取り組むための道しるべとなるものです」。

研究チームに有利に働いていることのひとつは、実験が低エネルギーであることだ。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのSougato Bose教授によれば、量子重力の理論を研究している他の研究者は、「ブラックホール付近やビッグバンのような」高エネルギー環境に焦点を当てているからだという。対照的に、もし彼らの実験が成功すれば、「低エネルギーにおけるあらゆる量子重力理論の一般的な予言の検証とみなすことができる」と述べている。

Morley教授はさらに、「私にとって、今物理学で最も重要な問題は、重力の量子的性質をテストできる実験を開発することです。この新しいプロジェクトは、私たちのエキサイティングな旅を加速させるものです」と期待をにじませている。

Sources

• University of Warrick: New project will take a step towards answering whether gravity is quantum
• University College London: New experimental project aims to test whether gravity is quantum