米航空宇宙局(NASA)とインディアナ州の航空宇宙企業IN Space LLCは、NASA初の「Rotating Detonation Rocket Engine(RDRE):回転式爆轟ロケットエンジン」の製作と試験を行った。「燃焼した燃料と酸化剤の波で超音速の衝撃波を起こし、推力を発生させる」というこの先進的なロケットエンジンの設計は、将来の推進システムの構築方法を大きく変える可能性がある。NASAは、この試験を通じて材料の強度を調べることを目的としており、近々、より高出力のものを試験する予定だ。
NASAのSLS(Space Launch System)ロケットやSpaceX社のFalconに搭載されているような一般的なロケットエンジンは、通常の燃焼室を使って推力を発生させる。この燃焼室には、推進剤(燃料)と酸化剤(燃焼物質)が高圧で送り込まれ、そこで火がつけられる。このとき、排気ガスとチャンバー内の生成物のバランス(チャンバー圧)が、エンジンが正常に作動するか、あるいは排気をタンクに戻すかどうかを決定する重要なポイントになる。
これは「デフラグレーション」と呼ばれるもので、専門用語では、燃焼反応による排気や副生成物が音速より遅く移動することを指す。同じように、副生成物が音速よりも速く、あるいは超音速で移動することを「爆轟」という。このとき、副生成物は音速よりも速く、つまり超音速で移動するため、ガスが媒体の粒子を励起し、さらに大きな衝撃を与える。例えば、トリニトロトルエン(TNT)の爆発は、副生成物である水、水素、一酸化炭素などが空気中で音速よりも速く移動するため、爆発となる。このため、爆発とともに特徴的な衝撃波が観測されることもある。
今回NASAが試験を行っている、回転爆轟式ロケットエンジン(RDRE)は、起爆の原理を利用して燃焼室内に自立圧力を発生させ、燃費向上や高出力化につなげるものである。このようなエンジンでは、燃焼生成物は円筒形の燃焼器、専門的にはアニュラスと呼ばれるものの中を移動する。この燃焼器の形状によって、爆轟による圧力波がエンジン内を旋回し、波が自分自身を「追いかける」現象が顕著に見られる。 その速さは1秒間に数万回転するほどで、デフラグレーションに比べ燃料のエネルギーを推力に変換するのに適している。
マーシャルの東試験場で2022年に実施されたRDREの高温燃焼試験のデータは、アラバマ州ハンツビルのNASAマーシャル宇宙飛行センターと、インディアナ州ウエストラファイエットの主要協力企業IN Space LLCのエンジニアによって確認されている。エンジンは十数回、10分以上にわたって始動した。
これは、RDREという、最先端のアディティブ・マニュファクチャリング(3D印刷)、設計、製造プロセスを用いて構築されたハードウェアが、爆発による高熱・高圧環境に耐えながら長時間機能することを証明し、試験の主目的を達成することに成功したことを意味する。
RDREは、フルスロットルで動作しながら、この設計では過去最高の圧力定格を達成し、平均チャンバー圧力622ポンド/平方インチ(4.6ニュートン/mm2)でほぼ1分間、約4000ポンド(17.8キロニュートン)の推力を発生させた。
RDREは、粉末床溶融積層造形技術とNASAが開発した銅合金GRCop-42を使用しており、過酷な状況下でもオーバーヒートすることなくエンジンを稼働させることができるようになっている。
粉末溶融積層造形法(PBF)は、レーザーや電子ビームを使って金属やプラスチックの粉末を連続的に溶かし、融合させる積層造形(AM)プロセスの一種だ。このプロセスは、通常、複雑な3次元部品を高精度かつ高精度で製造するために使用される。
PBFで使用される粉末は、金属(チタン、アルミニウム、ステンレスなど)、プラスチック(ナイロン、ポリアミドなど)など、さまざまな材料で作られている。PBFは、航空宇宙、医療、自動車産業で、最終用途の部品の試作や製造によく使われている。最も一般的なPBF技術には、選択的レーザー溶融(SLM)と直接エネルギー堆積法(DED)がある。
今回の試験では、ディープスロットリングと内部点火に成功し、これも大きな成果だった。この技術の実証に成功したことで、NASAと民間宇宙機関は、より多くのペイロードと質量を深宇宙へ輸送することが可能になり、宇宙探査の持続可能性を高めるための重要な一歩となった。
RDREの最近の成功を受けて、NASAのエンジニアは現在、完全に再使用可能な1万ポンド(4,536kg)のRDREを建設し、その性能を従来の液体ロケットエンジンと比較するために取り組んでいる。
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